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(1) そうだ、いざマヨルカ島へ!

 最近、インドのワインが評判です。自分も飲んでみましたが、美味しいです。スパイシーなカレーに合いそうな濃厚な赤ワインもあります。どちらかというとフランスのボルドーワインに近い味わいで、まろやかでコクのあるタイプです。ナンにチキンカレーがあれば、いくら飲んでも飽きない深みのあるワインです。

 インドならワインに限らず、心も癒されるのかもしれませんね。ガンジス川でヨガに励み、菩提樹の下で瞑想し、悟りの道を開く。でも、そのためには長い月日の修行を要し、10年間も休肝日が続くかもしれません。それでは美味しいワインは探せませんぞ。

 アルゼンチンもいいかもしれません。
 この国も素晴らしいワインをたくさん造っていますよね。月子さんに初めて会ったとき、マルベックという葡萄品種のワインを教えてくれました。実に美味しいと思いました。「フランスでも取れる葡萄だけと、いまじゃマルベックといえばアルゼンチンかな」と、月子さんが言いながら自分に注いでくれたのを覚えています。月子さんは、アルゼンチンのワインのこともよく知っているのではないかと考え、アルゼンチンも除外することにしました。

 イスラエルにも「ヤルデン」という実に美味しいワインがありますが、日本にもすでにファンがいるほどなので、月子さんは知っていることでしょう。
 月子さんとノブちゃんが知らないワインを飲みたい、そしてそのことを誇らしげに語り、あなたたちにも飲ませてあげたいのです。

 ロシア、ブルガリア、ジョージア、アゼルバイジャン、スロベニア、ルーマニア、グルジア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、スイス、ドイツ、イギリス、オーストリア、モルドバ、キプロス、イスラエル、ギリシャ、モロッコ、南アフリカ、チリ、コスタリカ、ブラジル、タイ、インド、中国、ニュージーランド、オーストラリア、アメリカ……と世界中でワインが造られ、どこに行こうか迷いに迷い、考えあぐねているうちに、その昔、月子さんに買っていったスペインの白ワインのことをふと思い出しました。「アルバリーリョ」というスペインの白ワインのことです。 
 
 覚えていますか。月子さんはフルーティでどこかシャルドネのような豊かさを感じさせて美味しい、美味しいを連発し、これは初めてだわと嬉しそうに笑みをこぼしていましたよね。あの素敵な笑顔が忘れられません。自分はひねくれ者ですから、あなたのようなプロのソムリエが知らないワインを見つけ出すのが楽しく、「あなたでも知らないのか」と、愉快でした。アルバリーリョにはノブちゃんも感動していました。

 いまでも自分が一番好きな白ワインは、このアルバリーリョです。でも、あなたはイタリアの辛口「ヴェルディッキオ」のほうが美味しいと譲りませんでしたね。何しろ白ワインの大ファンでしたから。赤やロゼよりも白ワインが大好きだった。
「ほろにがい後味があって、ヴェルディッキオのほうが飽きないわよ。繊細でいて、しっかりしたボディが楽しめて、オシャレな味だわ」

 自分は反論しました。
「そうかな。女性ならフルーティなアルバリーリョのほうが好きになると思うけどな。特に真夏なんか冷やして飲めば最高だよ。夏の海風のようなふくよかな味わい、それでいて辛口で香り高く、色は黄金、ゴールデン。真夏、二人で夕日を眺めながら飲むには抜群、ふくよかな乳房のような丸みを感じさせる口当たりが最高だ。月子さんのオッパイみたいだ」 
「変態! ワインを飲んでいる子なら、絶対にヴェルディッキオよ。口の中で広がる大人の味、複雑で繊細な香り、ほろ苦い恋の味がする」――そう言って絶対に譲りませんでしたよね。そこがまた頑固で気が強い月子さんらしく、自分にとっては愉快でした。月子さんに二度と言いませんでしたが、自分はアルバリーリョを飲むたびに月子さんの胸を連想していました。あのふくよかなオッパイを。


ヴェルディキオとアルバリーリョ、どちらが美味いか。食事にもよりますね。。。。

 アルバリーリョといえば、スペイン北部のリアス・バイシャスがその聖地に違いない。でも、月子さんはすでに知っているはず。ワインのド素人たる自分ですら、リオハやリベラ・デル・ドゥエロがスペインワインの有名な産地だということぐらいは知っていますが、そんな有名なところでは月子さんの飲んだことのないワインを探し出すことは難しいでしょう。スペインといっても広い国です。誰も知らないスペインの僻地、隠れスポットに行きたかったのです。 そこで地図とにらめっこしていると、自分の目線が偶然とバルセロナの西、地中海に浮かぶある島を捉えたのです。

 マヨルカ島!

 そうだ、マヨルカ島に行こう! いきなり閃いたのです。まるで天から降ってきたお告げのようでした。
 マヨルカ島へ! 

マヨルカ島で待っている街並みとテディベア


 マヨルカ島が待っている!

 長い長いメールになるかと思いますよ。だけど二人にうまく説明できないことを、どうしても、どうにか説明したいのです。なぜ、月子さんとノブちゃんが大好きだったのに、あんな悲しいことが起きてしまったのかを。
 写真も送りますね。
 また、メールします。
 (続く)


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