⑨-2『ジソウのお仕事』厳選エピソード集(1~3話)
こんにちは。参考文献シリーズ9冊目の2つ目の記事です。
今回の文献は、児童相談所の児童福祉司として働く青山さんが、雑誌で10年にわたり連載していた記事の内容を、1冊にまとめたルポルタージュです
(文献の情報は、前回の記事に載せましたので、よかったら確認してみてください(*^^*))
前回宣言しました通り、本書に載っている50話のエピソードの中から、印象深かったものを厳選して紹介します。
今回紹介するのは6話です(長くなるので、記事は分割します)。
ルポを読んでいると、私には想像も及ばないような話が、この世にはたくさん潜んでいるのだと思い知ります。
★今回の記事は、性的被害に関するディープな内容を挟みます。
そちらの話題につきましては、小見出しの行頭に※をつけますので、苦手な方はスッと読み飛ばしてくださると幸いです。
(6話のうち3話がそう言った内容です…児童虐待と性被害は切っても切り離せない問題なのです)
では本文に参ります。皆さん、心して読んでください。
●【⑬ざけんなよ!】
青山さんと、Kとの出合いは中学一年生の時。
量販店で万引きをして警察に捕まり、一時保護された。金髪でド派手な化粧、スウェットの上下にサンダルを履く、絵にかいたような非行少女だった。
「高校やめて働きたい」と言ったため、自立援助ホームに入所させた。
自立援助ホームは、家庭にいられず働かなくてはならない15~20くらいまでの青少年に暮らしを提供し、就労を支援する施設だ。
朝、食事を済ませた子どもたちは、おかずの残りを弁当箱に詰めて、それぞれの職場に働きに行く。
部屋代、3食、光熱費すべて込みで毎月3万。その間働いて自立するための資金をためる。
Kは、履歴書の書き方を教えてもらいながらハローワークに通ってバイト探しを始めていた。
Kが一時保護所にいたとき、母親は20代で、夜の仕事をしていた。近所に母方の祖母はいたものの、酒とパチンコでKのことはほったらかし。
典型的なネグレクトの子どもだった。
一時保護所で同室だった女の子は、Kの小学校の同級生で、
「ふたりとも、しょっちゅう顔にあざつくって登校してたよね」と語り合っていた。
Kは、母親にも、家にしょっちゅうやってくる母親の男にも、祖母にも殴られていた。
「ふたりでよく、がんばろうねって励まし合ったんだ」
Kは、掛け持ちで一生懸命働いた。
朝から夕方まではドラックストア、夜は焼肉店。
だが、仕事が休みになると繁華街のクラブに出かけて一晩中酒を飲んだり、男の人に声をかけられてホテルに泊まるようになった。
仕事に穴をあけることはない。朝帰りでも、仕事にはちゃんと出かけていたが、「無断外泊」が続き、Kは退所勧告を受けた。
そのため、児相に連絡が入ったのだった。
「そんなことしてたら、ここ出なきゃいけなくなるよ。出ても行く場所なんてないじゃない」
何度言っても、Kは月に3,4回朝帰りをして、「ストレス発散なんだからいいじゃない!」と居直った。
ある時、青山さんは説教じみたセリフを繰り返し語っている自分がなんだかおかしくなり、ふっと笑ってしまったのだという。
すると、突然Kは立ち上がって怒鳴った。
「親と暮らしたお前らに何がわかるんだよ!ざけんなよ!」
Kは泣きながら表に飛び出していったのだった。
青山さんは、それからKには会っていない。
その後、Kはバイト仲間の男性と暮らすと言って、自立援助ホームを出ていったという。
翌年の正月明け、Kから成人式に出るという旨の連絡がきた。
Kの声はどこか沈んでいるようで、今どうしているのと青山さんは聞けなかった。
青山さんは、Kに謝りたくて、教えてもらった住所に手紙を書いた。
