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誰かがそばにいてこそ人は立ち直れる 『To Leslie トゥ・レスリー』

ずっと気になっていたけれど、少し怖くて観れなかった映画をやっとみましたよ。『To Leslie トゥ・レスリー』

宝くじに当たって人生一発逆転のはずが、酒に溺れて最愛の息子も捨てて底辺にまで落ちてしまったレスリー。
おそらく同じことの繰り返しだったのだろう、酒と借金で他人にも迷惑をかけっぱなし。

いよいよ住むところも追い出され、行くあてもなく6年間も会っていなかった息子のアパートに転がり込むものの、
「酒は絶対に口にするな」の言いつけも守れず、挙げ句にルームシェアしていた友人の部屋からも金をくすねるそんなクズ・オブ・クズな母親。

なんとか真面目に働いて自立しようとしている息子にも見放され、昔の友人のダッチとナンシーの家に世話になることになるが、あまりの素行の悪さにそこも追い出され、いよいよホームレス寸前になる。

人の好意も酒のためなら屁とも思わず、平気で裏切り続けるレスリー。
恵んでもらう時はいい顔をするが、少しでも非難されると自分の不幸な境遇は全部他人のせいだとばかり口汚く罵り毒づくレスリー。
前半はそんなレスリーのクズっぷりをたっぷり堪能できる、もう見ていてもうんざりするような場面が続く。

他人でもおそらくうんざりなのに、身内にこんな人間がいたら親子でも勘当、
二度と俺の眼の前に現れるな!
そんな風に距離を取りたくなるような、一ミリたりとも改悛の気配が見えない。
いるよなぁ、こんな人

うちの親も身内にはここまで酷くなかったものの、借金まみれの人生で兄弟縁者からも疎遠になっていた時期があった父。
そんな父に影響されてか、元々からそういう素質があったのか、パチンコに溺れて隙を見せれば一人息子にも金をせびることしかしなくなっていた母。

そんな境遇だったから、レスリーの一人息子ジェームズのやるせなさは嫌というほどわかる。

しかし、捨てる神ありゃ拾う神あり。
そんなレスリーを部屋の掃除や雑用全般をすることで、時給7ドルの賃金と部屋つきでモーテルで雇ってやろうというスウィーニーとロイヤル。

いや、時給7ドルに部屋つきだったらめちゃくちゃ良い条件じゃない?
うーむ、そう思ってしまえるほど貧困化している日本か、、、
ま、それは置いといて。

そんな彼らも何度も裏切るレスリー。
さすがにクズオブクズ。
もう観ているこちらがさじを投げそうになっても、町の住人から蔑まれても、辛抱強くレスリーを見守り続けるスウィーニー、下心も一切見せないで。
あんた、どこまでええ奴やねん。
そんなんありえんやろ?

スウィーニーにも酒に溺れて家を出ていった離婚した妻がいたという事情があったようだ。
そんなスウィーニーがレスリーをサポートし続けたのも、単なる善意だけではなく好意を抱いていたからだと解って、むしろ少し安心したが。

そんなクズオブクズのレスリーがなんと自分の意思できっぱりと酒を絶ち立ち直ってしまうのである。
一瞬酒に引き戻されるようになるものの、そんな誘惑にも打ち勝つ。

そこにはやはり胸の奥底に残っていた人間としての尊厳。
いつかちゃんとした真人間に戻って息子に会いたい。
そんな強い想い。
そして、それが独りであればそんな想いも酒の前では吹っ飛んでしまったんだが、
自分のことを信じて見守ってくれる存在、自分は独りではないんだという安心感。
スウィーニーと、そしてロイヤルの存在が大きかった。

モーテルの敷地で打ち捨てられていたアイスクリームパーラーを小さいけれども念願だったダイナーに改装して、夢にも一歩近づいた。
素面になって10ヶ月、髪も黒くしてどこから見てももはやクズオブクズには見えないレスリー。
そこに現れたのはレスリーの旧友ナンシー。
ことさら彼女がレスリーに辛くあたっていたのも、仲が良かったからだというのはわかる、
そんなナンシーが、まともになったレスリーを認め、これまでの自分の行いについても素直に謝る。
さらに、最愛の息子ジェームズも連れてきていたのだ。
このシーンにはやっぱり感涙させられた。

それにしても、レスリーを演じた女優さん、アンドレア・ライズボローっていうんですか?
こんな人だと思っていたら全然違うめちゃくちゃ美しい人じゃないですか。
凄いなりきりっぷりです。

人はどんなにどん底に落ちても、それを支える人間がそばにいてそれを素直に受け入れる心があればいつだって立ち直れる。
やっぱりそうなんだよなぁ、そんなメッセージが強く心に伝わってきた。

「ひとはみなひとりでは、生きてゆけないものだから」

中村雅俊さんのヒット曲『ふれあい』の一節が思い浮かぶなんて、なんと昭和だ。


<了>



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