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あなたは優しい。だから電話を切る。

あなたは優しい人だ。デートが終わってから私が寂しくて「バイバイ」と言えないときにあなたは「バイバイ、またね」と私よりも先に言ってくれた。そんな男は薄情だと友人に言われても私には薄情だと思えないんだ。楽しくて柔らかな時間の終わりを告げる「バイバイ」がどうしても私には言えない。だから、いずれ終わる楽しい時間の終止符を打つという汚れ役になるあなたは私には勇気のある優しい人だ。しかも、バイバイに「またね」を付けるその柔らかい気持ちがずるさも多少感じながらもまた会いたくなるんだ。

あなたは優しい人だ。結婚してからも仕事が終わって帰路につく時に私に電話をしてくれる。あなたは私のいる家に今日も帰ってきてくれる。だけど、いまだに私はあなたからの電話を私から切ることができない。漠然とした不安と恐怖が私の日常なのだ。だから、あなたは先に電話を切る。そして、あなたは私のいる家に今日も帰ってきてくれる。

私はあなたよりも先に電話を切ることはできないだろう。だから、優しいあなたは私よりも先に電話を切る。

それが、私たちの日常。

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