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経験者エンジニアが転職市場で見当たらない/該当者インタビューと企業ができること

20代後半から40代前半までの経験者エンジニアが転職市場で見当たらないというご相談を多く頂きます。以前下記のようなコンテンツを出しましたが、それから時勢なども変わりましたので、2023年1月現在の状況を整理します。

2022年11月までのITエンジニア提示年収バブルは何だったのか?

外資IT、国内ユニコーン企業等を中心に提示年収が激しかった企業を中心に2022年11月以降ではレイオフが起きています。各社実情を語る記事などをチェックしていますが、大筋で「(現在アサインするタスクはないが)取りあえず将来のために確保をした。しかし不景気になり、優先度をつけた結果レイオフをした」という内容です。

ベンチャー界隈で採用・マネジメントをしてきた一人としては、一時的にお金を持っていた企業の気まぐれに付き合わされていたのかと思うと居たたまれないところです。

その点、コンサル各社は採用市場に戻ってきました。外資ITとの違いとしてはコンサル各社については人月精算が基本であるため、客先にアサインできれば費用回収はできます。提示年収も能力と経験を元にして客先への請求金額を視野に入れた上で提示されるため、年収は国内SIerより高いものの、外資ITほどの上がり方はしません。無茶苦茶な高額提示をしても、回収できなければ事業に影響するからです。

スカウト媒体

例年であればボーナスを貰ってから辞め、1月転職の方が11月、12月に動くと言われていました。世界的な景気後退が言われた11月、12月は本当にスカウト媒体に動きがありませんでした。返信率で半数から1/3まで落ちていた印象です。いずれも相場より高い給与を提示してくる外資ITやメガベンチャーが様子見になったからだと言われています。1月中旬になり、4月に転職を考えている方がようやく動き始めたかなという印象です。

ただし採用側としては素直に喜べません。転職を前提としていそうな方にスカウトをしても、実は業務委託で入れるところを探している(フリーランス・副業)ことが少なくなく、どうにも手応えが感じられにくい状況です。また、一瞬採用を控えていた外資コンサルなどは戻ってきつつあるため、特段各社に取って優位になる知らせがあるわけではありません。

人材紹介

以前のnoteでは「人材紹介の紹介フィーが高すぎる。新規契約も断られがち。でもその態度は不景気になると嫌われて大変なことになるよ」と予測したのですが、どうも違ったようです。

キーワードは「迷い」

転職希望の候補者からのスカウトの返信であっても現職への残留や、自身の市場確認も含めて「迷い」が感じられる方が多いように感じます。スカウト媒体自体はあくまでも企業と候補者のマッチングの場なので、「迷い」があっても候補者が自力で考えなければなりません。時折スカウト媒体内でキャリアアドバイザが爆誕することがあるのですが、工数を踏まえると疑問が生じやすいため、なかなか継続的に実施しているところは居ない印象です。

全体的にキャリアの「迷い」が候補者に感じられる中、活況に見えるのが相談相手にもなり得る人材紹介各社です。そしてビズリーチなどは人材紹介が候補者の流入を図るチャンネルとしても機能しているため、そちらも活況なようです。

進路も然る事ながら、年収交渉も迷うところです。実際に直近転職している方にお話をお伺いしていると「年収交渉の代行をしてくれて助かる」という声が聞こえてきます。スカウト媒体だと一社一社と調整しなければならないことから、調整力が大なり小なり求められるため抵抗感があるということのようです。

自社サービスのスカウト文が劣化して輝く人材紹介会社のスカウト文

私自身、RPO(採用代行)の顧問をしている都合上、エンジニアとして受け取ったスカウトを精査して「良いスカウトとは」という観点から教材にしているのでよくチェックしています。自社サービス各社の場合、スカウト返信率を考えるとカスタマイズを放棄している企業が多く、複数社のスカウト文を並べても代わり映えがしないのが実情です。そんな中、候補者の職種や経験を元に「こんな案件がご紹介できますよ」と複数企業の話をする人材紹介のスカウト文がかなり良質に見えるという現象があります。こうした観点からも人材紹介は優位だなと感じます。

人材紹介フィーの高騰と内情

企業から見ると、人材紹介には居るらしいものの、自社に紹介されることがないもどかしさを感じているということがヒシヒシと感じられます。提示年収は往時の外資ITやメガベンチャーには及ばないものの、人材紹介フィー(想定年収に対するパーセンテージ)は50%以上を出す企業は継続して存在しています。コンサルなどでは200%提示の企業もあるのとのことで、引き続き各社躍起になっている状態です。40%で契約をしても紹介がなされない、もしくは求める人物像とは異なる人材しか紹介されないという嘆きはよく耳にします。

個人的に人材紹介フィーの妥当性については訝っていますが、現在の市場感を受け入れたとすると下記の人材紹介会社の内部事情が成り立ちます。

例えばあなたの在籍している企業がある商品Aを扱っていたとして、顧客Bに売ると300万円、顧客Cに売ると500万円売り上がるとします。この事実だけ聞くと「顧客Bに売ってきました!」と営業担当に報告されると普通は怒りますよね。

