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「アメリカではー」をそろそろやめませんか

*この投稿は8月2日にブログに投稿した記事のコピーです。
(ちょこっと推敲しました)


突然ですが

「日本では、たけのこの里よりきのこの山のほうが俄然人気で、たけのこの里なんか誰も見向きもしない」
というツイートがあなたのTLに流れてきました。あなたはどう思いますか?
あなたがきのこ派だろうがたけのこ派だろうが関係なく「いや、両方とも人気あるじゃん何言ってるの?」
と言いませんか? 
もうちょっと堅い話でもいいです。「日本では、ほとんどの子供が中受(中学受験)に挑む」というツイートがあなたのTLに流れてきました。あなたはどう思いますか? あなたが東京都心近郊に住んでいるなら「いやお受験(小学校受験)組も結構いる」「ほとんどじゃないけど、多い」地方都市に住んでるなら「そんなの逆にほとんどいない」「東京とか都市部の話でしょ」と思いませんか?

ではここで質問です。
「日本では」ではじまるツイートは鵜呑みにせず、自分の体験、体感に基づく意見をすぐ述べることが出来るのに、なぜ、「アメリカではー」ではじまるツイートはなんの疑いもなく鵜呑みにし「なるほどアメリカってそういう国なんだ」と思い込むのですか?

アメリカで自分が体験した話を「アメリカではー」と主語を大きくしてしまうのはなぜですか?


わたしはこの「アメリカではー」にウンザリしています。

国全体に関する話だったらわかりますよ。例えば「アメリカではーインフレが進み食品価格が高騰」など。

Twitterで散見される「アメリカではー」「アメリカ人はー」を日本と日本人に置き換えてみてください。
その話がおかしいことにすぐさま気づくでしょう。(おかしいというのは決して嘘松だとかそういうことではありません)なぜなら、その話は決してすべての人に当てはまるわけないからです。しかし誰かがアメリカ生活の情報を発信するときどういうわけか「アメリカではー」「アメリカ人はー」で語られてしまうのです。

アメリカの人口は約3.3億人(2021年) 日本の約2.6倍。どう考えても「アメリカ人はー」が全員に当てはまるわけないだろ。

繰り返しになりますが、日本語で「日本ではー」と日本の生活文化風習を語ると誰もが即その主語の大きさ、おかしさに気づくのに(そして誰もそんな語り口では話さない)なぜ、日本語で語られる「アメリカではー」は許容され、なんの疑いもなく鵜呑みにし、その話が「アメリカの話」だと思いこんでしまうのでしょうか。
話者が一般論としてアメリカを語っているのであろう、ということは推測できますし、理解します。でも、

アメリカの国土は983万平方キロメートル、日本の26倍。どう考えても貴様の半径6ft (1.8m)の話がアメリカ全土に当てはまるわけないだろ。

Twitterで語られているアメリカではー話の殆どが「日本では、たけのこの里よりきのこの山のほうが俄然人気で、たけのこの里なんか誰も見向きもしない」と同レベル、
話者の主観と大きすぎる主語によって構成された話なのです。だから決して鵜呑みにしないでください。

また、時事問題などもアメリカの一側面にしか過ぎないのです。そのホットな話題はたくさんあるトピックのうちの一つで、話のタネにはなりますが一日中その話ばっかりしてるなんてことはないのです。言うまでもなく興味のない人にとってはどうでもいい話ですし現実世界はTwitterのTLとは違うのです。これもまた日本と同じですよね?


これを読んだアメリカにお住まいの皆さんはでもだけどだって…と文句のひとつも言いたくなるでしょう。しかし、自戒の念を込めて申し上げますと、あなたの見ているアメリカは、他の人の見ているアメリカとは違うのです。

日本で、日本語で日々のことをツイートしている皆さんをもう一度よく見てください。
ほとんどの人は「日本ではー」などと語らず、仮に「日本ではー」と大きすぎる主語で自分の主観に基づいた意見体験を述べると反論の嵐でしょう。もしかするとあなたも反論する一人かもしれません。ではなぜ「アメリカではー」におかしさを感じないのでしょうか。

自分の半径6ftの体験に基づいた小さな情報発信に意味がないわけでは決してありません。小さな情報発信が集約されるとその情報は精査され、より正確な「アメリカの」情報になります。
家の近所のスーパーの話でも、日常でふれあったローカル勢(地元民)の話でも、その情報には必ず価値があります。「アメリカではー」などと主語を大きくして盛る必要はないのです。



