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『奴と籠』


二十両もあろうかという列車は

プラットフォームに収まりきらないから

客車部分だけがかろうじて接岸して


日に一回

だいたい夕暮れ時

西から東へ向かう列車がこの駅に停まる


私は帰りを待つ

便りは一向に来ないから

ひたすら

奴の帰りを待つ


昼間は籠を編んで

行商人に渡す

あぁだからこの列車に乗る行商人にも

毎日用事がある


東から西へ戻る朝方の列車にも

私は納品する


そうやって昼間は過ごして

一日分の籠を納めたら

奴の帰りを待つ


列車がプラットフォームを発つと

私の一日が終わる


その頃にはほとんど日も暮れているし

そもそもこの街に娯楽なんてない

その日暮らしの生活に

刺激なんてないから

あとは寝るばかり


大金を持ってきっと帰ると豪語した

奴はまだ戻らない


どれだけの時間が過ぎたかわからない


私と奴との間には子供がいなくて

食い扶持がない分に負担は無いものの

老いぼれの私は孤独ったらありゃしない


訊けば路線は赤字で

あとひと月も経たないうちに

廃線になるんだと


奴は戻ってこないだろうし

籠はどこへ売ろうか


私はどこへ行こうか


いまのうちに

列車に乗ろうか










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