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娘が生まれて感じたこと

 先月、娘が生まれた。我が家の初めての子供。娘が生まれるまでの備忘録を残しておこう。

 結婚して6年間、なかなか妊娠せずに、毎月のように落ち込む妻に何もしてあげれないもどかしさがあった。”そのうちできるから大丈夫だよ。”と言いつつ何の説得力もない。自分は落ち込む姿を見せないようにと振舞っていたつもりだが、不安でいっぱいだった。そんな中やっと妊娠した・・・と大喜びしていたのに、流産。”次、頑張ろう。大丈夫だよ。”と、やっぱり何の説得力もない。友人や親戚の子供を見ていると複雑な気持ちになった。妻を支えなければと思いつつも、ただただ辛い思いを一緒に共有しながら毎日を過ごすしかなかった。それからようやく2回目の妊娠がわかったが、一度流産を経験しているため、あまり喜べずにずっと半信半疑だった。正直、妻と二人で一生過ごしていく将来をよく想像していたし、子供のことを意識的に考えないようにしていた。

 妻が妊娠してからは、お腹が日々大きくなるのを見ながらも、私には子供が生まれるという実感があまり湧かなかった。妻のつわりは、そこまで酷くなかったようで、産休まで元気に仕事をしていて、いつもと変わらない日々を過ごしていた。とはいうものの、友人や親戚から子供の服やベット、授乳グッズ、お風呂用品などなど、たくさんモノをもらっていくにつれ、私の気持ちよりも先行して、家は子供が生まれてくる雰囲気に包まれていった。

 そして出産当日。朝6時ごろ、起きると妻が隣にいなかった。起き上がり探してみると、トイレに籠っては苦しんでいた。何度も吐いていたらしい。そこから妻は耐えること2時間。朝8時ごろ、一緒にタクシーで病院へ向かったが、看護師さんからは、まだ時間がかかると言われ、私だけ家に帰り待機することになった。ちょうどコロナの影響で仕事はテレワークだったので、私はいつでも病院に行ける状態だった。また、病院もコロナ対策で、面会には時間制限があり2時間のみ。出産の直前にしか会えないとのことだった。妻からLINEでメッセージがきたのは15時半ごろ。「そろそろ生まれるかも。気を付けて来てね。」ということで、病院に向かうと、一旦、控室で待つように言われた。控室に向かう途中、廊下でうめき声のような叫び声が聞こえた。看護師さんが「奥さんは今頑張っていますからね」と。あれが妻の声?という驚き。LINEではいつも通りのメッセージだったので、こんなに苦しんでいるとは思ってもいなかった。今まで聞いたことのない声だったのと、あまりの苦しそうな声に一気に不安になった。控室は3畳くらいで、椅子以外は何もない小さな部屋。控室に籠って2時間くらいで看護師さんがきた。赤ちゃんの旋回異常であることを告げられた。赤ちゃんの向きが悪くて、出てこれない状態らしい。まだ結構時間かかるのと、場合によっては帝王切開もありますので、認識しておいてくださいと。すでに手元のスマホの充電もなくなっており、何もない部屋でじっとしていた。その間、5時間以上、ずっと妻のことを考えていた。とにかく無事でいてほしいと。それだけだった。こんなに妻のことだけを考えたのは初めてかもしれない。23時ごろ、ようやく看護師さんに妻のもとへ案内された。部屋に入るとベットに疲れ切った妻と小さな娘が産声をあげていた。妻は、娘が生まれるまでは私が部屋には入ってこないようにと看護師さんに伝えていたようだった。大量に出血して苦しんでいるところを見せたくなかったのだと。部屋に入ると妻が笑顔になってくれてようやく安心することができた。長い長い一日だった。

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 妻には感謝しかない。娘が生まれるまで大変だったが、妻と辛い気持ちを共有して過ごした日々は、私たちの大事な思い出になった。

 娘には健康で豊かな人生を送ってほしい。豊かな人生とは何か。人それぞれ人生の豊かさには定義があるとは思うが、その定義付けも含めて人生なのだと思う。

 今の私は小さな命を育てていく責任を強く感じている。これまで、私自身が子供の人生に大きく影響してしまうということが、とても嫌だった。金銭的な資本だけでなく、文化資本までもが影響してしまうことを考えると親としての自信がなかった。ただ最近では、そんなことはどうでもよくなってきた。大切なのは、娘に願うことを自分が実践できているかどうかということな気がしている。明るい家庭であれば、明るい子になっていくと思うし、親が何かに夢中になっていれば、子供も何か見つけて夢中になるだろうし、親が社会のことに関心をもって行動すれば、子供も社会のことに関心を持てるようになるだろうし。つまり、”私自身が豊かな人生を送れているか”これに尽きると思う。娘の顔を見ながら、もう一度、自分の人生を見つめ直して、妻と娘と豊かな人生を過ごしていこうと強く誓った。

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