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映画『秘密の森の、その向こう』 ファーストインプレッション

監督のセリーヌ・シアマさんの作品は監督作品も脚本作もこれまで観る機会がなかったので、作家性とか全く分かっていないのが前提です。

「少女が森で出会った少女は。。。」という予告編も実はピンと来ずに「自分が観る映画ではないのかも」と映画館上映時には思っていた。
だけど「シアマ版となりのトトロ」と表現したレビューを横目で見てから、え?そういう話?と少し気になりだして、やっとU-NEXTの配信で観ることができた。

上映時間73分のこじんまりとした、とてもキュートで可愛らしく美しい映画なのだけど、底抜けに明るいという感じではなく、いやどちらかというととても静かな何かが起こりそうな、そんな印象の映画だった。

 Petite Maman
フランス語で「小さなお母さん」
このままのタイトルではダメだったんだろうか。
『秘密の森の、その向こう』
まぁ、確かにそういう話なのだけど。

主人公の少女の名前はネリー。
母方の祖母が入院していた施設(病院?)で亡くなった。
母親のマリオンと何度かお見舞いに来ていたのだろう、さようならと各部屋のおばあさん達に挨拶をしていくところから映画が始まる。

そして、母が子供の頃暮らしていた祖母の家の片付けをするため、父親と3人でしばらくその森の中にある家に滞在することになる。

翌々日の朝、前の夜に寝付けなくて母と一緒にリビングのソファで眠っていたネリーが目覚めると、母のマリオンはいなくなっていた。
「出ていったよ、その方がいい」と父が言う。

いなくなった母と入れ替わるように、森の中でネリーは同じ年の母親と同じマリオンという名の少女に出会う。
うちに遊びに来る?とマリオンに誘われて森の奥へ行くと、自分がさっきいた祖母の家=母の実家と同じ家ではないか。
森で出会った少女マリオンは、まさに8才の頃のネリーの母親だった。
そして、その家には亡くなった祖母もまだ存命だった。

ネリーは淡々とその事実を受け止め、マリオンにも驚かないで信じてくれる?自分はあなたの娘なのと告白し、2人でほんの数日間だが同じ年の友人として、そして親子として、友情を深めていく。
そんな話だ。

それにしてもこの2人、雰囲気といい顔つきといいとても似てる。
ポスターにもなっているアートワークの2人の写真はそっくりだ。
役柄では親子になるわけだからそれも都合がいいのかもしれないけど
途中、何度も、あれ?これはどちらが喋ってる?どちらがどちらか分からなくなった。
なんとか2人が着ている衣装で見分ける感じだった。
と思っていたら、本当の姉妹だったんだなぁ。
小さい母親のマリオンの方は若干時代感を感じる服装になっているような。素材感とか。
そして、ヘアバンドをしている辺りも時代感を少し感じる。

クレープを一緒に作るシーンでは、キャッキャと笑っていかにも8才の女の子という感じだが、それ以外は基本的にはクールな佇まいの2人で、役づくりなのかフランスの女性が幼い頃から大人びているのか、この2人のキャスティングで映画の出来はほとんど決まったかのような絶妙な雰囲気の2人だった。

とても静かに映画は進行する。
家の中を歩く音、食器の音、会話、森の音、BGMもほとんどなく静謐という言葉がぴったり来るが、1時間3分過ぎ、残すところ9分あたりからはじめて音楽が流れる。リズミカルでテンポのある明るい音楽。
午後から手術のためマリオンが入院するというその日、ネリーはマリオンに「招待されて」お泊りに行っている。
前日はマリオンの9才の誕生日でもあった。
翌朝、最後の午前中、2人は湖にボートを漕ぎに出掛ける。
そのシーンで、2人の友情が本物になったことを祝うかのように高らかに音楽が流れたのではないか。
そして、その音楽はネリーがヘッドホンで聴いていた「未来の音楽」なのかな。

それにしても、森を抜けると何十年もタイムスリップするという荒唐無稽な話を、その設定を前面に出すことなく、あくまでも舞台装置の1つとしてさらっと描いている。
果たして、少女マリオンは本当にいたのか?という疑問も一瞬よぎったが、ネリーはマリオンを「未来の」家に誘い、父親、マリオンにとっては将来の夫、とも会っているしなぁ。
ネリーの想像だけの出来事ではなさそうだ。
でも、そんなSF設定を気にさせないように、とても控えめに描いている。

8才といえば、日本では小学2-3年生の低学年。
まだほんの少女だが、女の子はおませさんだし、物心もついて自分以外の身の回りのこともそれなりに理解できてくる年頃だろう。
そんなネリーが、そしてマリオンが、それぞれが抱えているぼんやりとした想い(孤独や悩みなどという形も伴っていないかもしれない)が出会って心を通わせた。

ラストシーン、病院へ行くマリオンを見送ったネリーが家に戻ると、
そこには大人のマリオン=母が待っていた。
隣にちょこんと座るネリー。

「ごめんね。」
「何が?」
「置いていって」
「謝らないで。いい時間だった」
「もう1度見たかった。変な感じね」
「うん」
「マリオン」
(母がやっと微笑み、ネリーも母に抱きつく)
「ネリー」

母マリオンは大人の姿になっているが、もう1度見たかった家は、9才になった翌日、手術のために出ていった家なのではないだろうか?
手術の後、家には戻っていないのでは?
そんな気がした。
母の名を「マリオン」と呼ぶネリー、
それを受け止めて、映画の中でははじめて笑顔を見せる母マリオン。

短編小説のように、詳細まで描き込んでいないが故に色んな解釈が出来る、行間を読めるそんな映画でした。
シアマ監督のインタビューでもあったら読んでみたい。

<了>

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