『ドリーム渚』

50億光年の時空を経て

あいつがやってくる

この町内にやってくる

やつの名はそう

ドリーム渚なぎさ

ふんどし一丁

腰にはひょうたん

ぶら下げて

ドリーム渚がやってくる

ふだんは銀河系を股にかけ

営業に次ぐ営業で

忙殺されている

ドリーム渚

ただこの不定期開催

地元凱旋公演だけは

欠かさずノーギャラで

多くの場合

来訪の２、３日前に

宇宙ＦＡＸで

本人から連絡がある

その報せを受けたら

町内会メンバーが総出で

公民館の飾り付けをする

舞台を整えて

カラオケセットをスタンバイ

ドリーム渚に

楽屋は不要

だってふんどし一丁

いつも開演時間を

ちょっと過ぎたら

やってくる

その昔

ドリーム渚に改名する前

八重樫五郎やえがしごろうの名で飛ばした

ただひとつのヒット曲

「裏筋街道男酒うらすじかいどうおとこざけ」

♪ちゃんちゃらちゃんちゃんちゃちゃんちゃちゃん

ドリーム渚が公民館に到着し

入口で

雪駄を緑色のビニールスリッパに

履きかえる頃

♪ちゃちゃんちゃちゃんちゃらちゃんちゃんちゃん

そのイントロが流れて

拍手喝采

♪ちゃちゃちゃんちゃんちゃーんちゃちゃんちゃ

ドリーム渚が

スタンドのマイクに手を掛ける

♪ちゃちゃんちゃんちゃーん

「おいコレ、マイク入ってねーずぉ」

50億光年の彼方から

やっと到着しての第一声

ところが

マイクを設置したのが

穴畑悦子あなばたけえつこさん(56)と

判明したときには

さすがのドリーム渚も

無礼を平謝り

だって穴畑さんは

町内会長の愛人アレだから