静的に捉えると対立しているように見えることも、動的に捉えると調和する。
今日は『ソーシャル物理学 - 「良いアイデアはいかに広がるか」の新しい科学』(著:アレックス・ペントランド)より「探求とエンゲージメントの反復と創造性」を読みました。
エンゲージメント、すなわちネットワークの中で「繰り返し行われる協調的交流」が個々の価値観、行動を変え、やがて規範となり文化が形成される。「エンゲージメントが成功する条件とは何だろう?」という問いが生まれ、その答えの一つが「対面でのコミュニケーションの多様性」なのでした。
コールセンターの事例では、メンバーがバラバラに休憩を取るのではなく、チーム単位で休憩を取ることで、情報やアイデアの流れ(交換)が生まれ、全体として生産性が向上することが明らかになっています。
自然界では、様々な生物がコミュニティで他のメンバーと交流し、協調的な行動をとります。ミツバチの集団的意思決定において最重要であるものは、「コロニーをどこに移転するか?」というものです。「どの場所が最適か」をどのように決めると良いのでしょうか?
最初から全ての個体が「最適な場所」に関する情報を持っていたとしたら、答えは自明であり、そもそも集団での意思決定は必要なく、個々人の判断で同じ場所に向かえば全体としても最適な意思決定がなされるはずです。
一方、組織として最適な場所に関する情報を持っていない場合は、環境を探索して情報を集め、逐次的に情報を更新しながら、最適な場所を決めていくことが求められます。
ミツバチの事例からは、最初は個々のメンバーがバラバラに行動して、候補地(選択肢)を広く洗い出すことがわかります。その上で、「ダンス」による投票と共感を通じて選択肢を絞り込むプロセスが入ります。発散(探索)と収束をを繰り返しながら、全体として最適な意思決定を行います。
「探求に最も適している星形のネットワークと、エンゲージメントやアイデア統合、行動変化に最も適している、ここが密接につながった凝集性のあるネットワークを切り替える」とは、どういうことなのでしょうか。
コールセンターの事例のように、休憩の話を取り上げて考えてみます。食事を一人で取るのか、同じチームのメンバーと取るのか、あるいは他のチームメンバーと取るのか。この三択で言えば、星形のネットワークとは他のチームメンバーと食事をすることに該当すると思います。他のチームメンバーと食事をしながら、お互いの状況や情報、アイデアを交換する。そして、元のチームに戻り、密な関係性の中で他のチームのアイデアを共有する。
外と内を交互に行き来することが、情報やアイデアの流れを最適化することにつながっているのだと理解しました。読書も同じかもしれません。本を読むことは、他者(すなわち著者)との交流であり、情報やアイデアの流れを整えています。
「誰もが皆と会話する状態をつくり出そうとする」との言葉が印象的です。自分の所属だけに閉じず、外に飛び出していく。誰とでも自由に会話する機会が開かれている。そのようなネットワークをいかに作ることができるか。
えてして組織やコミュニティが大きくなると、セクショナリズムが生まれて限られた範囲での交流が繰り返されるようになり、情報やアイデアの流れが滞ってしまう。結果として集団的知性が発揮されなくなる。いつも同じ人と食事や会話をしているな…と感じたら、意識して間を空けてみる、あるいは関係性をシャッフルしてみるとよいのかもしれません。
離れたり集まったり。発散と収束、不安定と安定。相反することを繰り返す中に全体最適、調和が存在するのかもしれません。繰り返すということは、そこに「時間」が存在しています。対立や矛盾を乗り越えるために「時間」の概念を取り入れる。静的に捉えるのではなく、動的に捉えることで矛盾は矛盾でなくなる。とても興味深いのです。
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