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『釘バットで学ぶ火曜日の語学教室』

枳殻(からたち)語を勉強している。枳殻とは名前から想像が着く通り、モンゴルの上部にある日本人の感覚からしてやや中国のようなところだ。枳殻語は日本人で学習してる人が「全く居ない」と「居ないと思う」の間くらいで、つまり、「居るには居る」くらいの量だ。とても少ない。だから参考書や本だってほぼ売ってないし、教えてくれる人だって居ない。火曜日の午後に枳殻語のレッスンを受ける人間なんているはずが無いのだ。

先日、草の根を書き分ける勢いで本屋を巡り、町中の古本屋の店主を脅す勢いで枳殻語の本を探し出した。その本の表紙は擦り切れていて読めなかった。ではなぜ枳殻語かわかったのかと言うと、古本屋の店主がそう言い張ってたからだった。だが生半可な言い張りでは無い。かなり高度な脅しを前にしてそう彼は誓ったのだったから。

本を開けると、枳殻語だった。内容としては10代の恋のような話だった。語学の為とはいえ、ここまでつまらない本を読むとなると流石に腹が立ってきた。主人公である男がキスをする時「君の唇は山椒の味がするね」と言い、白痴の様な女がキュン…!と叫んで発狂をしていた。

私は憤怒のあまり、枳殻へ向かった。出版社に殴り込みに行くのだ。調べると出版社は直ぐに出てきた。成田空港から枳殻へ。枳殻からバスで2時間、首都にある出版社だ。あるサイトでは釘バットを持っていくのが殴り込みの流儀だと言うものなので、釘バットを持ってドアを開けた。それはザワついたものだが、街の人達は私が無差別に殺意を向ける狂気のスプリンクラーのようなものではなく、ただ純粋に文学的、資本主義的に見てつまらない小説に腹を立てているだけだと知った途端、恐れの色をなくし、ただ出版社の玄関に居る釘バットを持って編集長を待っている男とみなすだけになった。

20分待っていると編集長が部屋の奥から出てきた。
「ここじゃなんですから、奥へどうぞ。」
枳殻語の成果が出ている為、編集長が何を言っているのかよく分かる。とりあえず奥へ進む。

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