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提供機能の優先順位を判断するための2つのプロセス

こんにちは!UXデザイナーのマナです。本記事は「グッドパッチ式UXデザイナーの実践知」という連載の第2弾です。

新規事業開発でも既存事業のグロースフェーズでも、様々な機能を1度に実装したい状況になることは多いのではないでしょうか。
クライアントワークの現場でも、プロダクト開発チーム内で、盛り込みたい機能はとにかくたくさん考えられているものの、どうやって優先順位をつけていいかわからない状態に陥っている状況が散見されます。
また、プロダクト開発チームよりも、実際のユーザーに接することが多い営業やカスタマーサクセスに関連する部署のメンバーの声の方が強く、ユーザーがその場の状況で「こうなってほしい」と言った要望をそのまま機能に反映させようとする状態になっていることもよく見受けられます。

このような状態に至る原因は様々に考えられますが、大きな要因の1つとして、盛り込みたい機能が多々存在する中で、どの機能を優先して実装するかという判断基準が明確でないことが挙げられます。
このような状況に対し、グッドパッチが実際に担当したプロジェクトで優先順位をつけるために実施した2つのプロセスをご紹介します。

<こんな方におすすめ>
・特定のフレームワークを用いて機能の優先順位をつけるやり方は知っているが、そのやり方でうまくいくのだろうかと悩んでいる方
・定量的なデータから機能の優先順位をつけたいと考えている方
・ユーザー目線での優先順位付けをしたいが、具体的な方法がわからない方

↓連載の第1弾の記事も気になる方はこちらから↓


1.グロースサイクルとユーザーストーリーマッピングを組み合わせて使う

1つ目は事業指標とユーザー体験を統合して検討する方法です。事業とユーザー体験の両面から検討を行うことで、事業インパクトの大きさとユーザー価値の大きさのバランスを取りながら機能の優先順位をつけることができます。

このプロセスではグロースサイクルとユーザーストーリーマッピングというフレームワークを利用します。
まず、今のフェーズで一番伸ばすべき指標と、それを伸ばすために重要となるコア体験の全体感を可視化することを目的として、グロースサイクルを作成します。グロースサイクルとは、事業成長における持続的な価値循環を作るための設計図のことです。
具体的には、事業上で達成したい効果(「体系化されたナレッジが増える」「ナレッジシェアが増える」など)を要素としてプロットし、各要素を矢印で繋ぐことで価値循環を表現します。各矢印は事業上のKPI(「体系化されたナレッジ数」「体系化されたナレッジがシェアされた回数」など)を表します。
グロースサイクルの作成にあたって、プロダクトオーナー(PO)も含めたチーム全体で議論を行いながら合意することも重要です。

グロースサイクルの例
引用元:Goodpatchが実践するサービスデザインとは?vol.2

次に、作成したグロースサイクルを元に、ユーザーストーリーマッピングを行います。
ユーザーストーリーマッピングでは、サービス利用体験の流れを横軸に、その各プロセスで実現する要件や機能を縦軸にプロットします。これにより、ユーザーのサービス利用体験を網羅しながら、サービス開発に関わるメンバーが、実現する価値や優先順位を把握したり議論しやすくなる効果があります。そのため、プロダクトが提供する要件・機能の中で最初のスコープに何を収めるかを、ユーザーの体験の流れに沿いながら議論できるようにするために、よくユーザーストーリーマッピングが用いられます。

ユーザーストーリーマッピングの例
引用元:40人以上のオンラインカンファレンス運営のコミュニケーションを促進。DesignshipのStrap活用事例

最後に、ユーザーストーリーマッピングに優先順位をプロットしていきます。
グロースサイクルで、優先度が高いと考えられるものに対応する機能を優先度高とします。また、このタイミングで、体験としての優先度のほか、実装コストや事業戦略上の優先度なども判断軸に追加します。
機能毎の実装コストなど、他の判断指標を割り振ることで、そのフェーズでどこまでの機能を実現するかをより素早く判断できるようになります。

このプロセスを経ることにより、ユーザーにとって価値が大きく、かつ、事業にとっても大きなインパクトをもたらしうるコアとなる体験の機能を手厚くするなどの判断ができるようになります。
また、機能の優先順位をつけることができるという点以外にも、事業指標とユーザー体験を統合して検討することのメリットは存在します。

例えば、グロースサイクルとユーザーストーリーマッピングを行うワークをすることで、ユーザーのコアとなる体験に軸を置いた価値ベースでの議論をチーム内で行うことが可能になります。つまり、中長期的なユーザー価値と事業利益を見比べながら、どのようにバランスを取っていくかということを議論する土台が作られます。
事業指標とユーザー体験を統合して検討するというプロセスを経ることは、議論の参加者だけでなく、議論に参加していない方に決定内容を伝える際にも、納得感を持って受け入れてもらうことへ繋がります。

