⑨-3『ジソウのお仕事』厳選エピソード集(4~6話)
こんばんは。
9冊目の参考文献『ジソウのお仕事』の最終まとめです。
本作は、児童相談所の児童福祉司が書いたルポルタージュになります。
今回は長文になりますので、前書きは省略!
さっそく本文に参ります!
●【㉞ふたごのふたり】
「どうしてもこの子をかわいく思えない…」と母は訴えた。
もうすぐ2歳になるふたごの女の子はそっくりな顔で、青山さんには違いがわからなかった。しかし母は「姉のYはかわいいけど、妹のAは憎らしい」と言うのだ。
父はいるが、育児・家事はすべて母任せな環境だった。それでも母は、懸命にふたりを育てていた。
布おむつと母乳にこだわり、離乳食は栄養を計算して手作りする、誠実な母親だった。
ふたごの子育ての大変さを誰にも相談できないまま、ある日、Aちゃんの頭を押さえて風呂に沈めてしまった。
「このままでは、私はこの子を殺してしまうかもしれない…」
母の話を聞き、妹のAちゃんを乳児院に入れた。
それから何度も母をつれて乳児院へいったものの、母はAちゃんを引き取りたいとは言わなかった。
「養子には出したくないけれど、どこかしあわせなご家庭で育ててもらえないでしょうか」
2歳になるころ、Aちゃんは乳児院を出て、養育里親さん宅で暮らすようになった。
里親さん宅で、Aちゃんは極端に水を怖がった。
母は、青山さんには「一回だけ」と言っていたが、実は何度もAちゃんを風呂に沈めていたのかもしれないと青山さんは思った。
3歳になるまで、里親さん夫婦は毎晩タオルでAちゃんの身体をきれいに拭いた。
Aちゃんが初めてお風呂に入れた日、里母さんから電話があった。
風呂からあがったAちゃんをバスタオルにくるんだ時、うれしくて涙が止まらなくなり、それを見てAちゃんも泣き出し、里父さんと3人で抱きあって泣いたのだという。
その後青山さんは移動となり、Aちゃんと母の担当からは外れたが、引き継いだ担当からときどき様子を聞いていた。
父母は離婚、母は昼間ソープランドで働きながら、Yちゃんを育てているという。
その後も母は、Yちゃんのことで児相に相談を続けていた。
小学校に入り、YちゃんはADHDと診断された。知能指数には問題はないようだが、多動の傾向が強く、学校を休むことが多くなっているという。
逆に、Aちゃんの方にはそういった傾向はみられないという。
母は「Aは育てにくい子だ」と言っていたが、Yちゃんとの違いはどこにあったのだろうか、と青山は考える。
AちゃんとYちゃんは、たがいの存在を知っていて、自分がふたごであるということも認識しているという。
Yちゃんは気性が激しいところがあり、キレると家の中で手が付けられなくなるという。そして、
「どうしてふたごなんだよぉ。どうしてひとりで産んでくれなかったんだよぉ」と泣き叫ぶのだそうだ。
ひとり手元に残したYちゃんのその言葉を聞いて、母は何を思っているのだろうか。
→(もしかしたら、Aちゃん側が裕福な良い家庭で育っていることを知り、Yちゃんは妬ましく思っている…ということもあるのかな、と勝手に推測したりもしました)
▼まめのひとこと感想
ほんと奇妙な話がありますよね…。不謹慎とはわかっていますが、まるで作り話かと思うような内容でした。
私はまだ親になったことがないので、母親の子どもに対する「愛」というものがどのようなものか身をもって体験したことはありません。
ですが、前の記事で紹介した『あなたを探します』のように、血がつながっていなくても、どんな経緯で生まれようとも関係なく無償の愛を注げる人もいれば、腹を痛めて産んだ子供でも、うまく愛せないという人もいるわけです。
もしも双子でなかったら。母親の心や生活費に余裕があれば。何か違ったのかもしれないと考えずにはいられませんでした。
※【㊵性的虐待がなかったことになる】
※前回に続き、また性被害のお話になります。ご注意ください。
とある高校のスクールカウンセラーから、児相に連絡があった。
「父から性的虐待を受けていると生徒が言っている。どうしたらよいか」というような相談だった。
その高校は地元でトップクラスの私立であり、「どうか内密に」との話だった。
児相の所長から校長に「匿名の通告があった」と連絡を入れ、Fちゃんとの面会を許可された。
Fちゃんは利発そうな子で、質問にも淡々と答えた。
「父はお酒に酔ったときに、私のベッドにきて、キスをしたり身体を触ったりします。やめてといっても触ってくるので、いやだけど我慢しています。高3の兄がいますが、兄は私が風呂に入っているとき覗きにきます。私の下着がよくなくなるのですが、兄が盗っているのだと思います。兄に言うと、兄は私を殴るので、怖くて母にも相談できません」
児相はFちゃんを一時保護所に入れた。
一時保護所で、Fちゃんは、マッサージだと言われ、父の性器を触らされていた、とも漏らした。
Fちゃんの父は医師で、父方親族も、母方親族も医者ばかりの家族。
母方の祖父母は、涙を流しながら、「母はショックで入院している。父が許せない。母とは離婚させる。Fがかわいそうだから、Fを預けてもらえないか」と懇願した。
児相側は悩んだ。Fちゃんが家に帰りたいと言い出していたからだ。
