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自分の力不足を認めるとき

ある仕事を降りる、という決断をした。

今日はそのことについて書きたいと思う。

小説家になる
というのが、小さいころからの夢だった。
そんな私のもとに、2年前、
「小説を書いてみてほしい」というオファーが来た。

先方の企業に、ある物語の種を提示され
それを小説として書き上げるというものだった。
ゆくゆくはドラマや映画として、世界に大きく展開していくものにしたいというのが先方企業の思いだったようだった。

小説など書いたこともない私に果たしてできるのだろうか
そんな不安を抱きつつも、私はオファーを受けた。
先方から提示されたアイディアは
私なりにも掘ってみたいテーマだったし、
なにより小説を書くと言うことにも興味があったから。

だけど、小説を書くというのは、
思った以上に孤独で、思った以上に大変だった。
日々仕事をしている中、時間を作り書き進めたかったのだけれど、
結局中途半端で、納得のいくものが出来ずに袋小路に入り込み
そのまま何か月も経った。
本業の方が忙しくて、と言い訳をしてみたり
執筆に必要な取材やリサーチが出来なくて、と言い訳をしてみたりしながら足踏みをし続けた。

オファーをくれた企業にとっても、この種の事業は初めてのことで
担当者も別の仕事で忙しく、十分な打ち合わせもできぬまま
時間ばかりが過ぎていった。


そんな矢先
担当者が交代となる旨の連絡があった。
電話越しにそのことを伝えてくれた担当者さんの声が震えていた。
この企画から降ろされたっぽい雰囲気だった。
恐らく、私のせいだよな。
私がきちんと形にできなかったから、この人降ろされたんだろうな。
その人は決してそうじゃないと言ってくれたけれど
彼の悔しさがつぶさに伝わって、私は言葉が出なかった。

その数日後、
新たな担当者が決まったので顔合わせしたい、と言われたとき、
物凄く心がざわついた。
一言で言うと、怖くなった。
「もうこの仕事は降りよう」そう思った。

今朝、担当者に電話して、辞退したい旨を伝えた。
彼は私の辞意を理解してくれつつも
「上が期待しちゃってるので、一度話し合いになると思います」
と言った。

その言葉を聞いた時、
本当にいいのか?という気持ちがよぎった。

期待されてる。
担当者が変わって、先方の企業も本気を出してきてる雰囲気も感じる。
がんばれば、本当に今度こそ、形にできたかもしれない。
だけど一方で、冷静な私は分かってる。
私では力不足である、と。

本当に?本当は、出来るんじゃないの?
そんな風に囁く私がいる。
だって、自分の力不足を認めたくないから。
私になら出来るはず。そう信じたいのだ。
だからこそ、一度はその可能性を信じ、頑張ってもみた。
だけどダメだった。
私はこの2年間、駄作ばかりを提案し、先方を振り回し。
自分で言うのもなんだけど、正直全然ダメだった。

私では力になれない。このプロジェクトを推進していく力がない。
少なくとも、今の自分には。
白旗を上げて降参するしかない。悔しいけれど。

私の可能性を見て、私を呼んでくれた人たち。
仕事を任せてくれた人たち。
彼らを思うと、本当に有難くて、そして悔しい。
出来たよ!と、見せたかった。
作品、書き上げたよ。どうですか?と。
それが出来なかったことが、悔しい。

一つボタンが掛け違っていたら、結果も違ったかもしれない。
何か違う未来が開けたかもしれない。
だけど、私には書き上げることが出来なかった。

いつか小説家になる。
小さいころに抱いたその夢は、今も胸に抱いてる。
でもそれは、今じゃなかったんだな。
そう結論づけるのは、少し寂しいことではあるけれど、
今の自分をちゃんと知ってあげられたうれしさもある。
今の私には、納得のいくものが書けなかった。
それを認めて、進むしかない。

認めて、仕事を降りて
そしてしっかりと書く力をつける。
確かな力を。
いつかプロとして、恥ずかしくない仕事を出来るようになった時
あの人たちに恩返しできるチャンスがくるかもしれない。
なんて思うのは、甘いかもしれないけれど。

少なくとも、今の私の精一杯の誠実さで出した答えが、
「降りる」ということだった。
私にも、相手企業のためにも最善だと思って出した答え。
この決断に、誇りを持とう。

人生には、こうした「決断」の瞬間が、幾度もある。
これまでの決断を振りかえっても、
一度でも完璧な答えを出せたと思えることは思えない。
悔やまれる瞬間もたくさんある。
今日のこの決断を、これから先、悔やむこともあるかもしれない。
だけど、私は私に正直に。

ごめんなさい。
ふがいなくて情けない私と
仕事をしてくれたこと
心から、ありがとう。