ITエンジニア、ミドルの転職の仕方/35歳以下転職との違い
先のコンテンツでお話したように、スキルに現役感があって柔軟性があればITエンジニアについては継続的に就業できそうな傾向が見えています。急に20代の日本人正社員が増えることはこの先無いので、企業が日本人に拘っているうちはミドルの需要はなし崩し的に高まっていくと考えています。ただし、朗らかに、にこやかにコミュニケーションできる柔軟性の高いミドルを目指しましょう。
とはいえ、実際に採用市場を見ていると転職の仕方が不器用な方が多いです。早期退職制度などもあり、初めての転職や十数年ぶりの転職という方も多く居られます。今回はITエンジニアにおいてミドルが取るべき採用の動き方についてお話します。
ミドルの転職におけるアンチパターン:とりあえず大手人材紹介に登録
Twitterで話題の47歳について、私も思い当たるところがあり共感を持って毎日拝見しています。現役エンジニアがコメントや引用RTでワーワー言うのがまた一興です。
そんな47歳さんの転職活動風景として、このような描写がありました。47歳さんの振る舞いを見るに業界大手紹介会社からのスカウトを受け、登録、ヒアリングを受け、勧められるがままに業界最大手企業を順番に受けているというところでしょう。
転職がしたい!となった時に大手紹介会社のみを使うというのはミドルに関してはお勧めしがたいです。これは35歳までがやって良い方法です。
また、業界大手企業だけ受けるというのもお勧めできません。この界隈はどの人材紹介会社に登録しても、ヘッドハンターと話しても出てくるよくある求人票です。通る人も勿論居ますが、企業名のバリューから候補者を集めやすく、間違って企業に紹介しても怒られないことから使いやすい撒き餌みたいなものです。
何故一般的な大手人材紹介はミドルが不得手なのか
私は前職でキャリアアドバイザ教育を担当したり、ミドルの転職支援のサポートもしていました。キャリアアドバイザの方の多くは35歳以上の紹介を不得手にしており、それを払拭するための底上げが狙いです。不得手ではないケースについては後述します。
何故不得手なのかというと、35歳以下の年齢であれば紹介会社に求められるスキルは薄くて済むからというのがあります。雑な言い方になってしまいますが、下記の4つに注意してことを進めればあとはキャリアアドバイザと企業担当者の営業力の問題です。
・程々に需要のあるスキルがあり
・人物面に問題がないことを確認
・言語別に経験年数をヒアリング
・該当する企業に右から左に紹介
これがミドルになると経歴を読み解けないと変な紹介をしてしまいます。よくあるのはインパクトの強い言葉に引き摺られて誤った理解をしてしまうというものです。具体例を挙げると争いに繋がりそうですが、プログラマだと今ではあまり使われていない言語だったり、インフラエンジニアだと監視やオペレーターなどの言葉があるとそれに引き摺られるキャリアアドバイザは残念ながらそれなりに居ます。
多くの人材紹介会社の属性は営業会社なので、決まりにくい、もしくは経歴が複雑で理解に時間を要する難易度の高い人材と向き合うコストを払うところは多くはありません。決定確度が低い人材に時間を割くより、決まりやすい人を複数熟す方が売り上げが上がるからです。勢い、分かりにくい経歴のミドルは塩対応をされることに繋がります。
逆に他社が決めにくい人材に注力して売り上げを確保する特化型の人材紹介会社はありますので、そちらも後述します。
私がキャリアアドバイザ教育時に意識していたのは下記です。
・これさえ押さえれば決まるという銀の弾丸はない
・トレンドは移るので継続的にキャッチアップは必要
・インターネットの歴史(概要と変遷)
・各用語の相互関係
・主要な技術トレンド
・いくつかのパターン別、意思決定ロジック
・現在の状況
・今後1-2年のトレンド
技術の連続性についての理解がないと過去のキーワードに惑わされたり、類似技術を見落としたり(ピッタリとキーワードマッチしない限り分からない)します。それ故に元エンジニアのエージェントの方がより適切な技術認識をできる可能性があり、需要がある傾向にあります。
経験年数やモダンスキルだけでマッチングできる人材(35歳以下、経験者)というのはキャリアアドバイザの介在価値は薄いです。AIというかSQLのwhere文で十分です。事実、キャリアアドバイザが介在しないスタイルでのリファラルやスカウトサービスなどでも十分転職ができしまいます。キャリアアドバイザ自身の将来のためにも難易度の高い人材と向き合うことを避けないように、精進するように伝えていました。
次に具体的なお話をしていきます。
【前提】タイミングと年収
早期退職制度の怖いところではあるのですが、早期退職に申し込み、タイムリミットが迫る中で転職活動をする方が居られるというポイントです。後述するようなコネクションがない限りは長期化しますので、転職先が決まってから申し込むのが無難です。割と気軽に「なんくるないさ」の精神で早期退職制度に応募されている方も多く、30歳で月収額面15万円でアルバイトプログラマで暮らしていたことのある自分としては信じられません。
