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【本】 『哲学する子どもたち バカロレアの国 フランスの教育事情』

大学院のM1の春学期、「IB教育入門」という授業を履修していた。IBとはInternational Baccalaureateの略で、国際バカロレア機構が提供する国際的な教育プログラムのことだ。日本でのIB教育については、こちらをどうぞ。

わたしの通っていた大学院では、このIB教育のプログラムのうち、MYP、DPの教員養成プログラムがあり、「IB教育入門」はそのプログラムの履修を希望する受講生は必修とされていたため、80名ほどの学生が参加している授業だった。

IBに関連する書籍を読んでブックレポートを提出する課題が出ており、私が選んだのはこの本だった。

副題として「バカロレアの国 フランスの教育事情」と記されており、本の帯には「『考える方法』を習ったことがありますか?」と問われていた。

Ⅰ章 子どもを育てるならフランス?では、フランス人と結婚している日本人女性仲間の話題として、次のような話が記されている。

夫と死別したらどうするかの問いにフランスで定職についている場合は当然として、生活基盤を夫に頼っている人でも「絶対帰らない」と断言したりする。
「だって、子どもの教育費をどうするのよ。日本に帰ったら、大学、出せないじゃない」
たしかに。

中島さおり(2016) 『哲学する子どもたち バカロレアの国フランスの教育事情』. 河出書房新社.pp12

ここではフランスの教育費がいかに安いかを具体例を上げて紹介されているのだが、本当に安い。高校までは無償、国立大学でも年間数万円。

またシングルマザーになるならフランス?と題して、

母国の日本よりフランスの方が、移民労働者というハンデを差し引いても生きるのが容易というのは皮肉な現実だ。

中島さおり(2016) 『哲学する子どもたち バカロレアの国フランスの教育事情』. 河出書房新社.pp13

と語られており、こどもが3歳以上になれば効率の学校で日中を過ごしてくれる仕組み(託児所を探さなくてい)や、学校が終わった後の「延長保育」や「学童保育」のシステムについても説明されており、そのあまりの日本との違いにあっけにとられた。

わたしも働く母として子どもたちの保育園、学童保育、習い事について、例外なくいろいろな苦労を重ねてきている身の上なゆえ、まずもっとこの制度の違いはすさまじいと感じた。

教育はタダで平等にの章では、日本はGDPに対して学校教育費の割合が、OECDの調査33カ国中、32位(2013年)と指摘し、日本はいったいどこにお金をかけているのだろうという気がする、と述べている。

読んでいて、苦しくなるレベル…。

その他にも教科書は無料であることは変わらないが貸与であり、フランス在住のころ、大使館で日本の教科書一揃いをいただいたが、ほとんど使用することなく「もったいない」と思ってきた、と言う。

本題に入る前の段階で、これだけ突っ込みどころ満載で大変興味深い本だった。本題は子どもたちがいかに哲学を学んでいるか、であるとか、日本とフランスの課題の傾向の違いなど、知識ではなく運用する力を身につけさせる等々。これらもまた興味深いことを語られているのだが、そのなかで印象深かった言葉はこちら。

「哲学する」生徒たち

「高校最終学年で勉強するのは哲学ではない。哲学することなのだ。」とフランスの哲学教師たちは言う。

中島さおり(2016) 『哲学する子どもたち バカロレアの国フランスの教育事情』. 河出書房新社.pp35

つまり、哲学「を」学ぶことではなく、学んだ哲学の理論から学習者が「何を考えるか」にはるかに重きを置かれている、というのだ。

…わたしがいつも言っていることと重なって見えた。英語「を」学ぶのではなく、英語を通して、人間性を育てる、と似てないか?!

というわけで、IB教育入門の初期の初期にこんな本に出会ったわたしは、M1の1年間のうち、かなりの時間をIB教育を学ぶことに費やすこととなる。だって、面白いんだもん。

この本は、IB教育って何だろう?とご興味をもっている方々に、ざっくりと本質を掴んでいただくのに適していると思われる。

またIB教育はさておき、日本とフランスの教育の違いを母親目線で描かれているので、少子化に関心のある方や働きながら子どもを育てている方、これからそういう選択を検討している方々にもおすすめの一冊である。

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