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よく飼いならされた社畜だったころ

よく飼いならされた社畜だったころ、週に何度かは朝方まで仕事をしてタクシーで帰路につくという日々を送っていた。ルートは246から外苑東通り、あるいは明治通りのどちらかでお任せ。ふかふかのシートに身を埋めて、頭も体も疲弊しきっているのにずっと目をあけていた。車窓を流れる風景が大好きだったのだ。夏はだんだんと明けゆく青のグラデーションに染められたビル群にうっとりと見入った。冬はあたりをとっぷりと満たす濃紺のなか、街灯の光が等間隔にぱあっと流れるのが素敵だった。明治通りの場合は、深夜営業をしているラーメン店の赤や黄色が鮮烈に目に飛び込んでくる。ときには勢いよくたちのぼる湯気までも。ニンゲンが生きている、という生々しさがとてもよかった。まあそんな生活を続けていたら、過労でぶっ倒れて入院するハメになったのだけど。

それから数えきれないほどの夜や朝があった。仕事も住まいも恋人も変わり、当然ながら年齢も変わり、心だけは変わっていないように思うけれどきっと変わっているのだろう。まだ薄暗い秋の朝、ジムへ向かいながらいつの間にか追憶にふけってしまう。明けゆく街には行き交うトラックに酔客の残滓、打ち捨てられたビニール傘。目を上げれば、タワーマンションの向こうの空が黄金色に明けつつあるのが目に入る。きっとこれでよかったのだろう。私はこれでよかったのだろう。


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