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しあわせな国デンマークの教育から得るヒント

5月に会場提供いただいたWORKMILLさんで開催された教育イベント備忘録と感想。mormormor(三人のお母さん)のチームで、デンマークで結婚出産を経て教育領域(保育園,自閉症支援,特別支援学校の美術教育)で働くママチームの話を聞きにいった。彼らはデンマークに視察に来る日本人の案内や対応が増えていく中で、逆に自分たちの里帰りシーズンを活かして日本にいる人たちに発信したらいいのではないかとこの活動をしているとのこと。

三人三様のお話を聞いて思ったことを書きたいので概要を少し。

1: 選ぶをキーワードに考える教育と暮らし

デンマークの高校では、卒業式のときステューデントハットを貰い、その後1ヶ月程度かぶったまま過ごす。それを見た道行く人からおめでとうと声をかけられる。卒業式当日は可愛いトラックにみんなが乗ってクラスメイト全員の家を回る。それぞれの家族が待ち構えるが、巡回するから各家庭で過ごすのは15分程度。(16歳からお酒が飲めるので、みんなで飲む。)

「選ぶ」というキーワード
歴史において国を失った経験から、政治を自分たちで選ぶことを大事にしている。 それと同じように、自分で選ぶことや決めることを大事にしている。個人についても、国を含む組織についても同じように考える。

「選ぶ」とは自分の人生を決めること。
その積み重ねがアイデンティティーの形成や物事の判断ができるように培われていく。年齢障害に関わらず子どもも意思決定行うが、内容によって、自分が決めるか、親と決めるか、先生と決めるかは変わる。それは特別支援学校でも同じで、ノーマライゼーション発祥の地として、やりたいことを決めるシーンを意識的に作ったり、医療ケアやレスパイトも権利として受けながら、自主決定ができる。

みんなで「選ぶ」
リーダーの退職に伴って、同僚が一緒に選ぶ
求人広告には「仕事内容・条件」と「職員が求めるリーダー像」が掲載される。自分たちが考えた「働く喜びを感じられるリーダー」という案を求人募集に書く。面接もリーダーサブリーダー・民間リクルーター・保護者代表・教員同僚が行なって合意形成を取る。

「選ぶ」を尊重する
王子の個人の意思として最期の時を妻と息子と過ごした。かつ、代々王族が埋葬される大聖堂を本人が拒否し、結果として本人の希望通り、住んでいたお城と海に散骨された。

大人になる。自分で選ぶ。
ティーンエイジャーは自分で決めたがる。大人になるとは、選ぶ自由・責任・義務がセットで付いてくるもの。自分は大人だと思っているティーンエイジャーと責任をまだ持つ親が根気よく対話し、教えながら、親子から大人同士になるという関わりの変化を迎える。

みんなで選ぶ選挙
デンマークにも福祉・医療・学校制度にも課題はあるし、桃源郷ではない。語学学校でクレームレターや新聞の投書欄を書く練習をさせられた。自分の周りに問題が起こったら抗議文や必要あればメディアに伝えることが権利と義務として必要。
労使交渉が難航したら、ミーティング・ストライキの準備やデモがある。大人だけでなく、学生が学校に対してデモをすることがある(食堂が美味しくない!とか市庁舎前ででもする。その学校の元先生だった市長に声が届いた)
投票率は高いが、普段から身の回りのことを自分ごととしているし、自分の選択をしている。
知り合いがたくさん立候補する。知り合いの顔を選挙ポスターで見る。文化センターやショッピングセンターで有料のディスカッションも参加者は多いし、開票日は7−9年生(中学校)が夜みんなで集まって学校で選挙速報を見ていたりする。小さい頃から選ぶ権利をもち、経験し、尊重している。意見をはっきり持ち、他人と違う意見でもいう。相手の意見も受け入れられる。

人生を選ぶ権利
学ぶ権利もある分、選択肢が多いがゆえの難しさもある。自分を幸せにしてあげられるのは自分。

2:誰もが自分らしく生きる

子どもは市民の一員である。
可能性や素晴らしい個性にあふれた一人の人間である。0-2.5歳までの保育園と2.5-6歳の幼稚園を合わせた統合保育園(レッジョエミリア保育実践)の話。

特徴1ペタゴジスタとアトリエスタの存在
特徴2創造性育む教育
特徴3自主性と協調性を育みテーマ活動
特徴4ドキュメンテーション活動記録

主役はあくまでも子ども
ペタゴー(社会生活指導員)は見守り、助言や手助けをする。その中でコミュニケーション能力や協調性、思考性表現力が育まれる。大人が子供に何かを教えるという概念をはずし、大人と子どもがともに学ぶ。