しかし、返事が返ってくることはなかった。
▼まめのひとこと感想
この話を読んだ時、ああ、その通りだなと思ってしまいました…。
どんなに寄り添い想像を働かせようとも、児童福祉司は彼女たちのような境遇で育ってきたわけではない。同じ境遇同士の仲間うちでしか分かち合えないものもあるような気がします。
そんな、彼女たちからすると<恵まれた環境>で育ってきた福祉司たちが何を言おうと、哀れまれているだけ、諭されているだけで、本当の意味で理解なんてできないくせに、と思ってしまうのでしょうね…。
※【⑮あなたを探します】
※心温まるエピソードですが、過激な内容を含みますのでご注意を。
乳児院に入れている赤ちゃんとカナダ人夫妻の養子縁組が成立したときのこと。
「ジョーイがうちの子になったのは、あなたがいてくれたからです。感謝します」
ふたりは涙をぽろぽろとこぼし、何度も青山さんにハグをした。
夫妻がジョージと呼ぶその子は、中3の兄が、小6の妹と性行為をしてできた子どもだった。
その家族は、一家4人でいつも一緒にお風呂に入っていて、母は「うちは仲がいいから」と、近所にも笑って話していたという。
ある時、両親が先に風呂を出て、兄妹だけになり、性器のさわりっこをした。
最初はふざけてだったが、そのうち気持ちよくなって、「入れてもいいか」と兄がしつこく迫った。妹も「ちょっとだけなら」と、親が留守の際に、リビングで性行為をした。
それから時々することがあり、妹は「もうやめて」と拒んだが、兄は強引に求め続けた。
兄は、「お前、セックス経験あんのかよ」とメールしてきた友達に、「あるよ、妹とだけど」と返した。
そのメールを父がみつけ、兄妹に問いただした。
兄はあっさりと認め、「兄妹でしたらいけないの?」と言ったという。
その後、妹は妊娠した。
ぷっくりした体系だった妹の変化に、父母は気が付かなかった。
堕胎期間を過ぎてしまい、母の実家でひっそりと産ませ、赤ちゃんは児相が預かることになった。
父母は生まれる前から、養子縁組を望んでいた。
児相内の援助方針ではこのケースを「兄の性非行」として受理するか、「妹の妊娠を防げなかった父母のネグレクト」として受理するかで揉めた。
青山さんは「ネグレクト」の意見を主張した。
児童心理士は、兄を発達障害であると判断していたし、父母がいちはやく兄妹の「分離」を決断していれば、起こりえなかったと考えたからだ。
しかし結局、このケースは「兄の性非行」として受理された。
養子縁組を希望している登録家庭に生まれた子を紹介するも、ことごとく断られた。
生まれた経緯は、名前などを伏せて、簡単に説明しなければならないからだ。
「どんな障害がでるかわからない」
「そんな子を迎え入れたら、家系が汚れる」
みなその子を嫌い、なかには怒りだす人までいた。
その中で唯一、「ぜひに」と望み、すぐに会いにいきたいと言ってくれたカナダ人夫妻がいた。
ふたりは熱心に乳児院に通い、半年ほど交流したあと、家庭裁判所で養子縁組が認められた。
ジョーイと名付けてかわいがっていた夫妻は、子どもを連れてカナダへ帰っていった。
ある日、児相に国際電話があった。
ジョーイのカナダ国籍がとれたという報告だった。
夫妻はこういった。
「ジョーイは肌の色も違うので、自分が養子だと大きくなればわかるでしょう。そうしたら私たちは、あなたのことをジョーイに話そうと思います。あなたが私たちとジョーイを引き合わせてくれたこと。ジョーイは、日本に行ってあなたを探すかもしれない。そうしたら、あなたが話せることをジョーイに話してやってほしい」
もしジョーイが訪ねてきたら、なんといえばいい?
