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DXを阻むのは帳票文化?レガシーなシステム?〜AI-OCR界隈の話題

GAFAという呼称が一般的になる以前から、彼らが提供するサービスをコンシューマ=消費者が使うことで簡単にデジタル武装できるようになった。
パソコンなんて使わなくても、スマホ1つあればいつでも誰とでもコミュニケーションが取れ、ショッピングも済ませられる。

一方、企業が社内外で使うエンタープライズ系の情報システムは、いまだ大昔のレガシーな資産や、業界の規制、社内の文化や統制などに縛られて古臭いシステムを使い、システム化されてない業務プロセスは21世紀になっても手作業に頼っている。

その結果、コンシューマー=消費者の方が先行してDX=デジタルトランスフォーメーションを果たしてしまっているのが実情ではないだろうか。

国内において企業システムにおけるDXへの取り組みが幅広く周知されるようになったのはいつくらいからだろう。
2015年、16年あたりくらいからは経営戦略の1つとしてコンサルティンファームを中心として唱えだされてきたような気がするが、
当時はまだ国内での成功事例も少なくて、事例として挙げられていたのはUberだったりAirbnbだったりと過去のしがらみが一切なく最初からデジタル一本で来れた海外新興企業だった。
そのせいか、大手企業の情報システム担当者でもあまりピンと来ている人は少なかったように思う。

それが、パンデミックのおかげでリモートワークなどこれまでの業務のやり方を一気に変えざるを得なくなりければいけなくなり、そこにデジタルが一気に入り込んできた。
これまでは、社内規定だ、情報セキュリティだ、と言っていたのに、TeamsやZoomによるWeb会議は一気に導入が進み、
社内で回覧してハンコをついていた稟議書類はメールやワークフローベースになり、
紙で郵送していた営業書類はPDFをメールに添付して送るような仕組みが取り入れられてきた。

外圧がないと自身で改革することが出来ないのかというのは残念な話だが。

その時に何度目かのブームになったのが、AI-OCRという技術だったと思う。
その流れは最近の電子帳簿保存法改正にも受け継がれている。
7-8年前にAI-OCRが一時期ブームになったことがあるが、その頃はまだまだ精度が悪く手書き文字1つとってもちゃんと読めることの方が少なくて、
「導入はしたけれど実際は使い物にならず広まらなかった」
というエンドユーザ企業は多かったようだ。

2018年あたりからは、RPAなどのPC入力作業などの自動化ツールと一緒に使われることを用途にして、AI-OCR関連製品の開発・リリースが爆発的に増え、国内だけでも100を超える製品サービスがリリースされている。
そして、その精度もオープンソースの機械学習ライブラリなどの充実なども後押しして、一世代前の製品とは桁違いに良くなってきた。

筆者は現在、AI-OCRや自動化ツールを使った企業向けのDX推進のお手伝いをしている。いわゆる帳票DXと言われる分野に当たるかもしれない。

これまでの紙やPDFなどの帳票をベースにした業務はどうしても人手に頼った作業になることが多く、帳票の数がイコール業務負荷となりコスト削減しにくい部分になる。
そうした帳票にまつわる業務をデジタルツールを使って、極力人手を介さなくてもよいような業務プロセスに変革して、コスト削減を図ろうというものだ。

帳票内の文字列をAI-OCRで読み込みテキストデータとして抽出し、RPAやデータ連携ツールなどを使って、これまで手作業で入力していた後続のシステムへ自動投入してしまう。
簡単に言うとそんなことだ。

そうした提案活動の中で、お客様から実際に業務でお使いの帳票をお借りして、AI-OCRでどの程度テキストとして抽出できるのかを検証させて頂くことがある。
注文書や請求書など、読み取る項目がある程度決まっている書類については、例えそれが取引先毎に書式やフォーマットが千差万別の非定型帳票であったとしても、実はそんなに難しくはない。
非定型帳票に強いAI-OCR製品というのが今の時代にはリリースされているからだ。

ところが、これが製造業の生産管理や品質管理に関わる書類になると、フォーマットや体裁も多岐に渡り、読み取りたい項目もそれこそ会社の業務毎、なんなら工場毎や製品ライン毎ごとに異なるので、なかなか一筋縄ではいかない。

そして、その原因の多くが
「これまで人が見てチェックすることを前提にした帳票フォーマットになっているので、システム=AI-OCRで読み取るには適さない」
というものだ。

正直、AI-OCRが帳票データから文字列を読み出すためには、見栄えや体裁の美しさは関係なく、
項目に適切なラベルが振られていて、行・列で整然とテキストが並んでいる、それだけで構わない。
ぱっと見、人が見て「ん???」となっても構わないのだ。

「あぁ、この表組がもうちょっとこうなっていると読みやすいんですけどね」
「いっそのこと、帳票を出力する仕組みを変えた方が速くないですか?」
「なんなら、帳票として出力せず、APIでそのまま取りに行けないですか?」

これまでの「人が介在するプロセス」をいったん改めて、システムで自動化するという観点で帳票出力から見直すことが出来れば、案外解決するということが多いのだが、そこには「レガシーシステム」という巨人がいるため、頓挫することが多い。

そしてほとんどの場合、こうした業務改善のためのDX企画は、情報システム担当が関わっていることは少ない。
昨今では、業務部門側で起案されることが多いのも特徴だ。
ところが相手がレガシーになると、どうしても情報システム担当の出番になるのだが、大概にしてレガシーなシステムについては、
「改修するのは難しい」
「誰も分かっている人間がいない」
「ドキュメントもほとんど残っていない」
という驚愕の回答が返ってくることがほとんどだ。

古いシステムに手を入れるためには、レガシーマイグレーションやモダナイゼーションという、さらにコストのかかる厄介な事が待っているので、誰も手を付けたがらないのである。
老朽化という心配はあるが、今のままやっていればそれなりに使えているので、あえてチャレンジングなプロジェクトを起案して、変革をしようという人はそんなにいないのが事実。

外部からIT担当役員が入ってきて、過去のしがらみ無しにやってやるという人がいない限り。(あ、これも外圧の一種なのか?)

そういえば、歴史の浅い新しい企業ほど、当初から
「システムは業務に合わせて変化していくもの」
とパッケージやクラウドサービスをベースにシステム構築をしているため、
こうした新しいDXなどの取り組みは先行しているところが多い。
彼らは特定分野には限られているがデジタルを武器にして、先行している大手企業を追い抜いてしまっている事例も出てきている。

これを企業ではなく国という単位で見ても、
例えばブロックチェーンを使った業界内でのデータ交換やパートナー間での情報共有の仕組みなどは、これまでのシステムインフラを持たない東南アジア諸国の方がかなり進んでいると思う。

先の東京オリンピックでは「新しいレガシーを作る」というようなスローガンも掲げられていたように思うが、
「いやいやレガシーはもうこれ以上作っちゃいけないんでは?」
と思うのもやむなしである。

<了>

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