2.狩野モデルを用いた調査を行う

2つ目は狩野モデルを用いた定量調査を行う方法です。
狩野モデルとは、顧客満足度に影響を与える製品やサービスの品質要素を分類し、それぞれの特徴を記述したモデルです。
定量での調査結果が得られることから、どの価値を優先的に提供していくかという意思決定を素早く行うことができます。
客観的な指標がないとMVPを判断することが難しいほどに、盛り込みたい価値・機能がとにかく多い状況においては、1つ目に紹介した「グロースサイクルとユーザーストーリーマッピングを組み合わせて使う」手法よりも、こちらの方法が有効だと考えられます。

狩野モデルは、以下の5種類の品質から構成されます。
・魅力的品質:顧客にとって必須ではないものの、魅力と感じる品質。その品質が充足されていれば顧客の満足度は高まるが、不充足であっても満足度は低下しない。
・一元的品質:満たされれば満たされるほど、満足度が高まる品質。その品質が充足されていれば顧客の満足度は高まり、不充足であれば満足度は低下する。
・当たり前品質:満たされているのが当たり前だと顧客に捉えられている品質。その品質が充足されていても満足度は上がらないが、不充足であれば満足度は低下する。
・無関心品質:顧客がほとんど関心を持たない品質。その品質の充足・不充足が満足度に影響しない。
・逆品質:顧客が求めていないどころか、充足されると逆に評価を下げる品質。その品質が充足されると顧客の満足度は低下する。

狩野モデルの概要
引用元:ユーザー視点テスト「妥当性評価」における「狩野モデル」を解説

これらの5種類の品質の考え方に基づいて、アンケート項目を作成していきます。
具体的には、特定の価値・機能があったら気に入るかどうかを聞く質問(充足質問)と、特定の価値・機能がないと気に入らないかどうかを聞く質問(不充足質問)に対して、それぞれ「気に入る」「当たり前」「何とも思わない」「仕方ない」「気に入らない」の5つの回答から選択する形でのアンケート項目を作成します。
アンケート項目の作成に先駆けて、今回のフェーズでどのような課題を扱い、プロダクトとして何を達成するかという指標と、それを目指すための観点を事前に整理します。観点が複数存在する場合は、チーム内で議論を行い、特に優先度が高いと考えられる観点を決め、その観点における課題や提供価値を深掘りした上でアンケート項目を作成します。このアンケート項目作成にあたってはUXデザイナーが動くだけでなく、PdMの意向も組み入れて議論を行うことも重要です。
なお、通常のアンケート調査と同様に、アンケートを実施すべき対象やアンケート数などは、調査の目的やサービスの性質などによって適切に設定する必要があります。

アンケートの回答を得た後は、充足質問と不充足質問の結果を掛け合わせて、顧客にとって特定の価値・機能がどのような品質として捉えられるかを確認していきます。

狩野モデルを用いた質問と結果の分類
引用元:【ECについてのアンケート調査#02】狩野モデルを用いてECショップの機能・サービスの評価を調査してみた

例えば、回答者100人のうち「当たり前品質」と評価した方が30名、「一元的品質」と評価した方が50名、「魅力的品質」と評価した方が20名いる価値/機能について1つに分類するのであれば「一元的品質」であると結論づけることができます。
また、他の価値/機能に関する回答とも照らし合わせることで各品質の中でも相対的に優先順位をつけることができます。
このようにして、どの価値・機能がどの品質に該当するか、および、各品質における価値・機能の優先順位を定量的に可視化した上で、具体的にどの価値や機能をそのフェーズで実現していくかをプロダクトマネージャー(PdM)にて意思決定します。
例えば、「まず運用に不可欠な機能を優先する」という決定を行うのであれば、当たり前品質に該当する中で優先順位が高いものから実現することになると考えられますし、「プロダクトの独自性を高める機能を優先する」という決定を行うのであれば、魅力的品質に該当する中で優先順位が高い、かつ、競合製品に存在しないようなものから実現することになると考えられます。
このように定量的なユーザー調査を行うことで、最終的な意思決定を素早く実施するための根拠を集めることができます。
こちらも、ユーザーへのアンケート結果を基礎にしながら、事業側の目線を把握しているPdMが優先順位を決めるプロセスなので、事業・ユーザー両者の目線を取り込んで決定していきます。

まとめ

新規事業開発でも既存事業のグロースフェーズでも、実装したい機能がとにかくたくさん存在し、チーム内もしくはチーム間で認識を揃えることが難しい時には、どの機能を優先すべきかの判断軸を作ることが重要です。
今回は、事業指標とユーザー体験の両方を拠り所としながら決定していく方法と、狩野モデルなど、より客観的・定量的な指標に基づいて様々な機能を整理しながら、最終的に事業目線も含めつつ判断する方法を紹介しました。

今回は上記2つの方法を取り上げましたが、その他にも、状況に応じてサービスに関係する方々の認識を揃え、実装すべき機能の優先順位を決めていくための方法は様々に存在します。
グッドパッチのUXデザイナーは、ユーザーの体験設計だけでなく、そのサービス・組織の状況に応じた手法を提案し、アウトプットに落とし込みながら、サービス開発を推進できます。
サービス開発に少しでもお悩みがある方はぜひご相談ください!


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