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突然、ママが死んだ (弔いの葬儀師1)

オンライゲームで有名なPKプレイヤー 『あんこく』
その中の人は22歳、自称jkアイドル。大学卒業してから、ほぼ部屋に引きこもり。日々はネットゲームと稀にライブをするだけの地下アイドル。まあ、外に出る気力なんてほぼないんだけどね。

ある日、携帯が鳴った。知らない番号。普通なら無視するところだけど、なぜか最後が110番っていうのに引っかかって、つい出てみたんだよね。

「警察です。あなたの母親と思われる方が…」って、まさかの連絡。正直、頭が真っ白になったよ。

なんで?どうして? 質問はあるけど、答えはない。そのまま、ふわふわした足取りで警察署に向かった。こんなこと、ゲームじゃ絶対起こらない。現実って、予測不可能だよね。


突然、ママが死んだ事を聞かされて「これからどうやって生きたら良いんだろう」て事だけが頭に浮かんだ。パパは私が小さい頃に消えちゃって音信不通。もちろん連絡先なんて知らない。

ママに彼氏?みたいな人が居るって聞いた事が有ったから警察に話した。ママの携帯に登録されてる番号に手当たり次第掛けてくれたみたいだけど誰も頼れる人は居なかった。

もちろん私は、お金なんて2、3万円しか持ってないし、2人で住んでるボロアパートの家賃も払えない。

1週間だって1人じゃ生きれないし、警察の人が紹介してくれた葬儀屋さんはお金の話ばかり。

しょうじき、もう死にたいと思った。だけど…最後にママの骨だけはちゃんと持って一緒に死にたいと思ったけど、お金が無いと骨もくれないらしい。きっとゴミのように捨てられるんだ。


警察は身寄りが無い人が、どうするべきか書かれたチラシをくれて何やら説明してたけど難しくて覚えれなかった。役所に死亡届持って、貯金がない事を証明する為に通帳や、未払いの公共料金の請求書なんかも持ってくるように言われた。

私は言われた通りに書類を持っていったけど、お金も食べ物もくれない。早く仕事を見つけろと怒られただけだった。

もう動く気力も無くなって、かかってくる電話なんかも全部無視してネットゲームで知り合いにお別れを言ってた。


とうとう電気も止められて、私このまま静かに死んで行くんだなと感じた。

最後にママに会いたいけど、警察からの連絡をずっと無視してた。それに警察の人が言ってた。警察で遺体を安置してる間に1日2000円掛かるとか、何とか。

そんなお金なんて何処にも無いし逮捕されたく無い。警察が勝手にママの遺体を調べてるのに、何でお金取られるのか意味が分からなかった。

ママの遺体には逢えないけど、せめてお祈りと葬式だけはしようと思って、コンビニのワイハイでネットに繋いだ。

それで、自分でできる葬式の仕方を調べてたら変なサイトを見つけた。

「闇葬儀、料金無料で執り行います。代償は死者の魂を49日間お借りします」―この文言を目にしたとき、心の奥底で何かが騒ぎ出した。怪しさ満点だけど、選択肢はもうこれしかない。

不安を抱えながら、藁をも掴む気持ちで連絡した。返事はすぐに来た。「ご安心ください。すべてこちらで手配します」。声の主は冷静で、どこか温かみがあった。





翌日、見知らぬ男の人が霊柩車みたいな大きな車に乗ってアパートに現れた。全身真っ暗なスーツを着ていて、お坊さんが着るような黒い和服調のローブみたいなコートを羽織ってた。

眼の動きは分かる色の薄めなサングラスを掛けていて、髪の毛は男の人にしては長めだった。どう見ても普通の人じゃ無いおじさんで、歳はギリ20代後半か30代て所かな?怪しさが服を着てるような存在で、みるからに胡散臭かった。

でも、不思議と何も怖くなかった。奪われるようなお金も無いし、殺されたって別に構わないしね。


その人は私の顔を見ると、わざわざサングラスを取って、丁寧に頭を下げて「この度はお悔やみ申し上げます」と挨拶した。

その時に、指先までまっすぐ伸ばした手首に巻かれてた真っ黒な数珠が光ってた。自分が産まれてから、こんなにも深々と人から頭を下げれた事なんて無かった。それだけで、この人は信用出来ると思ったし、何処か安心感を感じた。


