みっことさかみち団地
団地に住んでいた子ども時代を物語に。
「みっことかさおばさん」
みっこはさかみち団地に住んでいる。
うまれた時からさかみち団地にいるのよ とお母さんが言っていた。
うまれた時のわたしをわたしは知らないけれど、きっとちいちゃかったのだろうなぁ って思う。
だって10さいの今も背のじゅんはいつもいちばん前だ。
せいれつをする時に、こしに手をあてるのはなんだかかっこ悪い。
ちいちゃいのに、いばってるみたいでヘンテコだ。
みっこは秋のかえりみちがすきだ。
学校からのかえりみちは、とってもいいにおいがする。
ちいちゃいオレンジ色の花が、いいにおいのもとだと気づいた。
かえりみちのほうが、いいにおいがたくさんする。
ちいちゃくても、いいにおいがするからこの花はいいなぁと思った。
みっこはあるいた。
さかみちをのぼるといっぱい団地があって、その中のひとつがみっこの家だ。
あ、今日もかさおばさんがうたってる。
かさおばさんは、みっこの家のむかいに住んでいる。ベランダに出てかさをさしてまいにちうたっているのだ。
「こんにちは。」
かさおばさんのベランダは1かいなので、あるいていたらおばさんと目があった。
「おばさん、いつもかさをさしてるね。」
わたしは話しかけた。
「雨がいつもふっているの。みんなのこころにも雨はふっているのよ。」
かさをさしながら、手をふりおばさんはいった。
こころに雨がふるってなんだろう。
ひんやりさむいのかな。
しとしとつめたいのかな。
おばさんの言うことはわからなかったけど、おばさんの顔はあんまりたのしそうじゃなかったから、こころに雨がふるのは、いいことじゃないのかもしれない。
そとははれて、ちいちゃい花のいいにおいがして、かさおばさんのうたがきこえる。
おばさんのかさがゆれている。
右に、左に。
ランドセルを持つ手にきゅっと力をいれて、みっこはかけだした。
かさおばさんのうたごえは、なぜだかずっとみみのちかくできこえていた。
はやく、家に、かえらなくちゃ。
秋は、いいにおいでたのしくて、ちょっぴりこわい。
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