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『釘バットで学ぶ火曜日の語学教室』第2講

ドアを開ける編集長について行った。
そこには、拷問器具が並んでいた。二十三年生きていて拷問器具なんて見た事もないのだが、いざ拷問器具を目にすると、知らなくても、拷問器具なんだろうなと見当はつくものだ。それは枳殻語を学び始めた日から今日までである意味最も有益な学びだったかもしれない。

「これは、拷問器具ですよね?」
編集長は微笑んでこう言う。
「えぇ。拷問器具です。」
まるでリビングに椅子がある程に当たり前の事だと言わんばかりの言い方で。
「これを何に使うのでしょうか?」
私は全力を以て怪訝さを醸し出した。ほんの少しの好奇心と背徳感と性的興奮を隠蔽するかのように。
「…お気になさず。…で、なんでしたっけ?弊社出版の小説がきわめて駄作ですと?」
「はい。これはただの紙切れです。もし筆者がサインを書いたって、字の書いたゴミです。私はこれを読んでただひたすらに時間を無駄にしたと思いました。せめて、せめて、筆者を1度だけ、殴らさせてください。たった一度でいいんです。」
「かまいませんよ。まずは私から殴ってくださいな。」
「編集長…あなたは本当に勇気のある人ですね。駄作だからといって、あなたまで殴られる法はありませんが…しかし、せっかくなので、行っときますか!!」

1回とか言いながら5回殴りました。5回目に至っては両手を組んで殴りました。

「さぁ、オッサン、このゴミを書いた奴を呼べよ」
もう無礼とか通り越したので普通にタメ口で話してる。おもくそ殴ってきたやつが、敬語ならそれはそれでおかしいだろ。
「ちっ、うっせぇなゴミ虫が」
編集長(いやオッサン臭ぇなクソ)も普通に毒吐いてる。殴られてなお礼儀正しく入れるやつなんて居ねぇ(それにしてもクセぇな)
「死ね!(早く呼んでくださいね)」
もうどうだっていい。とにかく呼べよ

「あの〜、お呼びですか、ってなにしてんすか?酷い怪我ですけど…」ゴミ来た〜笑駄文の生みの親笑恥ずかしくないん?

「まぁ座れや、おいゴラ我?」
ちなみにこの「おいゴラ我」構文は私が熟読した枳殻語の参考書で学んだものだ。どんな形であれ学んだものを実践できるのは嬉しい。
「とりま、殴らせてくんね?1回でええから」そこで寝転がってる編集長とかいうオッサンも叫ぶ
「おいゴミ!とりあえず殴られろ!お前が殴られたら話終わんだよ!」
「分かりました。1回だけですよ。」

「誓うよ、1回さ。」
私は釘バットを強く握った。



火曜日の午後に語学教室を開いている。日本ではかなりマニアックな枳殻語という言語のだ。枳殻語のネイティブを何人か招き、日本在住の枳殻語学習者とただ話すのだ。それは凄く語学が上達するし、かなり好評なのだ。私は10年前に枳殻語を学び始めた。学び始めた頃出会った小説をきっかけに枳殻まで向かい、そこで留学をした。それらの経験はとても有意義なものだった。

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