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映画「ザ・メニュー」〜こんなトンデモ映画だったとは

※ネタバレしないようにしますが、未見の方はご注意下さい

映画館上映中にタイミングが合わず、配信に来たのでやっと観た。
「ザ・メニュー」

ただならぬ様子の映画のような気配は予告編からあったが、想像の左上の方を行くトンデモ映画だった。

NETFLXI配信「クイーンズ・ギャンビット」以来、我が家ではアニャ・テイラー=ジョイの大ファンで、やはりこの今作もアニャの映画だったと言ってもいいでしょう!

とにかく、登場人物で唯一感情移入ができるのがアニャ演じるマーゴだけというこの映画。
というか彼女が一番普通の感覚を持っている一般人ですからね。
そりゃ助かってもらわないと困ります。

舞台は船じゃなきゃ行けない離れ孤島にある超高級レストラン。
ゲストは12人だけ。
予約するのも難しい、選ばれたセレブしか行くことが出来ないレストラン。

嫌だなぁ。こんなレストラン。
行きたくない。
根が貧乏性なので、こんなレストランに運悪く(運良くじゃなく)行く羽目になったとしても、落ち着いて食事なんて出来ないだろうし、
きっと味もよく分からないんだろうな。

ニコラス・ホルト演じるタイラーの同伴となったマーゴも、そんな高級なレストランだろうが、別段有り難くもなんとも思っていない様子。
美味しいものを食べさせてくれるというから行くだけなのよ、レストランは食事をしに行くところなだけよ、という気負わない態度が素敵。
いや、自分なら絶対気後れしてしまう、きっと。無理。

タイラーはどうやらグルメな食通の役柄なんだろうが、相当収入の良い仕事でもしているのだろうか。
他のメンツと比べると"選ばれたセレブ"という感じはしないのだが。
実際、タイラー自身もこのレストランに行けることだけで舞い上がっていて、食事がはじまるまでの道中、島の様子、レストラン、出される数々の料理全てに、みっともないほど感動していて、何でも受け入れちゃいます、そんな感じになっている。

島に付き、給仕長のエルサがレストランに案内するのだけど、どうもそこから不穏な様子、こちらの決めた通りにしなさいという無言の圧力というか高飛車な態度。
うん、やっぱりダメだ。

レストランに入り、食事がコースがはじまってもやはり嫌な感じは強まる。
レイフ・ファインズ演じるシェフもなんとも不気味。
メイクこそしていないが、ハリーポッター・シリーズのヴォルデモートも彷彿とさせる威圧感。
コースの料理を紹介する際に、いちいちパンッ!と手を叩いて客の注意を引いてから話し出す。
いや、ビビるって。

あるよね、そういう飲食店って。
特に東京にはありそう。(偏見です)
頑固親父の板前のいる寿司屋とか、
気難しい大将のいる蕎麦屋とか、
ルールの厳しい軍隊みたいなラーメン屋とか。
昔行った目黒の有名なとんかつ屋も、店内のお作法とか事細かに注意書きがしてあって、「こちらから呼ばれたら注文しろよ」みたいなのが鬱陶しかったな、皆黙って有難がっているのが不思議だった。
食い倒れの街大阪出身の僕からしたら笑止千万、お客様は神様だとは言わないが、料理を出す方が偉い訳でもない。
店側は美味いものを出すのが当たり前、それに見合った対価を払うのが客。
役割分担の違いだけ。

この映画の一番キライなところは、そこかな。
そして、美味い料理をサーブして客に楽しんでもらうというレストランの本来の役割を放棄して、しかもそれをエサにして、
個人的な自分の恨みを晴らす場にしてやろう、復讐してやろう
というその設定が相容れなかった。

料理で嫌がらせするとかどんだけ?
パンは本来貧しい者が食べるものなので、金持ちのお前らにはパンは出さないって。
しかも、パンにつけるソース?スープ?に「何か濁ってる」だっけ?批判したら、ボウル一杯のお代わり出してくるとか。
ていうか、お前らどんだけ耳がいいんだ、と。
地獄耳か!怖いわ。
脚本としては分かるけど、どうなのかなぁ。
ちょっとあり得ないな。