Twitterで言われるところのJTC(Japan Traditional Company)の方で、業界水準より年功序列で年収が上がってしまっているケースにもご注意ください。生活水準を下げるというのはかなりの苦痛を伴いますし、フラット35のご都合もあるかと思うので長めに転職活動をしながらご自身のスキルセットに対する相場観にアタリをつけてください。
希望通りの高い年収が通ったとしても、その待遇で残り続けられるかは断言できません。一般的には給与相応の働きが求められます。
【事前準備】確率を高めるために書類をきちんと書く
次に、応募先企業、紹介会社、ヘッドハンターなどに誤解を与えない書類の書き方についてお話をします。一度書いておくことによって紹介会社やヘッドハンターに渡すだけで自分が思いもよらなかったようなキャリアが開けることもあります。私は転職は2回しましたが、2回ともその方法でキャリアチェンジしてきました。
ミドルで特に注意していきたいのは職務経歴書の時系列です。履歴書の職歴と同じ流れで過去から書いていく方が多く居られますが、これは職歴が長くなると不利益に繋がります。
書類審査担当は頭から読み込みつつ、その人が何をでき、自社にマッチするかどうかを想像していきます。多くの場合、スカウト媒体なども複数チェックする必要があることから、一時間で200人分の書類を見てピックアップするみたいな話もあります。そのため、斜め読みしたり、途中で興味を失うと次の方に行きます。
つまりWebプログラマを探していたとして、前半に「1995年よりネットワークエンジニア」「2000年よりVB6」「2005年より営業職」とかあると、どんなに直近モダン言語で業務に当たっていても「現役感が薄い人材だ」と誤解され流されるリスクがあります。だからこそ、新しい順で経歴を書く必要があります。
職務経歴書の持つ本質としては3つの時制に準拠することです。
・過去に何をしてきたか
・その結果、今何ができるのか
・今後何がしたいのか
過去だけにスポットを当てても今が見えず、将来が見えなければ企業も口説けずといったところです。それもあって、過去だけを羅列したSESやフリーランスの業務経歴書フォーマットは私は好ましいとは思っていません。嫌いです。
【採用チャンネル】ミドルに強い紹介会社を使う
これまでお話したように35歳まで使っていた大手紹介会社に再登録するとか、アカウントを復活させるというのはイマイチな手段です。
一つ目は大手紹介会社であれば「エグゼクティブ」「ハイキャリア」「エキスパート」と行った手練向け別ブランドの扉を叩くというものです。企業によって同一グループであってもデータベースを共有していたり、別だったりするので「一つ登録しておけばきっと自分に最適な人が話しかけてくれるはず」と期待するのは誤りです。登録者数が多いので埋もれます。
二つ目はミドル層に特化したエージェント(JACリクルートメントなど)の扉を叩くというものです。40代、50代の転職支援にも強いです。
三つ目は上記コンテンツに沿ってキャリアを整理した上で、ビズリーチなどに登録するのが一つ。スカウト媒体は独自のウェブフォームに入力しなければならないので厄介ですが、根気よく入力するのが必須です。経歴は長いにも関わらず、途中で入力を飽きて経歴が凄いのか凄くないのか全くわからないミドルのアカウントは非常に多いです。経歴が20年あるのに数行しか経歴が書いていない人に良質なスカウトは来ないです。
【採用チャンネル】ヘッドハンター、小規模人材紹介のエージェントと個人的に仲良くなる
ビズリーチなどはヘッドハンターや紹介会社からの声掛けも多いので、良さそうな人と数名話してみるのも有効です。かなりの量が来るのでどなたの声を聞けば良いか難しいかと思いますが、スカウト文にきちんと自分の経歴にある内容が触れられているかどうかというポイントは相手の真摯さを見るのに良い指標です。
お勧めは紹介会社のキャリアアドバイザやヘッドハンターの方々と個人的に仲良くなっておくことです。別に転職の予定がなくても定期的に自分の現在地を確認するために相談してみるのも良いです。本当に信頼に足る人達だと思えたのであれば、転職を考えている友人知人の紹介をすることで登場人物が皆喜ぶ展開になるのでお勧めです。
エージェントやヘッドハンターに抵抗意識のある方も居られるようですが、自分が気付いていないキャリアの提示、対象企業との交渉などで介在価値を発揮してくれる方は多いので利用しない手はないです。逆にこれらが感じられないと介在価値が弱い、もしくは相性が悪い可能性があるので他の方を探すのが良いです。
【採用チャンネル】かつての部下に連絡を取り、リファラルを狙う
近いところでもあったのがこちらの事例です。以前のコンテンツでも触れたのですが、紹介者目線で考えるとリファラルは口説きやすい人が入る傾向にあるため、目上の人や先輩を口説いて入るというケースはレアです。部下や後輩をリファラル採用し続けるとあるところから従順な人のみが揃う没個性的な集団になります。一つの打開策として、紹介者よりもできる人に入っていただくというのは尊い行為です。遠慮なく紹介してもらいましょう。
