新幹線のホームで「大切なことは言葉で伝えよう」と思った話[100 days challenge_day05]
「何か困ったことがあったら、なんでも良いから電話してね」
と言って、目の前の人が泣き出した。
4月1日、新年度始まりの日。
わたしは、上りの新幹線を待つ長蛇の列の末尾に並んだ。
目の前には、母親と、息子さん、娘さんの3人。2人のお子さんは、それなりに大きい。
大量の荷物、そして何も話さない3人。わたしは勝手に、春休み、母の旅行にしかたがなく付き合っている2人の子(高校生とか中学生?)と思っていた。
「旅行に来たくなかったとか、そんな感じで、喧嘩でもしたか」と邪推していた。
何も話さないんじゃなくて、話せなかったんだ
なんたって、本当に何も話さないのだ。
新幹線が20分も遅れており、なかなか来ない。
並ぶ人は増えるばかり。
混雑したホームで、無表情でほとんど動かず、何も話さない3人は、ちょっと異様だった。
わたしはと言えば、片手には荷物、片手にはコーヒーを持っていたので、スマホも見ずに、ただひたすらボーっとしていた。だから、目の前で人が泣き出したときに、思わず「えっ」と声を出してしまった(申し訳ありません!)。
それで、気付いた。息子さんが大学だか、はたまた就職だかで、サヨナラの瞬間なんだと。
お母さんは、たぶんすごくすごく我慢して、それでも我慢できなかった様子で、何も言わずに涙を流し始めたかと思うと、そのまま娘さんに顔を埋めて泣いた。
それを、娘さんは同じく何も言わずに、抱きしめて、背中をさすった。
見送られる側の息子さんは、相変わらず無表情で、お母さんが持っていた荷物を持とうとした。
泣きながらも顔を上げたお母さんは、しっかりと息子さんを見て「元気でね、困ったことがあったら、どんな小さなことでもいいから、電話してね。つらくなったら、いつでも戻ってきてね」と伝えた。息子さんは、何も言わず、表情も相変わらず変えず、頷いた。
そして新幹線は、予定時刻より23分遅れて名古屋駅に入ってきた。
新幹線が遅れなかったら、もしかしたら、お母さんは泣くのを我慢して送り出していたかもしれない。「元気でね、頑張ってね」とだけ言って。
そう思うと、新幹線よ、遅れてくれてありがとう、という気持ちになった。
と、同時に、わたしは初めて、娘たちの巣立ちをリアルに想像して泣いた。
当たり前が当たり前じゃなくなる瞬間
子の成長とともに、家族より友達、学校、部活…と離れていく。しかし、一緒に住んでいると、すぐに会えるし、話せる。
子と一緒に住んでいる時、会えること、話せることは「当たり前」だった。
それが、終わる瞬間を、私は見た気がした。その区切りの瞬間を見せてもらって、本当に幸運でした。
しっかりと照れることなく、息子さんへの想いを言葉で伝えているお母さんの姿を見て、わたしもあのお母さんのように、伝えたい言葉は声に出して、目を見て伝えようと、改めて決意した次第です。
新幹線の中でこれを書いていて、思い出したらまた泣けてきた。もしかしたら、息子さんも、がまんしてたんじゃないかなぁ。
今日の新幹線で泣いている人は、意外と多いかもしれない。
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