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おら内地さ行くだ ー沖縄の「へそ」うるま市石川のローカル生活(31)

ある晩、石川のいつものバーで飲んでいると、店員のハヤトくんが話しかけてきました。

「俺、内地に行くことにしました」

聞けば名古屋に働きに出るとのことで、あらあらあら寂しくなるね、と一杯ドリンクを奢り、乾杯しました。

沖縄県人が転職で内地(県外)に働きに出るというのはオオゴトです。自分が生まれ育った生活や人間関係の基盤がある島から出ることになるので、家族、友人関係、住居含め、生活がまるっと変わります。

しかし県内のコンビニで無料求人誌をめくってみると、最後のページあたりに期間限定の県外求人が割と掲載されていることに気づきます。これは出稼ぎ的な仕事であり、特定の地域、企業では沖縄県人を継続的に採用し続けているようなのです。ハヤトくんが応募したのも名古屋の自動車関連の仕事でした。

これは応募する沖縄県人にとってもメリットがあります。期間限定というのは心理的なハードルを下げてくれますし、沖縄県民の採用前提であれば寮のような住環境が整っていることも珍しくありません。また同僚に沖縄県人が多いので友達も作りやすく、なんなら名古屋には沖縄県出身者の期間労働者が代々集まる沖縄居酒屋がある、というような話も聞きました。

出稼ぎ労働者の中には、例えば期間工の仕事で寮で暮らしながらお金を貯め、期間満了になると沖縄に戻ってきてぐうたらして(実家で暮らせばお金もかからない)、そしてまたお金がなくなってきたら内地に働きに出る、そんなスタイルの生活を送る人もいるそうです。その日暮らし感強めですが、それもまた人生。

まあ多くの場合は2タイプに分かれ、県外での仕事や生活が楽しくなって、そのまま沖縄に戻ってこないタイプと、沖縄の濃密な人間関係が恋しくなって短期間で沖縄に戻ってきてしまうタイプがいるそうです。これはどの地方と都市でもあることでしょうね。

沖縄県内は、観光業の他に主要な産業に乏しく、最低賃金が都道府県で最も低いなど、就労条件がよくない仕事も多いです。その影響か、石川から内地に出稼ぎに出た人は、僕が見聞きした限りで4~5名はおり、少なくなかった印象です。

あとは高校卒業/大学卒業と同時に県外に就職するパターンも一定数います。例えば琉球大学の進路資料によれば就職者のうち3割〜4割は県外就職のようですね。

沖縄の就労事情については、機会があれば改めて記事にしたいと思います。

ハヤトくんを送り出してからも、そのバーにはたまに立ち寄っていましたが、その後、僕が離沖するまでの5年間の間、彼は石川には戻ってきませんでした。連絡先も知らないので、もう会うこともないでしょうけれど、内地の水があったのかな、がんばっているかな、とたまに思い出すのです。

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