ペタゴーは年に数回外部講師から研修を受ける。イタリアにはアトリエスタ(芸術指導員)がいるがデンマークにはないため、講師を呼び、テーマに基づいて実践的な研修を受ける。自分たちも絵を描いたり、展示方法を一緒に考えたりしていく。講師は苦手な先生たちにも褒めていく。様子を観察しているからわかることを、大げさではなくまっすぐに伝えられる。それによってどうやったら気持ち良く取り組めるのか、子ども側の視点を疑似体験できる。その後実際に子ども向けに講師が教える場でも一緒に実践する。
講師派遣してもらうだけでなく、レッジョエミリア研修センターに2名ずつ毎年派遣される。新たな学びを経験できるし、現場に戻ると一層強い気持ちを持って取り組むことができる。

子どもたち主体の活動設計
0-2.5歳は言語化できないところがあるので、子供の興味に気付き、興味に耳を傾ける意識を持ち、興味に合わせたテーマで展開していく。

5週間ごとの活動
自然と自然現象・文化と文化的価値・身体と動作の3種類のサイクルを回す。数名ずつのグループに分けて行う。グループが活動している間は、他のグループの子達は園庭で遊ぶ。
活動に参加しないという選択肢も取れるし、熱中してる子がいたら延長させてあげたりもする。子どもたちが選ぶことができる。人と活動作品数が違っても、それを保護者もペタゴーも園長も理解している。信頼されているから働きやすいし、より子どもたちに寄り添ったことができる。

褒め方、伸ばし方
具体的に言葉にしながら、承認する声かけが当たり前のように浴びられる。比較したり「上手」ということで苦手を意識させたりすることがないよう、優越や競争を煽らない。だから学校に上がってからも、テストをしない。自分の意見を伝え、相手の意見を聞き、答えが一つではない。それを楽しめるし自主的に学べる。保育園も一緒。その時間、瞬間を仲間と共有することに価値を見出す。どうしたいのか。なぜ。何を。それを考えることを通して自分らしさを知り、自分らしい生き方ができる。
デンマークが誇るおもちゃであるレゴの映画では、完璧にこだわりルール通りに作る父親と自由にレゴを組み立てる息子が出てくる。やりたいように世界を作る。それが楽しいことが大事。

3:しあわせを感じる力、育てよう

生活水準は高いけど、幸福を感じていない人が多いのが日本人。デンマークでは満足やしあわせを感じることができているのはなぜか。3つの要素があるのでは。

1.つながる力:
体のふれあいを通して心がつながる

地域の学校で子供達同士がマッサージをし合うという授業があった。いじめがなくなるという効果もある。スヌーズレンルームという部屋もあり、感覚刺激を行なったり気持ちを落ち着かせたりする部屋だが、リラックスだけでなくコミュニケーションを取るためのレクリエーションルームとしても機能する。

信頼と尊敬の関係を構築する
マッサージやスヌーズレンルームや本人が一緒にいて楽しいという時間を共に過ごし、一緒にいて楽しいと思える相手になっていくようにする。自閉傾向の特性が強い子とも、本人の好きな状況で過ごす時間を重ねることで、ストレスコーピングを一緒にできるようになったりする。

ひとごとは自分ごと、自分ごとはひとごと
選挙の話は夕飯の話をするぐらい気軽に行う。勝つ負けるとかじゃないと思っているからできる。決定までのプロセス、関わる全ての人が丁寧にコミュニケーションが取れることが民主主義だという理解がある。
学校での担任クラスを決めるプロセスもすごく丁寧に担任とリーダーと職員の面談や聞き取りが繰り返し行われる。世の中に起こっている物事を自分ごととしていることは、自治問題に詳しいとかじゃなくて、今ここで自分の周りの出来事や自分自身のことに、自分で決めたことに責任を持つこと。人生の舵取りは自分でする。
自立とは、一人で立つことではなく、自分の周りに豊かな人垣をつくっていくこと。周りの人と地域とつながっていくこと。

2.感動する力
デンマーク人は、感動を感じるレベルが低い。
ソーセージの匂いに感動しちゃう。誰でも、無条件に感動できる場面があるはずだけど、忙しかったり疲れたりすると気づけなくなっちゃう。今の自分の体験に意識的に注意を向け、言語化してしあわせを感じることができたら、もっと感動する機会自体が増えるはず。

