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トランスジェンダーが抱える悩みや不安とは

「トランスジェンダー」の意味や定義については前回解説したとおりだ。

今回は、トランスジェンダーならではの悩みや、社会的問題について掘り下げてみたいと思う。

体の性(セックス)と心の性(ジェンダー)が一致しないことで、抱える悩みとはどういったことがあるのか。現在彼らを取り巻く社会的な問題とは。

トランスジェンダーであるがゆえの悩みと現状

トランスジェンダー用語に「埋没」という言葉がある。

社会生活において、体の性別と心の性別がちがうことを悟られないルックスであるかどうか、を表す言葉だ。

このような特有な用語ができるほどに、トランスジェンダー、特にトランスセクシャルの人々は、自分が他者からどう見られるかを気にしている。

「自分は本当は男なのに『元は女なんだ』と思われたくない」
「自分は女なのに、『元は男だってことは、オネエなの?』と言われて、自分の体の構造を憎んだ」

などなど。セクシャル・マイノリティの中で、他者からどう見られるのかを一番気にしているのではないかと思えるほど、前述のような意見を目にする。

そもそも、特にトランスセクシャルの人は、「トランスジェンダー」として扱われることは一切望んでいない人が多数で、シンプルに「男性」「女性」として社会生活を送りたいだけなのに、なぜ、やれ元男性だの元女性だのだと揶揄されねばならぬのかと、苦しんでいる人は多い。

■トランスセクシャルの人々の苦しみ

以前、FtMの友人が知人に仕事を紹介してもらって転職した際、「女から男に戸籍変更をしたことを証明する書類を送ってほしい」と転職先から言われた。そのことで、知人にアウティングされたことを知ったという出来事があった。

彼は、知人には口を酸っぱくして「自分は職場では、カミングアウトするつもりはない。男として入社するのだから」としつこく言っていたにも関わらず、本人の知り得ぬところで上層部に勝手に伝わっていたのだ。

「自分はたくさん辛い思いをして、戸籍も、保険証も、体も、何もかもが『男性』を示すようにがんばってきたのに、あまりにも理不尽ではないか? 今まで、友人は自分のことを理解してくれていると信じてきたが、そうではなかったことがとてもショックだ」と、当人は涙ながらに語ってくれた。

手術をして、戸籍を変える前の人生と、そのあとの人生は、トランスセクシャル当事者にとっては100億光年ほどの差がある。

ホルモン治療をはじめてから手術するまで、そして戸籍を変えるまでには、通常長く時間がかかる。その時間ですら、当事者にとってどれほど辛いものか。

もし、戸籍が見た目と逆の性別だった場合、入社するときに必ず人事には言わなくてはならない。会社では、自認している性別として仕事をしたい。

もしも、人事が口を滑らせたら? 影で「あの人実は、元々は性別がちがうんだってヒソヒソ」と差別されたら?

こんな現状があることを、まったく知らないし想像もし得ないLGBは多い。

「LGBT」と一括りにしても、このように、それぞれのセクシャリティの間に垣根があり、互いのことを理解していない場合があり、当然だが一概に「LGBTだからみんな仲よし!」とはいかない。

ここ半年を思い返すだけでも、報道される差別発言がわんさか出てくるのは、本当に、悪い意味で目頭が熱くなるし、癒しは唯一神おキャット様しかいない……(by カレー沢薫先生)。

ツイッターのせいで高校からの友達が死んだ

インターネット上でも、トランスジェンダー問題については可燃性が大変強く、以前「ツイッターのせいで高校からの友達が死んだ」というエントリーを目にし、私は、読みながら涙し、心臓が押しつぶされるような気持ちになった。

去年、お茶の水女子大学が、トランスジェンダーの女性を受け入れるというニュースを発表したことをきっかけに、トランスジェンダー女性に対するさまざまな誹謗中傷を目にしたMtFの方が、Twitter含め直接的に「男体持ち」「トランス様」など誹謗中傷や攻撃にさらされ、自死に追いやられてしまったという、本当に悲惨な出来事だった。

お茶の水女子大学のニュースが発表された当時はTwitterで、「俺も女装して御茶ノ水受けようかなwww」などと揶揄するような発言も散見され、地獄絵図の極みであった。

