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1年で8928キロ歩く父

父の趣味はウォーキング。

と言っても、近所をちょっと歩く程度ではなく、毎日20キロ以上を平気で歩く。

万歩計をつけて、ビジネスマンの人も最近は持たないようなB5判の手帳に毎日何キロ歩いたかを記録し、集計までしている。

「年間でどのくらい歩くの?」と何気なく聞いてみると、去年の手帳を開き、「8928キロ」と自慢げに答えた。

すごい!と思うけれど全くピンと来ない数字。その距離を歩いたら、どこまで行けるんだろう?

毎日ウォーキングを続けていても、膝を壊したことは一度もないらしい。丈夫な足でよかった、と心から思う。

父は私が小学1年生の時に、左手を失った。
工場で勤めていた父は、機械の清掃中に誤って腕を巻き込んでしまったらしい。手術で左腕の肘上から下を切断することになった。

傷の治りが悪くなるから、という理由で入院中に父はタバコをきっぱりやめた。
そして、その何年か後に転職してから、慣れない事務仕事に就き、ストレスが大いに溜まったらしく、タバコをやめて食事量や間食が増えたのもあってか、見事に太った。

ウォーキングを始めたのは、定年を過ぎてからだ。スタートは、ダイエットが目的。
半年も経たないうちに、15キロも体重を落としたらしい。知らない人が久しぶりに会ったら「何かの病気…?」と思われるほど、激痩せした。

痩せてからもライフワークのようになったらしく、毎日毎日歩いている。雨でも歩くし、旅行に行く日だって朝から歩いている。

最近の父の野望は、歩いて孫に会いに行くことだ。

孫が住むのは、2つほど市を越えて40キロ以上離れた場所。
Google マップによると、歩くと9時間以上かかる計算だ。普通は歩いて行こうなんて思う距離ではない。

実は、まだ60代だった頃に1回達成している。
朝から歩いて、昼休憩を取って、夕方には着いたらしい。孫達はあきれつつも喜び、本人はかなりの達成感があったようで、今も時々武勇伝のように語る。

孫は、もう高校生と中学生。実家に来るのも年に数回。GWは、STAY HOMEで帰って来なかった。
「オンラインで話せば?」と言っても、パソコンは使うくせにアナログな父は恥ずかしいのか、やろうとはしない。

コロナを理由に歩いて行こうなんて考えているのだろうか。
オンラインで話せる時代に歩いて会いに行くなんて、それはそれでなんだか父らしい。
きっと、機会を見つけて会いに行くんだろう。自分の足で。
その日のために、父は今日も歩いている。

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