大体、料理がどれも美味しそうではない。
高級店にありがちな独りよがりな凝った盛り付けなんだけど、
それだけ。

一品づつがそれぞれの客への復讐話になっていて、そのシェフの小難しい理屈もなんだか分かるようでよく分からない。

トルティヤの皮?にご丁寧にそれぞれの客の悪い所業を印刷してサーブするとか悪趣味にもほどがあるし。

「僕は一生懸命料理を作っているのに、お前ら金持ちは料理の味なんて全く分かってないだろ!お前は過去に11回来店しているが、1品でもいいから料理の名前を言ってみろよ!」
て、子供か。
ていうか、それが理由でいきなり薬指切り落とすとか、サイコすぎる。

コースが進むに連れて、だんだんシェフのサイコ具合が明らかになっていくのだけど、他のスタッフ達もどうしてそれに従っているんだろう?
催眠術でもかけられているのか?
これまでは普通の超高級レストランとして営業していたようだけど、どうして今回だけはみんなもグルになって結託できるわけ?
そこに納得のいく説明がないのがダメなんじゃないだろうか。

副料理長よ、シェフに少し批判されたからっていきなり拳銃自殺するか?
給仕長のエルサは、自分の仕事を取られるのではないか、とマーゴに襲いかかるシーンがあるが、そんなにこのシェフのレストランに働いていることにプライドを感じて、シェフに心酔しているから人殺しに加担してもいいわけ?
わからん。

しかし、見方を変えれば、バブル時代の昭和〜平成のモーレツ社員達ってそういうところがあったのかもしれない。
会社の言いなり、社長や上司の言うことは絶対服従、身体を壊すまで働いてもそれは自分が要領が悪いから、やがて精神を病んでも会社は責められない。
うーん、そういう風潮は少なからずあったかも。

または、カルト宗教団体か。
傍から見たら明らかにおかしいやろ!怪しいやろ!と思っても、
心のどこかで波長が合ってしまった信者はオールOK、何でも受け入れてしまう。国家転覆に繋がるようなテロ行為だって、それが教義に叶ったもので、修行だと尊師が言うなら着いていきます!
みたいな。

あのレストランのスタッフ達も長い時間をシェフと過ごして、レストランで寝起きしているようだし、俗世間とは切り離されて生活していたから、洗脳されていたのだろうか?
その辺をもう少し描写するなりして、納得いくようにして欲しかったかな。

あとね、今回最後の晩餐で復讐を遂げられるゲスト達が、そんな理由なの?みたいなのが多くなかったか?
もうちょっと復讐に値するような悪行を考えられなかったのか?

「奨学金を受けないで大学に行ったから」とか
貧乏で俺は苦労したんだ。親の金で大学行きやがって!か?

「せっかくの休みに観に行った映画がクソつまらなかったから」
いや、もう可愛そう。文句つけるなら監督だろ。役者さんカワイソ。

「会社の経理を誤魔化して横領していたから」とか
なんでそこだけ正義の見方やねん!
そのおかげでもお前は店を持たしてもらってるんやろ、と。
気に入らなかったら買い戻したりできたやろ

まぁ、色々と雑だな。

ラストでアニャ=マーゴが、シェフの若かりし頃の写真を見つけて、
「私はお腹が空いている。全然満足していない。チーズバーガーを作ってくれ」
という一か八かの勝負に出るシーンがあるが、あそこでシェフの表情が一気に変わる。
本当に優しそうな、楽しそうな顔になって料理を作る。
あそこは良かったかな。
テイクアウトできるかしら?
っていう一言でまんまと脱出できた訳だけど、シェフもマーゴの扱いには戸惑っていたようなので、うまく落とし所があってよかったのだろうか。

あと最後の一品、客に装飾を施しテーブル全体を上から鳥瞰した時に、ソースをあしらった皿に見立てたシーン、
あそこは映像的に見事だったかな。

火をつけて、スタッフがみんな一緒に死んでしまうというのがやはり納得できないけど。
そんな強烈な洗脳ってあるのか?
洗脳怖いな。
1人くらい逃げ出すやつがいてもよさそうなのだけど。

面白くないことはなかったのだけど、それでもやっぱり胸糞悪いトンデモ映画でした。
映画館に観に行かなくてよかったな、というのが個人的な評価でした。

<了>


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