驚きと感動の共有
ブランコで見てみて!と言われた子どもに親がどう反応するか。「上手ね」とかじゃなくて、その子の気持ちに寄り添って一緒に言葉にしていく。良い悪いの視点ではなく、感動を共有共感していく声かけができるか否か。

新しい考え方から新しい可能性が生まれる
A:積み上げ思考 forecasting approach
→進もうとした道に壁が立ちふさがった時、立ち向かえなくなるデメリットがある。考え方ややり方を正しいと思い込んでいると言う意味で思考が停止している。本質的に求めていたものじゃない所にフォーカスしてしまっていることに気づけない可能性がある。
B:未来逆算思考backcasting approach
理想の未来を設定し、それに対してスモールステップで進んでいく。試したことがうまくいかなくても、それはそれで体験としてステップとして捉えることができるし、新しい考え方をすることで新しい可能性に気づくことができる。
どちらも取り入れるとより良い。自分が正しいと思い込まないで、柔軟に行き来しながら多面的な考え方をしていく。

3.自分を愛する力
セルフスティーム(自尊心)
グルンドヴィ(アンデルセンと並んで有名なフォルケホイスコーレの始まり。現実の世界へ通じる「生きるための教育」)の学校は、17歳以上なら誰でも入れるし、試験はない学校。自分のことも他人のこともそのまま受け入れる寛容さが身に付く。

移民率11%なので、学校でもクラスに3人くらいはいる。自分の持っている気質や性格、文化を受け入れることで、他人となぜ摩擦が起きるのかわかる(比べるなら、ただ目の前の他者と自分を比較するのではなく、前提に本来こうありたいと言う自分の姿と先に向き合うことが必要)自分の軸を持って状況に変を起こすことができるようなり、 act not reactになっていく。
他者との繋がりを感じることで相互理解できる。それを出発点として、結果自立心の向上や自身自尊心の向上に繋がる

こころを育てる教育
孤独を感じる子供は日本には多いとされている。つまり、人との繋がりが不足している・切れている。それを修復していくために、まず自分と自分自身との関係を修復する必要がある。学科教育以前の部分に注目するべきなのでは?
家庭は、学びの場であり、自由で活発で自然な会話を生み、子供たちの想像力と学びたい欲望を育むとされている。親にとっても子どもにとっても、家庭は学びの場であり、また教育とは本来幸せになる方法を学ぶこと。

ヒュッゲで心に余裕を作る
HUGGE

人によってホッとする瞬間は違う。その、自分にとってホッとする時間や空間を大切にすること。
例えば、自閉傾向のお子さんは曖昧なことが苦手なので、休憩の時間をどう過ごすかが難しい。でも、その子にとってヒュッゲを感じる時間やその選択肢自体を増やしていくことで、幅が広がって行ったりする。
楽しさ・しあわせを感じていないと、何も学ぶことができない。余裕が大事で、余裕がない場所には何も入ってこない。デンマークの学校には、職員専用の高級マッサージチェアが学校にあったりもする。大人がしあわせじゃないと、子供をしあわせにできない。サポート側のヒュッゲも大事。幸せって追い求めるのではなく、感じるものなのかもしれないなと思っている。

まとめ・感想・自分の宿題

選択するという自由と権利と責任に対して、子どもの頃から当たり前に向き合う環境を作ることが、いい意味で自立した大きな国という組織をつくりあげていく。
子どもには、大人から良い悪いを判断される必要はなく、自分の感情・感覚を実感する経験の中から自分を知り、他者を知り、社会と生きていくすべを学ぶ。
他者からの判断や比較を主軸に置かないからこそ、自分と違う意見や嗜好を受け止めることができ、多様性を受け入れる土壌が生まれる。

感想
大人が何かしてあげる、いい教育を作ってあげるというスタンスを捨てる必要があるなと感じた。特に特別支援領域においては、「ーーしてあげる」「ーーができるようにする」という視点に溺れがちだし、支援者側が支援計画を立てて主体的に進めていく必要はもちろんあるが、それと同時に子ども本人の「好き」「楽しい」とか、こう考えているみたいなものをちゃんと真ん中に置けるよう、親や先生や支援者の心のゆとりと構え方も必要かもしれない。

自分の宿題
「デンマークがいい」「レッジョエミリアがいい」みたいな話ではなく、今指導や支援に取り入れられることや、今後中長期的にチャレンジするべきことは何なのか、人と話して整理し、自分のプロジェクトでできることをまず子どもアイデアソンあたりからやってみる。

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シビックテックのCode for Japanで働きながら、小児発達領域の大学院生をしながら、たまにデザインチームを組んで遊んでいます。いただいたサポートは研究や開発の費用に充てさせていただきます。