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マーケティングの原点、それは人間中心の視点に回帰することだ【『コトラーのH2Hマーケティング』 を読んで】

2021年9月にコトラー教授の新著『コトラーのH2Hマーケティング』が出版されました。
コトラー教授は、マーケティングの大家としてあまりにも有名ですが、AIとの共存の時代において、マーケティングの行きつくところは、人間中心への原点回帰だという結論が興味深いです。

本書は、その最新の理論だけでなく、それを実践の落としてどう活用するのかの手がかりを与えてくれています。
以降は、私がAmazon Reviewに投稿した内容を加筆・修正したものと、そこでは書いていない自分の意見を述べるものです。

書評:コトラーのH2Hマーケティング

マーケティングの神様フィリップ・コトラー教授の新著です。
コトラー教授と、故・ドラッカー氏の親交の深さは有名ですが、両者に共通するのは、マーケティングを経営の基本と考えていることと、それが進化した際に行き着くところは、結局、「人間」なのだということです。

本著のタイトルにある、H2Hマーケティングとは、Human to Human Marketingであり、そのままですが「人間中心のマーケティング」です。

ここで間違えてはならないのは、人間をある特定の人、たとえば「消費者」と狭く見るのでなく、直接的・間接的、そして実現要因インパクトとなる
コミュニティ、投資家、サプライヤーまで含めた360度ステークホールダーと捉えていることです。

本書で描かれているH2Hマーケティングモデルの構造はシンプルで、次の
二層でできています。

【第一層:3つの概念フレームワーク】

デザイン思考:人間中心性、顧客に関する深い洞察をベースにした思考法
サービス・ドミナント・ロジック(S-DL):協働エコシステムで価値を共創することと、カスタマー・エクスペリエンスを重視
デジタライゼーション:技術的な前提条件であり、顧客やマーケターに新たな選択肢を提供

【第二層:H2Hマーケティングの3つのコンポーネント】
H2Hマインドセット:規範のマネジメントレイヤー〈理論的支柱〉
H2Hマネジメント:戦略のマネジメントレイヤー〈首尾一貫/調整〉
H2Hプロセス:オペレーションのマネジメントレイヤー〈実行/実施〉

この2つの層をマトリックスとして、各章で論旨が展開されています。
理論の詳細や具体的な実践方法は、マーケティングに造詣の深い人でない
読者(私です)にとって、完全に理解することはまず無理ですが、潮流を
掴むだけに留まるにしても読み進める価値は十分あります。

また、本書でありがたいのは、図解が豊富に掲載されていることと、
〔日本の読者へのヒント〕という解説を、鳥山さんが各章末尾に書いてくれていることです。
後者のほんの一例ですが、このようなことが書かれていて、理解深め、思索を促してくれます。

 A2A(Actor to Actor)というのが、実は本書の核心かもしれない
 なぜなら、A2Aはエコシステムを前提としており、その中のどの部分を
 どのように担うかこそが考えるべき重要問題だからだ

あとは、キーワードやキー概念を絞って、読み込む方法も有効です。
私の場合は、「ブランド・アクティビズム」「ペルソナ」
そして「ブランド・ミーニング」などでした。

本書のラストは圧巻です。

・マーケティングの歴史を振り返ると、重要なのは「反復的なプロセス」
 「カスタマー・エクスぺリエンス」である
デジタル化がますます進展すると、マーケターが頭を使うところは一段上
 の次元
になる
 そう考えると、AIと人間マーケターの協働こそが課題となる
パーパスを意識したマーケティングこそ、未来のマーケティングの姿だ

マーケティングに直接関わる仕事に就いている人でなくても、背伸びして
読む価値大です。

人事とマーケティング

本書の読者ターゲットは、企業のマーケティングに携わる人や経営幹部だと思います。
私は人事業務に従事する者ですが、人事の視点で読んでみても気づきの多い書でした。

人事のリーダーやプロフェッショナルにとって、「心理学」の知識が必須であることは、かなり浸透しています。
また、経営に近いところにいる人事責任者(CHROなど)は、「経営学」のなかでも「戦略」についての知見を持っている人も多くいます。
近年では、実証主義の考え方が浸透しつつあり、「統計学」やAI まで行かなくても「ITリテラシー」を高めることの重要性も認識されてきています。

そんななかで、人事部門は人と組織の課題に取り組む部署でありながら、360度ステークホルダーの視点で「マーケティング」の視点を忘れているのではないでしょうか?

人事の大先輩が以前、「人事は経営に資する」と言っていました。
それを戦略的に発展させて、マーケティングの視点を持ったうえで、
「人事はすべてのステークホルダーに資する」を追求することが求められています。



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