【連載小説】あなたと、ワルシャワでみる夢は #1
LOTポーランド航空80便は定刻を約10分遅れて成田空港を離陸した。
ワルシャワ・ショパン空港にはサマータイムの時差もあって現地時間14:30に到着予定だ。
稜央は早々にスマートウォッチのタイムゾーンをワルシャワに合わせると、上昇を続ける機の気圧のためか急激に睡魔が襲い、目を閉じた。
* * *
食べ物の匂いに目を覚ます。既に機内食のサービスが始まっていた。
Beef or Chikenではなく "和食か、パスタか" だった。稜央は和食にした。
蕎麦がついていた。
ビールは日本のビールかポーランドのビールかを選べたので、せめてポーランドのŻywiec(ジヴィエッツ)にしてみた。飲んでみて普通のビールか、気持ち少し薄味なのかな、と思った。
食事が済んで窓の外を見ても雲の上であり、晴れていたとしてもおそらくシベリア上空、単調な景色だ。
しばらくすると機内の照明も薄暗くなった。
映画のプログラムも特に興味のあるものはなく、再び一眠りしようと思った時、ふと足元のカバンを取り上げ、中から一通の封書を取り出し、独特な筆運びで書かれた差出人の名前を眺めた。
* * *
ワルシャワ・ショパン空港…現地名オケンチェ空港はシンプルな空港だった。
見慣れないポーランド語表記に戸惑いながら、バゲージをピックアップして『Exit to Town』の表記を目指す。
市内に出るにはタクシー、バス、電車の表記があった。前もって調べた電車に乗ることにする。
ホテルはワルシャワ中央駅向かいにあるマリオットが予約されていた。
地下に潜り、赤い車体の比較的新しい電車に乗り込む。
15分もかからず、電車はWarszawa Centralna(ワルシャワ中央駅)に到着する。空港は中心街にとても近い場所にあるのだ。
ホームは地下にあり、中央駅とは言ってもホームは4本しかない(日本の感覚のプラットホームだと8本)。東京駅のそれと比較すると殺風景だし人も多くなく、ポーランドは田舎なんだな、と勝手に感じた。
駅から外に出るにはちょっとしたコツがあって、長いこと地下街のような所をウロウロした。何しろポーランド語表記がわからない。
マリオットの表記がようやく見えてきて、地下からホテルへ上がることが出来た。
チェックインを済ませると、26階の部屋を案内された。
窓からの景色は駅とは逆の、高い建物がほとんどない、のどかな景色が広がっている。
やはりポーランドは田舎なんだな、と思う。
キングサイズのベッドに寝転び、カバンから封書を取り出し、再び眺める。
電子のご時世に、封書が届く。しかも海外から。
年賀状ですらもうほとんど誰ともやり取りなんてしないのに。
封書の差出人は野島遼太郎、とある。日本語だ。
あの人らしい、綺麗とも汚いとも言えない、独特の筆運びだ。意思の強さや威厳を感じさせた。
使われたペンもおそらく万年筆と思しき、ほんの少し滲んだ濃藍のインクだった。
稜央は目を閉じる。
たった4年、されど、4年の月日を思い。
* * *
旅の疲れかいつの間にか眠っていて、気がつくと20時近かった。しかし外はまだ夕暮れと言った感じだ。
ワルシャワは北海道より遥かに緯度が高いという。日が暮れて辺りが暗くなるのは、8月のこの時期だと21時を過ぎるとのことだ。
お腹が鳴る。
どこかで食事でも、と思いスマホをホテルのWi-Fiに繋いで店を探そうとすると、メッセージの着信があった。
遼太郎からだった。
着信時刻は15時前だったから、だいぶ前に届いていたことになる。
稜央は『はい、着きました』と返信した。
しばらくすると通話の着信が入った。
『ホテルにいるのか?』
「はい、部屋で…寝ちゃってました。これから飯でも食いに行こうかなと思ってました」
『ちょうどいい。俺もこれから晩飯を、と思っていたんだ。じゃあ迎えに行くから、ロビーで待っててくれないか。30分後に着くから』
わかりました、と切った後、急激に緊張してきた。
父に会うのは4年振りだ。
#2へつづく
↑この曲をテーマソングっぽく。こういう柔らかさがこのシリーズに滲み出ていたらいいなと思います。
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