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フルニエ「グラン•モーヌ(モーヌの大将)」(1913)フランス文学史上、2番目に読まれた本

世界中でもっとも翻訳されたフランスの小説はサン=デグジュペリの「星の王子様」、そして2番目に翻訳された本がこのフルニエ作「グラン・モーヌ」だと言う。(https://fr.wikipedia.org/wiki/Le_Grand_Meaulnes)
1999年にフランスの新聞社「ル・モンド」紙が行った「どの本があなたの記憶に残っていますか?」を問う世論調査でも第9位で、映画化も2回されている。1919年の作品で、作者は若くして第一次世界大戦で戦死してしまっていて、著書はこの一冊しか残っていない。

この本を手にとったキッカケは最近読んだ内田樹「街場の芸術論」で、フィッツジェラルドの世界でもっとも有名な小説「グレート・ギャッツビー」が影響を受けた本ではないか、と知ったからだ。そしてそんな有名な作品である「らしい」にも拘わらず、少なくとも私は作者も作品の名前も聞いたことがない、日本でもとっくに絶版、というのがあり、それでとても興味をそそられた。

物語はフランスの田舎町が舞台。内気な青年のもとに「グラン・モーヌ」と後にみんなから呼ばれる、大柄でカリスマ性がある少年が転校してくる。その少年がある時3日ほど行方不明になり、戻ってきたら何かにとりつかれたようになっている、その理由は・・・というのがストーリーのはじまり。

この物語が当時の人を多く惹きつけたのは、「グラン・モーヌ」が迷った先で遭遇する、夢のような、ただ現実の出来事にあるのだと思う。迷った先には古い大きな洋館があって、そこで出席者が前時代の恰好をした、盛大な結婚披露パーティが開かれている。「グラン・モーヌ」はそこで美しい女性と出会い恋に落ちる。ところが、自分が住む村に何とか戻った後、どうしてもその洋館を再び訪れることができない。。「グラン・モーヌ」は手がかりを求め、自分の記憶を頼りにその場所を探し当てようとする。。。

何とも冒険心を刺激する、素敵なストーリーの広がり方だ。そしていまだにフランスで読み継がれている理由、それはフランス文学ではとても珍しい、愛(L’amour)が後回しにされる作品じゃないからだと思った。「グラン・モーヌ」は友人の協力を経て、最愛の女性に再会することができ、結婚までこぎつけるも、何と結婚式の後に失踪してしまう。その理由が、日本人ならまあ分かるのだけど、フランス人にはその選択が意外すぎて、ちょっとした道徳教育の一環で教科書に載っているんじゃないか、そんなことを思った。

もうひとつ、この本が日本では読み継がれなかった理由としてタイトルの「La grand mehurene」の訳しにくさにもあると思った。

邦題の最初は「モーヌの大将」「さすらいの青春」と今となってはとても古臭く、そこでつけられた今の邦訳は「グラン・モーヌ」といったいなんのことだかよく分からない。もしこれが「グラン・フランソワ」「グラン・ジャック」的な、人の名前と推測できるものが組み合わされていたら、まだ読まれたように思う。英語版タイトルも迷走しまくったようで、呼び名の例と「lost The Wanderer, The Lost Domain, Meaulnes: The Lost Domain, The Wanderer or The End of Youth, Le Grand Meaulnes: The Land of the Lost Contentment, The Lost Estate (Le Grand Meaulnes) and Big Meaulnes (Le Grand Meaulnes)」とwikiに記載があった。(https://en.wikipedia.org/wiki/Le_Grand_Meaulnes)

フランス語のgrandには「大きい」や「偉大な」の他に「高貴な」という意味がある。「グラン・モーヌ」は背が高く、カリスマもあり、そして彼が手に入った「愛」を犠牲にして何をしたか、を一言でいうと「高貴」でもあった。それが故「グラン・モーヌ」だし、だからそれを翻訳しようとすると、訳者の頭を悩ませてしまうんだろう。

なお「さすらいの青春」という邦題がつけられた1967年の映画はこの作品をかなり忠実に再現している。そこに出てくるモーヌ役の男性の演技が素晴らしく、特にラストシーンの最大限の悲しみと、そこに混じる喜びをミックスさせた表情だけで伝える場面が本当に素晴らしくて、おもわず繰り返し再生して見入ってしまった。
調べると、この映画に出たことで、当時のフランスでは相当の人気を得たようなのだけど、あっさり俳優業は辞めてしまい、その後彫刻家としての人生を歩んだ。かの有名なブリジットバルドーのパートナーでもあったそうで、フランスでは名が知れたセレブリティだったらしい。

日本では大好きな作家の1人、池澤夏樹がこの本のことをこう述べていた。

ちなみにこの年はアナトール・フランスの『舞姫タイス』、ロジェ・マルタン・デュ・ガールの『チボー家の人々 1 灰色のノート』、アラン・フルニエの『モーヌの大将』、などが白水社から出ている。読んだのはずっと後だが、どれもぼくの教養の基礎になった本である。
https://www.hakusuisha.co.jp/news/n12016.html

ひょんなキッカケからこの本を知り、映画にたどり着き、思わぬ名優のことを知った。ちょっとしたキッカケで、本は本当に遠くまで連れてきてくれる。


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