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ホステス秋桜と出稼ぎホルヘの駆け落ち

エピソード68は「若い頃、ビンボーでした」をテーマに
バクとナミンで話しています

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わたしの源氏名は秋桜(コスモス)、37歳。
一等地から少し離れた横丁のスナック「小鳥」でかれこれ4年半くらい働いてる。

私は平凡な造形の顔をしており、カラダつきも標準サイズ、服装もありきたりなので数回、見かけたくらいでは記憶に残らないドラマで歩道を歩くエキストラみたいな存在感であることを自覚している。人生全般、主役をはったことはなく、なんとなく流されるように、自分の気持ちさえはっきりと確認することなく気が付けば妙齢になっていた。

その私が明日、駆け落ちをする、しかもベネズエラへ。
殺人発生率トップクラスの世界一治安が悪いとされている国へ。

恋のお相手はホルヘ、33歳。
出稼ぎに来てた彼と仕事上がりの焼き鳥屋の屋台で出会ったのは2年前。
私は彼の母国語のスペイン語が話せないから、
ホルヘのへんてこりんな日本語とお互いの片言の英語で、
その夜は朝方近くまで近くの川べりでやぶ蚊と格闘しながら語り合った。
日本国内を転々としてきたホルヘはいろいろな地方の方言が混ざり、
彼独自のユニークな日本語を話す。

その夜に双方ともこれは運命的な出会いだと感じ、
お互いをソウルメイトだと確信した。手を繋いだら電流を感じた、本当に。
2年いっしょにいてもその感覚は全く褪せず、スナック「小鳥」でもお客さんから「色気が出てきたね」「なんか雰囲気変わったね」などと言われるようになった。

私の実家の田舎では私の歳で結婚していないことは「大変なこと」らしい。少しずつ両親からの溜息まじりの連絡は減り、もうここ何年も口をきいていない。兄弟姉妹はそれぞれに家庭を持ち、忙しく暮らしている。ベネズエラへ行くことを話したら反対されるのが明々白々、説得できる自信はゼロだ。だから静かに駆け落ちすることにした。

そろそろ母国に帰らないとビザ的に日本滞在が難しくなってきたホルヘがある日、「わしの国、ベネズエラに一緒に行ってくれへん?」と囁いた。小鳥のママにだけは相談してみた。そしたらタバコの煙を長く細く吹きながら「一世一代の大冒険してみたらいいんじゃない?ダメだったらすぐに帰ってきたらいいのよ」と軽く背中を押してくれた。

どーなるか全くわからない。想像もつかない。
海外は大昔、グァムに行っただけだ。
でも、行きたい、彼と生きたい。
どうなってもいい、彼といっしょにいれるなら。
治安は悪いとされてるけど、住めば都になるかもしれない。
ホルヘのようないい男を生み出した国だもの。

勝負服として昨日買ったオレンジのワンピース、袖を通して背筋をのばす。
人生の主役を演じるんだ、わたしは。

カラフルに色づき始めた森を歩きながら
ハチミツを入れた甘いミルクティーを飲みながら
お風呂の掃除をキュッキュッしながら
お聴きくださったらうれしーです


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