【ミステリーレビュー】『ジェリーフィッシュは凍らない』 市川憂人著 (東京創元文庫)※ネタバレなし
あなたはミステリーがお好きですか?もしそうなら、どんなタイプのミステリーが好みでしょうか?
もしあなたが、フーダニット系、加えてクローズドサークル系、どんでん返しが好みなら、この作品に間違いなく没入できるでしょう。
あらすじ
時は1983年。といっても、現実のその時代のパラレルワールド的な世界が舞台。なので、作品の中では実際の1980年代と比べて科学がずいぶん発展しています。
航空分野での開発もかなり進んでいるという想定なので、この世界ではクラゲ型の小型飛行船が個人向けに実用化されています。その小型飛行船はジェリーフィッシュという愛称で呼ばれており、富裕層を中心に普及しています。
そんな中、開発チームによる、新型ジェリーフィッシュの試験飛行が行われます。乗組員は計6名。2泊3日の航行試験は順調に進みますが、いよいよ最終日となった2月8日早朝、船内で事件が起きます。そしてさらにもう一名犠牲者が…。
それから数日経った2月11日、丸焦げになったジェリーフィッシュが雪山のくぼみで発見されます。しかも、乗組員と思われる6人も共に焼死体として発見。捜査は混乱を極めます。
ジェリーフィッシュの中で、一体何が起こったのか…?
これがすべて殺人なら、犯人はこの険しい雪山の中、どうやって脱出したのか?
フラッグスタッフ署の警部マリアと、その部下九条漣(レン)のコンビでの捜査が始まります。
この作品の魅力
この作品の魅力はなんと言っても、外界から閉ざされた閉鎖空間で一体何が起こったのかという謎に尽きるでしょう。
全体の構成は、「犯人側の視点(もちろん誰かは明かされない)」「ジェリーフィッシュ内の出来事」「捜査側の視点」の3つが交互に描かれ、同時進行していきます。
それぞれの情報が少しずつしか与えられないまま、次々とこれら3つの場面が代わる代わる描写が続くので、読書中は頭の中に「?」クエスチョンと、真相が知りたいという強烈な好奇心が絶えず渦巻きます。
加えて、捜査する刑事コンビの掛け合いも見逃せません。若くして警部という階級を持つ、マリア・ソールズベリーと、その部下、九条漣刑事。自由奔放なマリアと、冷静かつ頭脳明晰な九条漣の掛け合いは実にユーモラスで、緊迫感が続く描写の後、ホッと息をつける間を読者に与えています。
でも、ラノベ系の軽すぎるやり取りではなく、捜査は本格的に進みます。なので、軽すぎる印象は全くなく、ラノベ系が苦手な方にもおすすめできます。
そしてこの作品は、ラストのどんでん返しも魅力です。読者が今まで頭の中で描いてきた世界がみごとにひっくり返されます。気持ちいいくらいに。ぜひあなたにも味わっていただきたいです。
おすすめしたい方
おすすめしたい方は以下の通りです。
・クローズドサークル系が好きな方
クローズドサークル系ミステリーとは、外界から閉ざされた密閉空間で起きる事件がテーマのミステリーのことです。絶海の孤島、雪山の山荘などが舞台になることが多く、携帯の電波が入らないor電話線が切られている、外に出られる手段もことごとく絶たれており、外部と連絡が取れないという設定が作られます。
当然メンバーも、当初からそこにいた数名に限られるので、犯人もその中にいることになります。
代表作としてもっとも有名なのは、アガサ・クリスティ著の『そして誰もいなくなった』でしょう。
日本では、綾辻行人著の『十角館の殺人』が有名ですね、今回ご紹介した『ジェリーフィッシュは凍らない』はこの綾辻行人の作品の影響を受けているそうです。
・どんでん返しが好きな方
どんでん返しとは、読者がこれまでこんな感じだろうと、読みながら頭の中で描いてきた世界観をちゃぶ台返しされるかのようなラストが待ち受けている小説のことです。
設定そのものがひっくり返されたり、一旦犯人が明らかになったあとで、実は別の人が犯人だったことが判明したりするものもあります。
この作品ではどのタイプのどんでん返しなのかは敢えて伏せておきますが、気持ちよくひっくり返されること請け合いです。
この「マリア&漣」の刑事コンビはシリーズ化されており、今のところ4冊出ているようです。今回、市川憂人の作品を初めて読みました。とても気に入ったので、続くシリーズもいずれ読んでみようと思っています。
ミステリーはとにかく「没入感」が魅力。ぜひあなたにも味わっていただきたい。おすすめです!
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