「お母さんに会いたい。私がしゃべったから、私のせいでお母さんが死んじゃうんじゃないか」
Fちゃんは、保護所の食事に手を付けなくなった。
しかし結局、Fちゃんは祖父母宅へ帰っていった。
法的措置をとり、父がFちゃんに近づかないようにする、Fちゃんを児相に通所させる、精神クリニックに通院させる、家庭訪問を実施するなどの対策を講じた。
だがしばらくして、「Fちゃんを自宅に戻した」と祖父母から連絡があった。
理由は、母が自殺未遂をはかったため。母の安定のために、Fちゃんをそばにおいておくと決めたのだという。
以降、児相の電話にはでなくなり、家庭訪問も拒否。
学校側も面会を拒否、登校状況の確認すらも「個人情報だから」と応じてもらえなくなった。
児相は、全く手出しができなくなってしまったのだった。
Fちゃん宅を訪問しても、窓にシャッターがおりたまま誰も住んでいない様子。高級車もホコリをかぶったまま駐車場に止まっている。
その後、兄が医学部に進学したとの情報だけが入った。
Fちゃんのケースは「相談終結」とするほかなかった。
警察や検察に相談しておけば、せめて事件化できたのか。
それはもっとFちゃんを苦しめることになったのか。青山さんの中で今も悔しさの残り続けるケースだという。
▼まめのひとこと感想
性被害のケースは、ほかにもたくさん事例がありました。
そのなかからこれを選んだのは、他と比べて珍しいケースだったためです。
性虐待は貧困層の問題であることが多い印象でした。貧困が劣悪な環境を生み、それがさらに連鎖してしまうという社会的病理です。
しかし今回は、裕福な上流家庭ゆえに、すべてもみ消されてしまったケース。社会の闇を感じざるをえませんでした。
児童虐待をするような父親が医師をしているというのにもぞっとしましたし、その予備軍である兄も、当然のように医学部に進学しています。
もしかしたらそういった上流家庭ほど、表面化しないだけで、裏側にはびこる闇は深いのかもしれません。
●【㊶産後うつのおそろしさ】
「子どもの首を絞めて殺してしまったら、どれだけ自分が楽になるだろうと思うんです」
電話をかけてきたAさんの家を訪問すると、室内もきれいに片付いており、Aさん自身も清潔でおしゃれな身なりをしていた。
しかし、赤ちゃんはベビーベッドで寝かされたまま、大きな声でずっと泣いていた。一か月にも満たない新生児だった。
「おっぱいは2時間おき、便もおしっこもし何回もして、夜中も大声で泣き続けるんです。私は寝られないし、ご近所も気になってしまって…」
保健師が赤ちゃんを抱きあげると、ピタっと泣き止んで寝てしまった。
「あんまりなくので、何回か押し入れに閉じ込めたことがあるんです。こんな自分は、虐待している親なんだなって思います。息苦しくなって、涙が止まらなくて、この子を殺して自分も死のうかと何回も考えました」
「家事も育児も完璧にこなしてえらいね」
保健師がほめたら、Aさんは急に怒り出した。
「私がまじめだからいけないっていうんですか!私がこんな性格だから子育てができないって、みんなで私を責めないでよ!」
Aさんは、テーブルを叩いて大泣きしたのだった。
Aさんに「赤ちゃんを乳児院に預けて、少しの間だけ休んでみたら?」とすすめてみたが、Aさんは黙ったままだった。
児相に相談したことも後悔しているようで、
「また訪問してもいい?」という保健師の言葉にも、
「ええ、まあちょっと……考えてみます」と言葉を濁した。
▼まめの一言感想
今回の事例は、私が小説のなかで参考にするであろう内容であったため取り上げました。
子どもを愛せない母親。しかしそれがいけないことであるのも、虐待であることもわかっている。でもどうしても愛せない。
もちろん、児童虐待はどうあっても正当化できませんし、擁護するつもりもありません。ですが、ジェンダーに多様性があるように、子どもを愛する気持ちにも、もしかしたら多様性があるのかもしれないなと思ったりするのです。
小児性愛者、性的サディズム障害など、マイノリティーの属性に生まれついてしまった人間がどう社会と向き合っていくのか。いつか主題に据えて書いてみたい題材のひとつであります。
これにて、児童相談所系のルポはすべて終了になります!
やっと終わったぁぁぁ!!!
自分で宣言しつつ、自分で追い込まれてちゃ世話ないですね(笑)
本当はたくさん語りたいことがあるのですが、ひとこと感想でほぼしゃべりつくしたのでまぁいいでしょう。
あらためて思います。
児童虐待の裏側にはびこる問題は、貧困・性被害・発達障害の3つですね。
どこかに明言されていたわけではないですが、3つのルポを精読した私の意見です。
ルポを読んでいると、「事実は小説より奇なり」だと思い知ります。
私なんかが想像の範疇で書く物語なんて、たかが知れています。
リアルさも、エピソードの衝撃も敵わない。
でもそこになにか、優しい答えを与えてあげられたなら。
私が小説に望むものはそれなのかもしれないと思うのです。
以上です!
次は、児童養護施設についてのルポでお会いしましょう!では!
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