後輩に拾ってもらうという感覚に抵抗があるというのであれば、「後輩を手伝う」「成長した後輩と共に再び働く」というようにポジティブ変換して自身で腹落ちしてから動くことをお勧めします。
【採用チャンネル】直接応募をする
気になる企業があれば直接応募をするのも有効です。情報収集の過程で年齢制限がないところを選びましょう。弊社 株式会社LIGもありません。
【企業選び】平均年齢、新卒ありきか中途ありきかに注意する
企業には大きく分けて二つあります。
新卒を育てることを軸に不足箇所を中途採用する企業と、基本的に中途ばかりの企業です。当然後者の方が中途人材は馴染みやすいです。私の持論ですが前者には独自用語が多く、後者には業界用語が多いです。前者は言葉からして分かりにくく、ググっても当然出てこないので「社内用語辞典」がないと困ります。
また、前者の中でも「あれ?育った新卒で中途採用者をリプレイスするような人事が増えているな」という企業などは長期に渡って気持ちよく在籍することは難しいです。
また、平均年齢が自分より若い企業はベンチャーはよくあるので先のコンテンツのように現役感と柔軟性を大切にして入ってください。ただし、流石に平均年齢20代はハードモードなので覚悟してください。
【フリーランス】安易にはお勧めできない
45歳を越えたら企業から独立してフリーランスになるべきだ、という論調が確認されています。だいたい既に起業・独立している人がそう仰っています。
内定が必要な転職に対し、開業届けを出すだけで済むフリーランスになりましょうというのは定年が75歳になる未来が色濃くなっており、継続して働くという意味では正しいように見えます。
ただリスクも大きいです。永続的な契約が見込めず、1ヶ月〜6ヶ月で契約更新することになります。コンサルタントなどでうまくやっている人は「複数のお財布」と称して3箇所くらい掛け持って冗長化を確保していますが、プログラマとしての1メンバーだと体力的に限界があります。
そしてエンジニアにとって一番の苦行は、エンジニアリングから最も遠い自身の営業活動だと考えています。私も本業の方で(いつの間にか)アカウントプランニングを最前線でやっているのですが、フラれなれていない自分というものを実感します。
自社内でエンジニアとしてプロダクトを運営するだけの仕事や情シスの仕事をしているうちは、コンペの敗北も、失注の悲しみも、契約の打ち切りも壁を挟んで向こうの話でした。いざ当事者になってみると、毎回「なんか雰囲気良いし行けるんじゃないか?」という感想を懐きながら提案を終えつつ、お断り連絡とかそのまま音信不通というのがあるわけです。
BOLTS AND NUTS!でも「40過ぎてからの失恋はキツい」というセリフが出てくるのですが、心の底から営業職の人達は凄いなぁと、受注よりも失注する度に尊敬します。失注を乗り越える心の強さですね。
正社員エンジニアが経験しているであろう事象に例えると、転職活動でお祈りされるような事象に近いです。フリーランスの契約更新だと、これを数ヶ月おきに経験しなければならないようなものです。多くのエンジニアには苦行じゃないですかね。
ポイントとしては下記の3点が必要ではないかと考えています。
・副業などで事前にフラれ慣れる、フラれることに対する自身の耐性を知る
・正社員就業中に太い顧客を複数見つけておく
・貯蓄
最後に
詳しくは別コンテンツに譲りますがどうも年齢を問わず誤った情報収集を元に珍妙なキャリア選択をする人が増えています。ライフステージの変わり目(5の倍数の年齢、転職、倒産、怪我、入院、介護、看護、離婚、出産、特に双子の出産)に人生を振り返り、その結果として最も甘美な情報を選択した結果露頭に迷うというものです。
情報商材はあるとして、親しい人が危うい情報に接触後、善意でお勧めするという事象も確認されました。今の状況があまりの酷いのでそれよりはマシだと勧めているのではないかと思いますが、その先が何の改善も見込めない地獄であれば救いがありません。下記の投稿にも「若ければ良いのでは」「自己責任だ」というような話はあるのですが、私もワーキングプア時代に痛感しましたが環境に余裕がないと視野狭窄に陥ります。今の環境はそこに漬け込む一種の貧困ビジネスが存在する状態です。
今後、45歳定年説に煽られてのミドルを対象にした情報商材などがやってくるでしょう。今回の話の対象者とはズレますが、アラフォーでプログラミングへのキャリアチェンジを図り、失敗して路頭に迷っている事例も聞こえてきました。恐らく次の一手としては転職経験の乏しいミドルを対象にした、フリーランス礼賛商売でしょう。
真摯な情報を収集し、自身と照らし合わせて意思決定できるのが理想です。耳障りの良いだけの情報は虚像ですし、一切を閉ざして近辺の情報だけで意思決定するのもリスクです。しっかりと時間を取り、複数のソースを参照しながらキャリアチェンジに取り組むのがポイントとなります。
執筆の励みになりますので、Amazonウィッシュリストをクリックして頂ければ幸いです。
https://www.amazon.jp/hz/wishlist/ls/COUMZEXAU6MU?ref_=wl_share
頂いたサポートは執筆・業務を支えるガジェット類に昇華されます!