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Berlin, a girl, pretty savage

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遼太郎の娘、野島梨沙。HSS/HSE型HSPを持つ多感な彼女が日本で、ベルリンで、様々なことを感じながら過ごす日々。自分の抱いている思いが許されないことだと知り、もがく日々。 幼…
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#父と息子

【連載小説】あなたに出逢いたかった #19

道すがら稜央が藤井にメッセージを送るためにスマホを取り出すと、遼太郎が "おやっ" といった顔で見やった。 「それ…」 言われてハッとした。会う前に外そうと思っていたベルリンベアのキーホルダー。すっかり忘れていた。 「あ、これは…」 「ベルリン、気に入ったか」 遼太郎の言葉は思いがけなかった。まさか梨沙が…あなたの娘が…僕の妹がくれたんだよとも言えず、曖昧な表情を浮かべる。 「あ、うん…」 「まぁ日本人観光客に合う街とは、よく聞くけどな」 「そういえば父さんはどうし

【連載小説】あなたに出逢いたかった #18

遼太郎にとっても馴染みのない横浜だったが、仕事仲間に紹介してもらった店を予約していた。 箸で食べる焼鳥と、それにペアリングで出される日本酒が売りの店だ。 店内は常連と思しき男性3人組と、少々年齢層の高い男女4人が誕生日会らしきものを開いていて、少々賑やかだった。 そんな喧騒を背に2人はカウンターに並んで座る。目の前では店主が忙しそうに串を炭火にかけている。 乾杯のドリンクは自由との事だったので、2人は生ビールを頼み、グラスを合わせた。 「こっちに出てくるのは久しぶりか

【連載小説】あなたに出逢いたかった #17

歩いているうちに日もだいぶ傾いて来た。稜央は見つからない。 マジックアワーは梨沙の大好きな時間だ。愛する人の色…父親の “色” がこの黄昏時の色なのだ。梨沙の持つ共感覚は子供の頃よりは弱まっているものの、色を見ることが出来る。 くん、と鼻を鳴らす。慣れない土地と大勢の観光客せいか雑多な匂いがすごかったが、微かにあの大好きな匂いも感じられそうだった。 そうして梨沙は、前をゆく康佑の肩の向こう遠く、視界に入った姿にハッと目を見開く。 「…パパ?」 遼太郎によく似た後ろ姿

【連載小説】あなたに出逢いたかった #4

「酒が飲めるようになるまで2人ともまだまだだなぁ」 夕食後、ホテルの部屋で酒を飲む遼太郎がポツリと言った。正宗の家の酒を四合瓶で購入しては、食事を済ませた後にこうして部屋で飲むのだった。 「僕はお酒飲まない気がするけどね」 蓮は幼い頃から一貫してそんな事を言っている。 「二十歳になったら試しに飲んでみてくれよ。意外といけるかもしれないだろ」 「蓮が飲まなくても私は18になったらドイツでパパと飲むから!」 梨沙もまた、言うことは一貫している。 「残念だな。日本の飲酒

【連載小説】Berlin, a girl, pretty savage ~Childhood #17

そしてまたまた小事件が発生する。今度は家で。梨沙が中学2年の秋。 いつものように夕食を取るのに遼太郎の帰りを待つ梨沙に、先に夕食を終えた蓮が、夏希が風呂に入っている間にこう言った。 「お姉ちゃんさ、いつまでお父さんに甘えてるの? もういい歳のくせにさ」 普段口数も少なく大人しい蓮が、梨沙に対して攻撃的なことを言うのは珍しいことだった。梨沙自身も驚いたが、近頃のアンガーマネジメントもあり、初めはグッと我慢した。 けれど蓮も、いつか言ってやろうと思っていた。 お姉ちゃんが

【連載小説】Berlin, a girl, pretty savage ~Childhood #8(番外編)

ベルリン赴任4年目の春、遼太郎は社長から直々に帰国後に執行役員の席を用意すると連絡を受けた。 今まではそういった役職を会社は抱えてこなかったが、会社の規模も少しづつ大きくなり、ここ数年は組織改編も活発なためそういったポストも必要になってきたのだろう。 サラリーマンたるや、入社したら社長を目指すのは自然な目標であるものの、なかなか明言することはないだろう。しかし遼太郎は入社式の抱負で同期の前ではっきりと『俺はトップを目指す。俺が会社を動かす』と語り、ざわつかせたことがある。

【連載小説】Berlin, a girl, pretty savage ~Childhood #7

蓮もまた、小学校入学の選択をする時期が来た。 梨沙は入学が早かったため、3年生に進級する年だった。 「蓮、お前はどうしたい?」 そう問うた遼太郎に蓮はしばらく口ごもってから「お姉ちゃんと同じ学校に行きたい」と言った。遼太郎は正直驚いた。 「いいのか?」 「…うん。僕もお姉ちゃんと同じがいい」 やや遠慮気味だったのは、恐らく夏希からは日本人学校に行った方がいいと暗にそそのかされていたからだろう。梨沙の時も多少揉めたのだから、蓮にだって同じ思いを抱いたに違いない。 「ど