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「還暦の美大生」、人生リデザイン、その行方は?

武蔵野美術大学大学院・クリエイティブリーダーシップ(CL)コース・一期生 
木越 純

 あとひと月で美大生もおしまい(2月28日現在)、「卒展」に向けて準備にいそしんでいるところです。美大の大学院ですが、CLでは作品制作ではなく学術論文が課せられています。私の修士論文テーマは「金融機関による企業戦略としてのアート・プロジェクトの事例研究」。平たくいえば、アート・パワーで日本の金融を元気にしたいという問題意識から取り組んだテーマです。様々な取り組みをしている6社にインタビューをして事例研究としてまとめました。さて、この論文の内容を美大的センスでどう展示にするか、単なるパネルでは面白くないしと手を動かしながら(美大的には重要)思案中という訳です。

 かくいう私は、CL一期生35名(入学時)では2番目の年長者、デザイナーやクリエイター、コンサルタントやエンジニアなどに混じって、金融出身者としては唯一の学生です。2019年4月の入学式の時に、会場の係の方に保護者席に誘導されたのはご愛嬌。翌週から始まった毎夕午後6時10分から夜半に及ぶクラスやワークショップでの濃厚な時間を通じて、20代から60代までの新入生がお互いニックネームで呼び合うようになりました。6月の私の還暦をクラスメイトがサプライズでお祝いしてくれたのがとても嬉しかったです。(トップ写真)

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 そもそもなんで武蔵美CLを志望したのか、一言で言えば「人生100年時代、これからの40年どう生きる?」自らの人生のリデザインを試みたかったということでしょうか。還暦を意識し出した数年前、それまで気になっていたけど踏み込んでいなかったアートやデザインの分野の本を手当たり次第に読みました。可能な限り著者や作家に会いに行き、芸術祭や展覧会を訪ねて歩いていたところ、武蔵美が新しい社会人大学院を立ち上げると知って門を叩きました。

 仕事を続けながらの二足の草鞋は生やさしいものではありません。タイムマネジメントはもとより、思考回路の切り替えが重要です。ついつい指図する立場になりがちな会社員生活から、未経験の分野で若い仲間に教えを乞い真似るところから始まる学生生活へと、心持ちの若返りも必要です。

 武蔵美の2年間の収穫は?世の中こんなに面白いことがあるんだな、思いもかけない発想をする人がいるんだな、僕らの知らない世界で未来を切り開いている若者がいるんだなと感動したことでしょうか。教授陣や外部講師の皆さん、何よりも一期生として一緒にCLを創ってきたクラスメイトに感謝です。

 武蔵美ならではのキーワードを3つご紹介します。「ムサビ菌」「造形リテラシー」「プロトタイプ」。入学式での長澤学長の式辞で発せられた「ムサビ菌」が気になって仕方ありませんでした。武蔵美の創造性に感染させる何か得体の知れないものを体験しに、一年目には毎週土曜日に鷹の台まで通い学部生・留学生との混成クラスに参加しました。。次いで「造形リテラシー」。自らの発想や思索を、ペンや口頭ではなく二次元や三次元の造形を通して表現することでしょうか。画家教授による毎回の課題に意表を突かれ、自らの発想の貧困に戸惑いながら、創造力を養う為などと言った講釈無用で楽しみました。「普通やらないやり方で馬の絵を描いてください」のお題に左足を使って描いたのがこの絵です。途中、足が三度つりました。左足を思いつくまでずいぶん時間がかかりましたが、足を絵具で濡らし描き切った後の達成感はなかなかのものでした。

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 最後に「プロトタイプ」。物を生み出す時に頭で考えるだけでなく、手を動かして幾つも幾つも試作してダメ出しして更に試作を重ねるデザイナーのやり方です。デザイン思考って?思考ではなく見て聴いて手を動かす行動であることと理解しました。因みにこの新学科自体がプロトタイプ、先生も生徒も一緒になって侃々諤々試行錯誤をしてきた2年間だったように思います。

 さて卒業後は? これまで過ごしてきた金融やビジネスとは違った世界を見たくて飛び込んだ武蔵美でしたが、今はアートとビジネスの橋渡し役となり日本の金融を元気にするお役に立てればと勝手に妄想しています。修論の要旨はこんな風に締めました。「不確実性が高まり金融機関を取り巻く環境が厳しさを増している今日、金融機関が社会の一員としての責任を果たし、自己変革を遂げるきっかけをつかみ、またこれからの金融サービスのあり方を問う上で、アートに取り組む意義があると考える。」

これからの展開をご報告する機会が、いずれあればと思っています。(了)

筆者プロファイル
1959年東京生まれ。この道38年の金融マン。邦銀に25年勤続したのち、外資系金融機関に移籍し現在に到る。2020年から立命館ビジネススクール客員教授を兼職。国際基督教大学卒、ロンドンビジネススクールMBA。子供の頃から図画工作が大好き。人生100年時代に残る人生のリデザインのため武蔵美CLを志望。「アートとビジネス」が研究テーマ。家族はワイフと二女。趣味は鉄道とアート。


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