【忘れられないお客様】 キャバクラで出会った余命3か月のおじさん
20歳で結婚してから31歳まで専業主婦。
夜の世界とはまったく縁がなかった私が、離婚後キャバクラで働いていたときに出会った方のお話です。
人生の谷間でもがく私とおじさん。不思議なめぐり合わせでした。
そのタイミングで彼と偶然会ったのは必然のような気がしました。
お会いしたのは一度きり、お酒の場での数時間の出来事ですが、ずっと私の深いところにしまわれ、折に触れては思い出します。
私の大切な思い出なので、今回は有料記事とさせていただきます。
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かれこれ7年ほど前。
離婚後、生活苦のなか夢を追いながら夜の店で働いていた頃のこと。
店の名は「微熟女」。「美」ではない「微」である。
20代から40代の女性がいますよ、という意味だと思われるが、働く身としてはなんとも微妙な気持ちだった。
とりたてて何があるわけでもない○○駅のそばで、ひっそりと営業している。
「おいちゃーん」
そうよばれているのは、スタッフの46歳、水商売歴18年の黒服さん。
顔はこわもてで、ヤクザのような風貌だが
「おいちゃん」と「きもい」という言葉が大体セットで使われるほど、女たちから虫けらのような扱いを受けている。
おいちゃんは水商売歴18年にも関わらず
お店が混みだすと、汗をダラダラ額から垂れ流しながら、客席の間を走り回り「ラストオーダーですが、何かご注文ございませば!」
などと、独自の日本語を編み出すテンパり具合なのである。
店長は何をしているかと思えば
その姿をみることは滅多になく、目を離すとすぐにプラッと抜け出し麻雀に行ってしまうという具合で、ツチノコ並みに珍しい存在と化している。
個性的な面々が集まる、キャバクラとスナックの間のような人間くさいこの店を、私はそれなりに気に入っていた。
その日は、お客さんの入りが少なかった。
暇を持て余し、キッチンでビールを飲む。
「おなかすいたな・・」と
亀梨似の黒服さんに訴えると、奥からごそごそと燻製チーズとジャーキーを出してくれた。
見ると封があいていて、輪ゴムでくるっと簡単に巻かれている
「開いてるけど・・いつの?」
「さあ、昨日じゃないっすかね」
「なら、いただこう」と、ぱくりと口に入れたとこで
「あ、それ、俺のつまみっ」と
後ろからおいちゃんの声が聞こえるが、構わずいただく。
少し腹の足しになった。
ほろ酔いで、楽しくなって来たところで、ポツポツと
混み始めてきた。
不機嫌なおじさんが投げ捨てるように語った本音
さっそく、40~50代とおぼしき会社員5人のテーブルにつくよう指示される。
私の隣に座るおじさんは、なんだかふてくされたように座っていた。
楽しむ周囲の人々を、温度のない目でみている。
機嫌が悪いのか、何か嫌なことでもあったのだろうか。
「もうだいぶ飲まれました?明日もお仕事でしょうからお水にしましょうか」
というと
「おりゃ〜(おれは)、もう死ぬからいいんだ。」
投げやりに言う。
すこし大げさに笑って会話を流しながら「面倒なお客さんにあたっちゃたかな」と思った。
しばらく、会話のツボを探そうとたわいもない話を続けてると
また、ふとした瞬間に
「おりゃあ、死ぬからいいんだ」
不機嫌そうに、そう、言い放つ。
また、笑ってあげた。
酒の席の冗談とはいえ、投げやりな言い方に辛くなり
「悲しくなるから、そんなこと言わないでくださいよ」というと
「ホントに死ぬんだもん
がん、なんだ。おれ」
酔っぱらったうつろな目でそういうので、それも冗談かと思ったけど
「ほら、ここ、切ったの。」
と、耳の下のあたりを指さす。
みると、首元に傷痕がある。
「鼻腔のがんが転移したのリンパ管に。鼻腔のはとれないの」という。
「おれ、死ぬの。余命3ヶ月、だってさ。」
酔っぱらったうつろな目で、何度もそいういう。
「くだらないよね。こんなの。
死ぬって思ったらなにもかもくだらない。
テレビでさ、死んじゃうっとか冗談でお笑い芸人がいうでしょ。
ばかみたい。」
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