青山さんは胸が締め付けられる思いだった。
でも、しっかり抱きしめて「元気でよかったね」と言ってあげたいのだと青山さんは語る。
▼まめのひとこと感想
目頭が熱いです……。いわゆる近親相姦のお話でしたので、はじめはゾッとして眉をしかめながら読んでいましたが、カナダ人夫妻の寛大さに触れ、自分の愚かさに気が付きました。
生まれてきた子に罪はない。どんな経緯であれ、この世に生を受けたなら、それは祝福すべきことで、愛される権利があるのです。
まさにカナダ人夫妻の無償の愛が、それを証明してくれたと思います。
※【⑱鬼は誰?】
※本書の番号順にエピソードを並べているのですが、性被害の話題が連続してしまいました。こちらは最後まで気分の良い話ではないですが、目をそらしてはいけない話題だと思い、取り上げました。
迷いましたが、本文に近い形で書きます。
「性虐待」は、身体的虐待やネグレクト、心理的虐待に比べ、虐待相談総件数では3%にも満たない。相談件数としては少ないが、表面化しない問題が家庭内に本当はもっとあるはずだという。
Mちゃんは、中2のときに担任の女性教師に「パパに胸やおしりをさわられる」と話し、一時保護された。
実父は、4,5歳のころからひとり娘のMちゃんに性的虐待を加えてきた。
父はMちゃんと一緒に風呂に入り、手でMちゃんの体を洗った。
「おまたのところも手で洗うの。指を入れて中まで洗うの」
「ふざけてくすぐりっこするみたいなふりをして、ぺろっとなめるの。笑いながら。V字開脚してみろって命令されたこともあるよ」
Mちゃんが着替えていると、父はうしろから胸やおしりを触り、仕事帰りにはどこかで酒を飲んで、Mちゃんのふとんに入ってきては体をさわった。
Mちゃんは、「パパは私がかわいいからそんなことをするのかなってずっと思ってた」と言う。
「お母さんはそのこと知らなかったの?」
「知らないふりしてた。夜はパートしてたし」
「やめてっていわなかったの?」
「何度も言ったよ。手を叩いたり、足を蹴ったりしたけど、パパ笑ってた。さわるときは、笑ってふざけるふりしてるけど、宿題とかしてないと、時々ものすごくこわい顔してたたくよ」
「パパは身体のどの部分でMちゃんをさわったりしたのかな。この身体の絵のところに丸してくれないかな」
Mちゃんは、その質問には「わかんない」と言ったっきり、それ以上はなにも答えてくれなくなった。
父は、あっさりMちゃんの体をさわったことを認めた。
「今後一切しません」と書いた誓約書のようなものを持ってきて、「Mを返してください」と、相談室でおんおん泣いて土下座した。
母は離婚し、「Mには会いたくありません」と無表情で言い放った。
父とは会わせられず、母も会いにはこない。
養護施設に入ってから、Mちゃんは不登校になった。
青山さんは施設に何度か面会に行ったものの、拒否されていた。
職員がなんとかとりなしてくれ、部屋にはいったことがあったが、Mちゃんは布団をかぶり、泣きながら「鬼!」と叫んだのだった。
それから、Mちゃんとは会えていないという。
Mちゃんは、幼稚園の先生になりたいと言っていたが、高校もやめ、養護施設も出てしまった。
施設の女性職員のひとりとメールのやりとりは続いているというが、Mちゃんはその職員に「家族を壊したのは児相だ」と言ったという。
保護することは「安全を守ることだ」と青山さんは信じてきた。
しかし「ほんとうの被害」を聴き出そうとすればするほど、子どもたちは何も語らなくなってしまう。
そして「家族の秘密」をしゃべってしまった自分を責め、後悔し、傷ついていく。
母とMちゃんの和解の場を作ってあげられなかったことを、青山さんは悔いている。
児相は、家族や友達など、大切なものをMちゃんから奪ってしまったかもしれない。
パパにさわられない安全と、どちらがMちゃんにとって大切なことだったのか、もっと話し合うことができたらよかったと青山さんは語る。
▼まめのひとこと感想
これを読み終わったとき、しばらく呆然としました。
小説では、最後の最後には報われるだろうと、なにか答えがあるはずだと信じて読み続けるけれども、ルポの場合はそうじゃない――。
きっと表面化している性虐待は、氷山の一角なのでしょうね。
そして、表面化したところで、誰も傷つけずに済ませる方法が考えうる限りではどこにもないんです。
それならば、と被害者側が口を閉ざす。なぜなら、児相においての性虐待の加害者は、もれなく身内になるわけですから。
小説の本編とは関係ないけれども、改めて深く考えさせられる問題でした。
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