さて、この「アメリカではー」、最もよく知られているのは医療保険/医療費の話だと思います。

「アメリカではー風邪程度で病院にかかっても数百ドルかかる」


アメリカに居住経験がなく聞きかじった話を鵜呑みにしこれを言っているのならまだ理解の余地はありますが、アメリカに現在住んでいる人がこれを言うことにわたしはとても驚きます。


皆さんご存知のように、アメリカには国民皆保険制度がありません。しかし医療保険制度はあります。企業に就職すると、それがたとえパートでも日本の社会保険のような保険に安価で加入することが出来ます。別に会社員ではなくても自腹で保険に加入することは可能で、更に低所得者向け、高齢者向け保険もあります。問題は、その加入している保険により窓口負担金額や処方薬の値段が全く違うことです。そもそも、保険により行ける病院に制限がある場合もあります。

日本では国保/社保の2種類で日本中どこでも好きな病院に行けて、窓口負担も6歳未満と70歳以上(一部例外あり)を除き自己負担は3割ですよね。ところがアメリカの保険は前述の通り加入会社やプランで月額掛け金(もちろん収入に応じて変動)だけではなく窓口支払額からなにから全てが違うのです。なのに「アメリカではー風邪で数百ドル」などと主語の大きい話にはできませんよね?

「いやそれアメリカ全体の話じゃなく入ってるあなたの加入してる保険による話でしょ」となります。参考までにわたしの場合は風邪で病院に行くと窓口負担は25ドルです。いうまでもなく「わたしの場合はー」でアメリカ全体の話ではありません。


次にこちらもよくある「アメリカではー盲腸で入院すると数百万円かかる」です。実はこれ、あながち間違ってもいないのです。少し古いですがワシントン・ポストの記事によると

–How much does an appendectomy cost? Somewhere between $1,529 and $186,955–

A team of researchers at the University of California San Francisco started with a simple question: How much does it cost to get your appendix removed in California? They did not find a simple answer.

The price of appendectomy ranged from as little as $1,529 to as much as $182,955 depending on where it was performed, according to results published in the Archives of Internal Medicine. These results came after the researchers focused their data on 18- to 59-year-olds whose hospitalization lasted fewer than four days, to make sure they culled out any complications.

https://www.washingtonpost.com/blogs/wonkblog/post/how-much-does-an-appendectomy-cost-somewhere-between-1529-and-186955/2012/04/24/gIQAMeKMeT_blog.html

UCSFの研究チームが、「カリフォルニア州で盲腸を切除するにはどのくらいの費用がかかるか?」という簡単な疑問から調査を開始。しかしシンプルな答えは見つからず、日本円で20万円から2459万円の間という結果に。
(入院期間4日未満の18-59歳の患者のデータによる)
この記事は、同じ病気に於ける処置でも一定の金額ではなく処置内容、医師、病院、地域などで大きな差がある、という話で保険がどれくらいカバーしてくれるかという話は全く含まれていません。

あながち間違ってはいないとはいえ、UCSFの研究チームを持ってしても答えを見いだせないものを、そこらへんの日本人が気軽に「アメリカではー」などと抜かすとはとんでもないのです。そもそも保険適用前の元値が上記のとおり数百万どころか数千万円の場合があり、アメリカ人ですらよくわからないのでこんなサイトが存在するくらいです。
https://health.costhelper.com/appendicitis.html


以上を踏まえ、アメリカにお住まいの皆さんへ提案したいのが、今後医療費について情報発信されるとき、枕詞を「アメリカではー」ではなく「私の加入している医療保険ではー」にすることです。どんな保険に加入しているかは基本の窓口負担(co-pay)でだいたい察しがつきますからco-payを書くかPPO/ HMOなどの種別を書くか、もっとざっくりした種別なら日本特有の松竹梅でどうでしょう。

あなたは主語を大きくして適当なことを言いフォロワー集めがしたいのですか?それとも誰か見知らぬ人の役に立つかもしれないと思ってご自身の体験談をツイートしているのですか? もし後者の、善意のある人だったら「私の加入している医療保険ではー」ではじめましょう。あなたの体験に基づいた貴重なツイートは絶対に誰かの役に立ち続けるはずです。

日本の皆様におかれましては「アメリカの医療費は人によってすごく差がありアメリカ人ですら詳細を把握できない複雑怪奇なもの」と覚えておけばこのような主語の大きいツイートに引っかかることはないと思います。




みなさん、「アメリカではー」も、「アメリカではー」ではじまる話を鵜呑みにするのもそろそろやめませんか?

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