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はじめての、挫折

数年前。

ライターという仕事をやってから、初めての「挫折感」を味わった。


この仕事を始めてから10年が経ったところ。漠然とした目標だったが「自分の本を出したい」と思っていた。Webライティングばかりだったので、もちろん紙とはワケが違うことはわかっていたけれど、本のライティングもやってみたい、あわよくば“自分の”本を出したいと考えるように。

そんなとき、ブックライティングのお仕事があると、お声がけいただいた。

ふたつ返事どころか、20回は土下座できるほど嬉しくて即お願いする。わくわくして、目がギランギランしていたと思う。Zoomで打ち合わせをし、Slackでチームに合流。そこから、本作りが始まった。

まず、パイロット原稿を送り、文章の雰囲気を確認してもらう。すぐOKをいただき、本文に着手。

いただいた目次と進行表をもとに、章ごとに少しずつ書いていく。

途中でデザイナーさんも入ってくる。毎日Slackで連絡がくるたび、わくわくした気持ちが膨らんでいく。みんなで助け合って、気を遣い合って、ワンチームで作業を進めているという楽しさを噛みしめる。

編集の女性は、同じく子育て奮闘中の方だった。連休は作業を休みましょうとか、子どもが体調不良なので連絡が遅くなりますなど細やかな声掛けをいただき、「ありがとうございます!」「よっしゃ任せてください」と画面越しに話しかけながら、作業を進めた。


もちろん、Webライティングもひとつのものを一緒に作り上げる仲間がいる。時にはZoomなどで顔を合わせることもある。

でも、私が経験したそれは、Webライティングとはまったく違った。

自分の“好き”で、“得意”な分野でもあったことも重なり、本当に刺激的で楽しい。このまま突っ走って、1冊の本を作るんだ。


そう思っていた。



不穏な空気が漂う。

先に出版された、同じジャンルの本がネットで炎上した。
事実と異なる点があると。

それでも、逆に燃えた。やってやるぞ、驕りかもしれないけれど、完璧な本を作るぞ、と。



でも、だめだった。
ストップがかかってしまった。


私に声をかけてくださった編集の方は、とてもとても落ち込んでいた。編集長さんと、何度も、何度も謝ってくださった。

情勢が落ち着いたら、と言ってくださったけれど、“そのとき”はないだろう。受け止めきれなくて、夫に聞いてもらって泣いた。

書いていたぶんの原稿料はいただいた。


思えば、ライターとして「方向転換をしよう」と決めたのはこのことがきっかけだったのかもしれない。“好きなこと”を自分から手放したのは、今も後悔しているけれど、もうどうにもならない。


あれから数年経った。

Webライティングを続けている。やっぱり“書く”ことは好きだ。差し迫った納期とか、リサーチとか、めんどくせーと思うことはたくさんあるけど、今の働き方も、ライターという仕事内容も好きだ。


それでも、 ぽっかり と何かがなくなったような。
生まれて初めて感じた気持ちは、今も残っている。


あれが私が初めて経験した、挫折なのかもしれない。

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