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「スパイダーバース」というCGアニメ映画がやってしまった事

サムネは視聴してる最中の驚愕を抱いた自分を表現しています
なるべくネタバレはしないように配慮はしますが、今すぐ劇場に行く事をお勧めします

やばすぎんだろ……

ネタバレを避ける感想としてはこの一文で事足ります、別にお金貰って書くものでもない、ただ四の五の言わずに見た方が良い、財布に入ってる紙幣2枚なんてこの映画に掛かってる狂気と制作側の熱意に比べれば

ほんとにこの紙二枚でこの映画見て良いの?ほんとに?視聴料1万とかじゃないの?資本主義万歳ってなる

見なかったら映画評論家が黒澤明を知らない、漫画描く人が手塚治虫を知らない、アニメ描く人が宮崎駿を知らない、とかそういうレベルのランドマークです、大絶賛はするけど、別にノーラン監督的な「あ、そう来る!?」みたいな要素に対して絶賛してる訳じゃないです、エンタメとして完成しているのは間違いないけど

じゃあ何がやばいのか

CGってのが世に出始めた時、そしてCGに興味を持って参入してきた人たちがある一定抱いた思想がありました「CG特有の表現を、CGだから出来る事をしたい

この思想を抱いてた人はもう心に残すものはないでしょう、この映画が全てです、全てやってしまいました

人間の想像力はもっと豊かなはずだと、心残りがある人もいるかもしれない、でもこの映画は全てやってしまいました

人間の想像力は確かにもっと豊かです、もっと凄い、あの映画よりもっと凄い事は出来るかもしれない、でも受け取る側にはその"想像"が受け取れる限界があります、イきすぎた表現は、受け入れる側が理解に追いつかず、結果的に誰も評価しないものになります

でもこの映画の表現は違います、理解出来ます、理解出来てしまうのに面白い全てをやった、やってしまった

過去の作品を上げてみる

かつて「ロジャー・ラビット」がありました、実写とアニメを掛け合わせた表現です、良く出来てました、でもあれの先がある、あれより面白い演出や表現があると分かっていました

かつて「ターザン」がありました、成長していく過程のシーン、狂気的な木を伝っていくアニメーションがありました、あれも異常です、一部のアニメーターにしか描けない、でもあれより面白い表現を人間は探る事が出来るだろう事は分かっていました

ディズニールネサンスも最盛期を超えて、次にCGが定着していきました

「アナと雪の女王」がありました、氷の城、ドレスに変身する表現、でもCGの表現があれで完成だとは、誰も思ってなかったと思います、あれが天辺だとは思っていない

その中で各社が、色々なノウハウを蓄えたCG人材を結集させつつ、色々な名作を世に落として行ったわけです

そして「スパイダーバース」です、人体のアクションアニメがあれと並ぶ事はあっても、あれを超える事は無いでしょう

結局アニメーションというのは過去の系譜の極地で、人間の創造の分だけ無限にバリエーションがある訳ではない、あらゆるカメラの特性や人間の頭の制限の中で無数の組み合わせがあるだけで、スパイダーバースのアニメは
CGアニメーターの教科書としても、もう完成してしまった
そして表現の面も、上の通り、無限にバリエーションがある訳ではないのは一緒です、この映画はその極限までそれをやってしまった

ある日宇宙人に私たちが侵略されて
「この世で一番面白いCGアニメ映画を出せ、それが面白くなかったら地球を滅ぼす」と言われたら あなたなら何を選びますか?
私は迷わずこれを選びます、ほぼ同列で「ズートピア」次点で「トイ・ストーリー」かな

つまりどういうことだってばよ

ちょっと逸れますが
実写風CGは、実写に寄せる事が目的であり、実写以上になる事はありません、VFXみたいなファンタジー付加要素はありますが、表現としては結局現実の物理学がターゲットです、アバターが如何に素晴らしい映像美でぶん殴ってこようが、それらの表現はあくまで写実の範囲を超えない

でもアニメCGは、人間の創造の分だけバリエーションがあった訳で、過去今まで人間はその領域を開拓してきた、デフォルメにしろバンドデシネにしろ、アート×エンタメを誠実にやってきました、この100年でそれはもう結構なバリエーションの組み合わせを生み出してきたのです

それを証明するのが最近流行りのAIでもあります、人類が生み出した絵がAIの学習を加速させた

逆説的に言えば、AIは過去全てのアーティストの努力が無ければここまで精度の高い物にはならなかった

この映画はそのAIがやるような膨大な学習を
人自らが綺麗にそのアート×エンタメバリエーションの集合体を抽出し、精錬し鍛造して生み出してしまった

10年後、100年後、このCGアニメと並ぶ映画は作られる、それは間違いない
この映画が分析されて、他者が作る事は間違いないけど

この映画を超える、となると 別ジャンルの人間の創造の領域が更に進化するのを待たないといけない、新しいアメコミ作家が新しいスタイルを作るか、バンドデシネがそうなるか、どうなるかは分かりませんが、

この映画のヤバさは今までの人類が出したアート×エンタメ表現のほぼ全てを編纂してしまった歴史書みたいなものな訳です

それをやってしまった、恐ろしい事です

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