その男は、どこか異世界の使者のようだった。サングラスを外した時に見えた彼の目は、深い悲しみを湛えていた。まるで、この世の全ての悲しみを見てきたかのような目だ。

彼は目の病気で普段はサングラスを掛けてる事を断ってから、静かに此からの事を話し始めた。

まず必要書類を持って、役所など何箇所かで手続きを済ませた後に警察まで遺体を取りに行き、家に持って帰ると言う。


その後、ひっそりと葬儀を行い、準備が出来次第火葬場に行くと言う流れだ。

お金が全く無い事を伝えると、費用は1円も掛からないし、警察にも支払わなくて良いと言う。

警察が嘘をつく訳なんて無いと思ったけど、彼の穏やかな口調を聞いてると信じてしまう。

そしてこれから行う葬儀の流れについて説明を始めた。彼の話し方はとても穏やかで、「通常の葬儀と同じ様に経を読んでお母様の魂が天に送る儀式を行います。通常は49日間の間、現世で死んだ事を自覚し成仏されます。その49日間の間だけお母様の魂は、私の方で預かり仕事を手伝って貰います」と彼は説明した。その言葉に思わず、ママはどんな仕事を手伝わされるんですか?と尋ねると、男は「別の葬儀のお手伝いです」と静かに答えた。

彼の存在自体が、この世とあの世を繋ぐかのような不思議なオーラを放っていた。

私はただ黙って彼の話を聞いた。これ以上、何も質問する気になれなかったし、何よりもこの儀式がママにとって何か意味があるのなら、それでいいと思った。


私は彼が支持した書類や印鑑と、残高の残ってない通帳を鞄に詰めて彼の黒い大きな車に乗った。きっと遺体を運ぶ用の車なのだろう。

車が走ってる間、私はふと、ママとの日々を思い出していた。喧嘩したこと、笑ったこと、一緒に過ごした日々。涙が溢れて止まらなかった。


警察に着くと車から降りて警査署の待合室に私を座らせた。受付と何やら話した後に警官2人と私の所に戻って来た。

そして、地下の遺体置き場に向かった。警察の人は彼の言う通りお金の話は一才しなかった。ただ幾つかの書類にサインしただけで済んだ。

ママの棺を車に乗せ終え、そのまま彼と一緒に市役所に行って破産手続きや母の死亡届を出した。


少しだけ日が傾いて、辺りがゆっくりと夜になり始めた頃に、家に着いた。玄関の扉には紙が張られてて、鍵は開かなくなっていた。大家さんが私が居ない間に家に入り込んで、勝手に鍵を変えたみたい。

私が途方に暮れてると、「火葬は明日ですから、今日はうちに泊まる良い。葬儀もうちで行おう」と、優しく声を掛けてくれた。


しばらく車で走り何処かの建物の地下駐車場に入った。自宅にしては大きいし、何処かの会社の中なのだろう。

駐車場の中に車が入ると、ゆっくりとシャッターが閉まった。

車から降りると、横には机やテーブルが置いてあった。彼が「そこにスリッパが有るから、きつかったら自由に履き替えると良い」と指差した先には小さな靴入れが有って、絨毯がひかれたスペースも有った。

テーブルの上に、無造作に置かれたコップなんかに何処となく生活感が有って、この地下駐車場が家?て、心配になった。

コンクリート壁の地下駐車場は、外の冷たい空気と比べると随分と暖かく、外界の喧騒から切り離されたような静寂に包まれていた。小さな電気ヒーターから漏れるぼんやりとしたオレンジ色の暖かな光が、心地よかった。

彼がカーテンの向こうに消え、私は一人で広がる静けさの中にいた。遠くから聞こえる電化製品の音と、彼が持ってきてくれた緑茶の香りだけが、この場の現実感を強調していた。彼は忙しそうに車の裏で、何かを組み立てるようにガチャガチャと音をたてながら作業を続けてた。

私はテーブルの向こうで、これからの自分の人生について考えていた。「ママはもういない。パパは昔にいなくなった。今の私には、何が残っているんだろう?」そんな思いが頭を巡り、不安と孤独が心を覆っていく。

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