県議による不当な中傷

時期を同じくして、LGBTを支援する市民団体「のりこえねっと紫の風」の上田地優(ちひろ)代表が、2017年に島根県庁で記者会見した。2018年9月の審議の場で男性県議が「女性の風呂に男性のものをぶら下げた人が入ったら混乱する」と発言したのは不適切だとして謝罪を求めたのだ。

「トランスジェンダー」への恐怖を煽るような発言

今年に入ってからは、1月に元参議院議員の松浦大悟さんが、2019年1月5日放送のAbemaTV「みのもんたのよるバズ!」で、事実誤認にもとづいて「トランスジェンダー」への恐怖を煽るような発言をし、大バッシングが起こった。

野党提出のLGBT差別解消法案を批判する流れで「男性器のついたトランスジェンダー女性を女湯に入れないと差別になる」と語り、性犯罪を助長するのではないかと発言したのだ。

この発言はSNSでも拡散され、彼のトランスジェンダーへの無理解さが露呈した。松浦さんは、2017年に自身がゲイであることをカミングアウトしている。トランスセクシャルの人々の現状を知っていれば、このような発言が出るはずがないのだ。

■トランスジェンダー内でも、男女によって差がある

前述のような差別的な発言を目にする機会があるたびに、不思議に思っていたことがある。

それは「なぜか、社会的に槍玉に挙げられる攻撃対象はMtF(トランスジェンダー女性)で、FtM(トランスジェンダー男性)に関するネガティブなことが言及されているのを、ほとんど目にしたことがない」ということだ。

松浦大悟さんの発言にせよ、御茶ノ水大学の件にせよ、いつも攻撃されるのは「現女性」だ。

メディア上ではまるで、FtMの人は透明人間であるかのような扱いに、私には見える。テレビでも、MtFの芸能人はたくさん出演しているが、FtMの芸能人はほとんど見受けられない。

これは私の持論なので、あまり重く捉えてほしくはないのだが……。

世界経済フォーラム(WEF)は2018年12月18日、各国のジェンダー不平等状況を分析した「世界ジェンダー・ギャップ報告書(Global Gender Gap Report)2018」を発表し、世界149カ国を対象とした、2018年版の「ジェンダー・ギャップ指数(Gender Gap Index:GGI)」を公表した。

日本は、149カ国中110位を叩き出し、G7の中で圧倒的に最下位だったのだ。

私は、このジェンダー・ギャップは、MtFの人たちにとっても多大な影響を与えていると思う。

私の個人的な実感としては、シスジェンダーの男性は、シスジェンダーの女性よりも社会的優位に立っていると感じる。それと同じように、同性愛者であっても、シスジェンダーゲイのほうがシスジェンダーレズビアンよりも、社会的には優位に立っていると感じられる。

ではトランスジェンダーは? やはり、ジェンダーが男性のほうが、社会的優位に立っており、ジェンダーが女性の方が攻撃対象になりやすいように感じるのは、気のせいではない。

私個人の見解で書くが、汚い表現をすれば、FtMは「女性から男性に“上がる”」、MtFは「男性から女性に“降る”」という印象を、どうしてもぬぐい去れない。

これは、日本特有の、ジェンダー・ギャップと男尊女卑が私にそう感じさせるのかもしれない。日本における「男女平等」は、幻想だからだ。

私は、トランスジェンダーの友人、知人が多いからこそ、自身が認識している性別と自分の肉体との乖離に苦しむ姿を、大多数の人よりも目の当たりにしていると思う。

だからこそ、性別適合手術を受けていないトランスジェンダーの人が、自分のジェンダーにそぐう公共の浴場に日常的に出向くなんてことは発想にも至らないし、そんな発言をする人は、自分勝手な想像の中ですら理解しようともしない、無責任な人間だと思った。

なぜなら、水着やラッシュガード、ウェットスーツを着るような場所にすら行きたがらない人がトランスジェンダーの人々の中には大勢いるのを、知らずに発言したということがすぐにわかるからだ。

■日常生活での悩み

トイレのこと、カミングアウトのこと

2020年の東京オリンピックに向けて、公共トイレが変化するであろうというニュースをご存知だろうか。

女性用トイレの中に、FtMの人が入りやすいように別の個室を設置したり、「誰でもトイレ」を設置し、「体の性とちがうトイレに入ることで、意図しないカミングアウトを防ごう」という意図があるそうだ。

