『快適に過ごしてもらわないと』
「この…なんだっけ…椅子?使いにくいよ」
それはそうだなと
T氏は納得した
そもそも彼にとって
腰かけるという動作は
その体型から鑑みても
苦痛と思われる
ではあちらに置いてある
ふんわりと座れるソファはどうだと
勧めてみるがこれもまた
彼の身体にとっては
非常に窮屈そうで
だれもが使いやすく
だれもが心地良く
多様性に配慮した
ユニバーサルデザイン
そんな生活環境づくりを
研究するのがT氏の仕事
だが思いもよらぬクライアントに
T氏は苦心していた
「まずウチさぁ、ココの空気が苦手…」
正直それはT氏の専門外だった
ただ一度掲げた多様性の旗印
なんとか彼には
快適に過ごしてもらわないと
化学を専門とする知り合いに
連絡を取り
この居住空間の空気を
彼の故郷に近づける仕組みを
考案してもらうこととなった
しばらくたって
「あぁ、いいじゃん、だいぶいいよ」
彼はこの居住空間を
気に入った様子
無事に完成までこぎつけた
T氏とその知り合いが作り上げた
地球外生命体にとって
快適な居住空間
「え?費用は税金からって聞いてるけど」
クライアントからの返答に
T氏は面食らった
国からは本人に請求するよう
聞かされていたから
ダメ元でこれまでの費用を
所属の研究所に請求しても
キミにはダイバシティの精神が
まったく足りていないと
門前払いを受けてしまった
それどころか
新たに別の星からやってきた
別の生命体が暮らしやすい空間を
構築するように
命じられるという始末
報酬は固定のまま
安月給で
経費は自己負担
T氏は辞表を出そうとしたが
またしてもダイバシティの精神に
欠けるという理由で
受理されることはなかった
T氏は別の星への
移住を検討しはじめた
なるべく住みやすい星を
探すという