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小声コラム#24 ドア横の窓際で幸せを願う

電車に乗るときはたいてい進行方向に体が向くようにドア横に立つ。
席が空いていても相当疲れていない限りは立っていることの方が多いかもしれない。

ほぼ無意識にそうしていたけれど、理由は2つあることに気づいた。

1つは自分の背面とどちらかの側面が壁に接すること。
つまり隅っこが好きなのだ。狭いところが好きなのではなく、隅を好む傾向にある。
後ろを気にせず目の前だけに意識を向けられることは、心理的に安心感を与えるのかもしれない。
(こういうところにも普遍的なものは転がってるもんだなあ。)

2つ目は外、というか景色が見やすいからだ。
東京都内をメインに走っている電車は、座席がほとんど向き合う形になっているので、座ると窓が後ろにくることになる。
ドア横の窓は景色を横目にみることも、窓に対面することもできるので、景色が見渡しやすい。

今日書きたかったのは、こんな自分の趣向の話ではない。窓際に立つことで見える景色についてだ。

春めく晴れの日の午後、新宿へ向かっていた。
もちろんドア横の窓際。
京王線笹塚駅では、新宿方面の電車と待ち合わせる。大きくなびく女性の髪が外の風の強さを伝える。
線路を挟んだ向かいのホーム。子どもを抱いたお母さんがいた。風に煽られてベビーカーをうまく立てられないみたいだった。
同じホームで配線が何かの作業をしていた姿勢のいい男性がそれに気づいて、ベビーカーを押さえていてあげた。
窓越しでも、ありがとうが生まれる瞬間はその言葉が見えるものなんだなと思った。

きっと男性は見返りなんて求めない純粋な親切心で手を貸した。誰かに見られて褒められることもないと思う。
でも、誰がちゃんと見ている。そんな純粋な姿を見た人すらも温かい気持ちにさせる凄まじい行いを。現にその時は僕が見ていたし、そう感じた。
褒められないかもしれないけど、僕は彼に幸せがありますようにと願った。たくさんの人が見知らぬ人の幸福を願えば、本当に幸せになるんじゃないか。なんて考えは甘っちょろいだろうか。
でもそんな風に願いは繋がるといいなと思う。

ドア横の窓際に立つと、そんな景色が見られることがある。
スマホ触るのもいいし、本を読むのもいい。
流れる景色をぼんやり眺めるのもまた素晴らしい。


#24 ドア横の窓際で幸せを願う

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