私はこのニュースを見たとき「はあ?」という感想しか出なかった。

FtMの人は女性用トイレにはまず入らないし(だって、男性は女性用トイレに入らない)、「誰でもトイレ」の存在も、「トランスジェンダーだから入ってるんじゃないの?」と、「意図しないカミングアウト」に繋がらない保証、何もないじゃん! と、的外れ感にガッカリした記憶がある。

冒頭で述べた、カミングアウトすることなく「埋没」したまま日常を送りたいと願う当事者が多い事実。それが理解されていれば、こんな的外れなことは起こらないであろう。

制服のこと

以前 #となりのLGBTシリーズで紹介したが、千葉県柏市立柏の葉中学校で「ジェンダーレス制服」が導入されることは、特に若い当事者にとっては非常にありがたいことだろうと思った。

なぜなら、「自分がもしかしたらトランスジェンダーかもしれない」と認識しはじめた思春期の子どもにとって、自認の性別とは異なる性別として振り分けられた制服を着ることは、拷問でしかないからだ。

私個人の意見だが、そもそも、性別で制服の形状(パンツ、スカートなど)や、カバンの色を学校側が指定すること自体、ナンセンスだと感じるので、やっと学校側から選べるシステム出してくれたんだ~!! と、とてもうれしかった。

私だって、選べたらきっとスカートもパンツも、リボンもネクタイも全部その日の気分で選ぶと思うから(これは、トランスジェンダー、シスジェンダー関係なく豆林檎の個人的な感想です)。

「トランスジェンダー」の汎用性と当事者以外にできること

前回にも説明した通り、「トランスジェンダー」という言葉は広義に渡って複数のセクシャリティを内包する用語である。

その中でも、おそらく一番取り上げられるのは「トランスセクシャル」。

なぜなら、トランスセクシャルの人にのみ、医療行為と法的手続きが関わってくるからだ。

学校に通うにも、職場に勤めるのも、すべて含めて社会的生活を送るには、男性か女性、どちらかの性別として生活しなくてはならないことがほとんどな現状。

体の性別と心の性別に差異がある人にとって、

「なぜどちらの性別に決めなくてはならないのか」
「なぜ、自分はシスジェンダーの同性愛者で生まれてこれなかったのか」
「なぜ常に、ジェンダーロールに従わなくてはいけないのか」

さまざまな苦悩が常に渦巻いている。

それを、すべて包み込んで「トランスジェンダー 」だと思う。

そして、これはトランスジェンダーに限ったことではないが、当事者ではない人々ができることは以下のことだ。

「必要以上に干渉しないこと」
「必要以上に踏み込んだ質問をしないこと」
「興味本位で相手のプライバシーに土足で踏み込まないこと」
「もしも、自分がカミングアウトしてもらえたときには、決して当人の許可なく他者に口外しないこと」

当事者にとっては、現行で生きている性別が当人の性別であるから、元の体の性別がどうだったかどうか、日によって性別に揺らぎがあろうがなかろうが、当人以外の人が物申していいことは何もない。

そもそも、自分たちが簡単に理解したいからと、自分の価値観にほかのセクシャリティを押し込めようとすること自体が、理不尽なのだ。

多様な価値観、セクシャリティの人々が同じ社会で生きるためには、過干渉せず、受容することが大切だと思う。

(豆林檎)

<参考・引用文献>

ツイッターのせいで高校からの友達が死んだ | はてな匿名ダイアリー

LGBTめぐる島根県議の発言は「不適切」 支援団体代表、謝罪求める | 産経新聞 THE SANKEI NEWS

松浦大悟さんの「女湯に男性器のある人を入れないのは差別」論への疑問 | BuzzFeed Japan

【国際】世界「男女平等ランキング2018」、日本は110位でG7ダントツ最下位。北欧諸国が上位 | Sustainable Japan サステナビリティ・ESG投資ニュースサイト

シリーズ東京五輪今昔物語 トイレは五輪で変貌する | NHK NEWS WEB 全部わかる 東京五輪・パラ特集

制服「女子も男子もスカートOK」 | NHK NEWS WEB

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