人材紹介の難しいところはこの例の場合の商品Aが人材Aさんであるわけで、Aさんのキャリアを考えてB社かC社をアドバイスするべきなのですが、純粋に人材紹介会社の経営のことを考えるとC社に入社することを推奨せざるを得ないというもどかしさがあります。

こういう経緯もあり、弊社のお客様には「人材紹介フィーを値切らないでください」とお伝えしている次第です。もっとも、人材紹介各社には高額な人材紹介フィーに甘んじることなく、候補者の人物面やスキル面の確からしさを保証して頂くなど、何かしらの付加価値をつけて頂きたいと常々願っています。リファレンスチェックとか代表してやって頂けると良いんですが。

今、企業が何をできるのか

2023年1月現在のIT業界は人手不足感と、不景気感が同居している不思議な状況です。提示年収は昨年秋以前に比べて落ち着いたものの、求人だけは増えている状態です。誤解されやすいのですが、別段強いプレイヤーが大人しくなったからといって採用しやすくなったわけではありません。

無尽蔵に採用コストが掛けられない企業において、今できることは何でしょうか。

ブランディング

テックブログ、セミナー、イベント、コミュニティといった外部発信を通して自社の名前を知ってもらうというものです。スカウトの返信を見ていると、真摯に転職を考えているITエンジニアからの前向きな返信には下記のようなリアクションが一定見られます。

  • 名前を知っている

  • 勉強会で話を聞いたことがある

  • 昔、技術的な問題について調べていたときに、テックブログを見て解決をすることができた

  • 以前テックブログやセミナーを聞いて話してみたいと思っていた人が在籍している

こうした認知獲得はブランディングなどと言われますが、少なくとも1年以上掛かります。入社などが発生するには2年以上はかかると考えておくと良いかと思います。例えばこのnoteですがもうすぐ丸3年になります。その間の変化は下記のようなものでした。

  • 丸1年:「たまに見ています」と言われる

  • 1.5年:本の執筆依頼が来る

  • 丸2年:会社で回し読んでいますと言われる、仕事の依頼が来る

ひとまずのゴールは継続的アウトプットとし、認知拡大を地道に実施していくことをお勧めしたいところです。

リファラル

採用難の時代にあって採用に成功している企業で割合が高く、費用対効果が高く、ELTV (Employee Life Time Value) も伸びる傾向にあるものがリファラル採用です。過去在籍企業や、これまで準委任契約などで現場が一緒だった人を誘うケースが多いようです。

社員の従業員満足度を上げながら「安心して誘える現場」というのが上手くいっている企業の勝ち筋です。そうでないと役員だけ頑張る状態になりやすいです。

リファラルを純粋に人脈だけで絞った場合、大企業在籍者以外は枯渇しやすいものです。イベント、セミナー、コミュニティなどで人脈を拡げることが必要になっていきますが、そのことを突き詰めていくと前述したブランディングに繋がっていきます。

主力メンバーから退職者を出さないこと

今居る主力メンバーの退職を防ぎましょう。新しい人にコストを払うより、今居る人にコストを払った方が良い組織はあります。

自社の社員が居なくなることで不足したリソースの補填としてやむなく再委託を選択する企業も見られますが、短期的なソリューションだなと感じます。リソースの補填としての業務委託は粗利率も下がりますし、発注者との契約にも盛り込む必要があるので別段良いことはありません。

M&A

コンサル、SIer、SESのように人が居ることが事業戦略の場合、経験者採用の難しさは死活問題です。セミナーでも「報酬を上げるということをせずに採用するにはどのようにすれば良いでしょうか」とご質問頂くことは少なくありません。数少ない活路の一つはM&Aかなと思います。

ITシステム開発関連のM&A

その採用は本当に必要?

給与が第二新卒並(200-300万円台)の経験者求人などが通用したのは10年前のお話です。何かしら候補者の弱みを握った上で採用するような世界でないと、入社する理由がありません。これは見直してから求人をしないとTwitterネタにしかなりません。早期にM&Aを検討したり、内製化を諦めて外注したりしたほうが建設的であり、合理的です。

冒頭のなんとなくの採用や提示年収バブルの話は外資ITや一部国内企業を指したものですが、それ以外の国内企業についても本当に必要な求人なのか不明なものが見られます。

例を挙げます。求人倍率が特に高いものの一つがSalesforceエンジニアです。DXなどに伴い自社にSalesforce製品を導入し、そのほか基幹システムなどとの連携をしたいという趣旨のものです。そこまでは理解できるのですが、正社員採用するということは定年するまで雇用するというのが今の日本の意味合いです。果たしてその方が定年を迎えるまでSalesforceに特化した業務を振り続けるのかというと、それは考えにくいです。求人の発想としてはジョブ型に近いため、何かしらの業務委託が今の日本の雇用制度的には適切でしょう。一時的なものであれば外注も良いでしょう。一旦外注してから社内エンジニアにキャッチアップしてもらって運用フェーズから簡易なものについては内製化するというのもあるでしょう。

他方、大企業では本社と子会社で類似の求人票を作成することで、グループ内で求人倍率を上げているケースもあります。せめてグループ内くらいはシンプルにできれば良いのですが。

全体的に難しい経験者ITエンジニア採用ですが、上記のように企業自身が難しくしているケースもあります。このあたり、整理するところから始めることをお勧めします。


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