《かりん、未.》

 つい真似したくなる人。皆さんも身近にいらっしゃるのではないでしょうか。美しかったり、かっこよかったり、優しかったりするその人に、少しでも近づきたい気持ちから、無意識に同じことをしてしまうという方が。

 今年初めて「花梨(かりん)」を煮たのです。こぶしくらいの大きさのレモンイエローのその果物は、晩秋から初冬にかけてが旬。生で食べるとえぐ味のあるのですが(実際に口に入れてみたら「ほー、渋い!」となりました。)、ジャムやシロップ漬けにすることが定番となっています。これが喉にもいいというのです。


 さて、八百屋さんに行くと、二個入りの花梨がぽつんと置かれているのが目に留まります。「これが花梨なんだ。」と驚いたのは、キャラメルのような姿しか見たことがなかったから。それを作っていたのは、わが祖母でした。何時間も煮詰めたという花梨は、そういえばいつも冷蔵庫に入っていたのです。

 お節も、天ぷらも、ビーフンも、なんでも祖母の味を思い出しながら作るわたし。今回も祖母の作ってくれていた花梨の「飴」を再現してみたいと、彼女に作り方を聞きます。ところが返ってきた答えは、そのまま食べたらいいよというもの。認知症のある彼女は、花梨のレシピどころか、花梨の存在そのものを忘れてしまっていたようでした。

 それでも、今の時代は検索するとレシピにたどり着ける時代。初心者でも作れそうな「コンポート」に変更し、お料理を始めます。やわらかな色合いの見た目とはうらはらに固い花梨の実は、包丁を入れるのに思わぬ苦労が。さらに、真っ黒のつぶつぶの種を取り出し、幅2cm、厚さ5mmほどに切り分けます。

 これがかぶるくらいのお水と、お砂糖をたっぷりお鍋に入れ、煮始めます。レシピ通り20分くらい経つと、すっかりオレンジ色に染まっている花梨。お花のようないい香りに「できたかな。」と思い、試食してみるまだ渋いのです。甘さが足りなかったようで、ありったけのお砂糖を足し、再び煮ます。アクを取りながら眺めていると、少しずつあの祖母の作っていた飴のような赤茶色になってきました。

 祖母と母にも味見をしてもらいます。「おいしいよ。」という祖母に対し、母はちょっと渋いかもと本音を。実際ほんのりえぐみが残っていたのです。まだ花梨の煮方は勉強しないとなと思いつつ、ヨーグルトに入れてみるとまろやかに感じられたので今回はよしとしようと思い、結局はジャムになった花梨を瓶に入れ、冷蔵庫へしまうことに。



 そうなのです。いつもこうしてつい祖母の真似をしてしまうのです。彼女の作ってくれたお料理が大好きで、それを大変そうな顔ひとつせず、手際よく作る彼女の姿も大好きだったから。

 今は食べる役に回ってくれている彼女ですが、なんでも「おいしい!」とぱくぱく食べる姿もまた真似したくなることのひとつ。花梨の煮方に限らず未熟者のわたしには、まだまだ祖母に隣にいてもらいたいなと想うのです。




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