「変わっていたい私」と「変わらない君」<2>
自分が無理をしていることに気付いたところで
どうすればいいのか、私にはわからない。
ただ自覚した上で、無理をし続けるしかない。
いつからかずっと聞こえている
身体と心の叫びを聞こえない振りをしながら
また今日も私は教壇に立つ。
仕事納めまであと2日と迫った日。
あまりに懐かしく、そしてあの頃と何ひとつ変わらない笑顔で、
彼は私に笑いかけていた。
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これは心身ともにボロボロだった私に起こった
嘘のようで本当にあった不思議なお話
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彼の夢を見た10日後、ふと携帯に目をやると
1人の旧友からLINEが届いていた。
「明後日、ユウキが帰ってくるんやけど、久々に集まらん?」
成人式に会って以来だから、約10年振りの再会。
冬期講習、真っ最中で超繁忙期。
ただでさえ心身ともにボロボロだった。
もし、あの夢を見ていなければ断っていたかもしれない。
「会いたい」
心からそう思った。
仕事が終わり、LINEを打ちながら駆け足で待ち合わせ場所に向かう。
「よぉ」
迎えに来てくれていたのは今日誘ってくれたリク。
中学時代はユウキとよく3人で一緒にいた。
あの頃からお父さん感はあったけれど、今は本当にいいお父さんだ。
そして、もう1人、中学時代の同級生を加えて、4人での再会。
何の縁か、共通していたのは、不規則な仕事をしていることぐらいで、あとは結婚していたり、子供ができていたり、
15年前、同じ教室で同じ時間を過ごしていたときとは明らかに、違う世界をそれぞれ生きていた。
もうすぐ30歳。世間ではもういい大人だ。
正直なところ、こういう再会の場にはあまり行きたくなかった。
自分で選んだ道とはいえ、きちんと就職していないうえに、結婚の予定すらない自分がなんだか惨めに思えて、世間一般のアラサーの少数派として、好奇の目に晒されるのが嫌だったからだ。
「で、お前は今、何やってんの?」
一通り、軽口をたたいて笑った後、投げかけれれた言葉に、自分の顔が引きつるのがわかった。
「あーうん、塾講師だよ。でも、正社じゃないからねー」
少しずつ聞かれて、徐々に変な空気になっていくくらいなら、先に自分から言ってしまった方が楽だ。
そう思って、なるべく平静を装って答えた。
胸の奥が少し痛むけれど、大丈夫。絶対に伝わらない。
だって、私はそうやってずっと本心を隠して生きてきた。見破られたことなんて1度もない。
「お、俺も。俺もー!日雇い、日雇い!」
"医師"という明らかに世間から見て、私とは別世界にいるカズが声を上げる。
「お前は超、高日給だろー」
「どれぐらいの子たちを教えてんのー?」
変な空気になるどころか、まるで何事もなかったかのように会話が進む。
「センター試験かぁー?あれー記述だっけ?」
「いや、思いっきりマークだろ!てか、お前も受けたやろ?」
ああ、そうだ。
彼らは、こういう人たちだった。
非正規だろうと、未婚だろうと、どんな仕事をしていようと、
どんな人間だろうと、彼らにとって全く関係ない。
常に"その人"という1人の人間としてしか見ていない。
15年前からずっと。何も変わらない。
そうだ。私はずっとこの世界で生きていたんだ。
昔から些細なことで傷付きやすかった私はずっと、
この世界に、彼らに守られて、生きてきたんだ。
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