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日本でチャリティー展を開催する意義

前回記事「社会に貢献するメリット」


ヴィクトリア・ソロチンスキー個展「生命を夢見て:ウクライナと共に」は、美術館、ギャラリーやアートイベントの枠組みで、もともとプログラムとして予定され、実施するための予算が付いていたわけではない。そのため、作品制作、作品輸送、額装、アーティストの移動、滞在など展示にかかる全ての必要経費をスポンサーやクラウドファンディング、作品の販売費から捻出している。展覧会入場料の全額と作品販売費の50%はユニセフのウクライナの子供達の人道支援に寄付される。作品販売費の30%をアーティストが受け取り、20%が展示予算となる。展示を開催する費用があれば、そのまま寄付する方が良いのではないだろうか、という考え方もあるだろう。その一つの答えとして挙げられるのは、チャリティー展のポジティブな側面として、1人では寄付できない額を集めることができる、お金を寄付できないが、ボランティアすることで寄付行為に貢献することができるといったことが挙げられる。そして諸外国と比較して、日本人は寄付を募ってもお金を出すことに抵抗がある人も多い。一方お金以外の方法、例えば知的、 及び肉体的労働力であれば無償でも協力したいと思う人は多い。無償とはいえ、そこには学びや人脈など日常では得難い対価が存在することもある。時にそれはお金以上に有益な経験をもたらし、未来のチャンスにもつながる。

フランス語に「Nobless oblige (ノブレス・オブリージュ)」という言葉がある。「富めるものの義務」を意味する。持つ者は持たざる者に富を分け与え、手を差し伸べる。元々は貴族階級が負うべき義務として1800年代に提唱され、その後根付いた考え方だ。それはキリスト教の思想にも通ずる。善行により重ねた罪を軽減し、天国に行くことができるという考え方だ。善い行いをするだけのメリットが明確だ。習慣的に根付いた考え方でもある。道で座り込む浮浪者や身体障害者にお金を恵む光景は珍しいものではなく、浮浪者がことさら大げさに懇願しているわけでもなく、ただ座り込む彼らを前に、過ぎ行く人々はあたり前のようにコインを置いていく。しかし、寄付の精神はイスラム教や仏教などの宗教にも見られる。イスラム教は「六信五行」といって、六つの信じるべきことと、五つのやるべきことを定める。五行の一つが収入の一部を貧しい人に与える「喜捨」だ。

Photo by Egor Myznik on unsplash

比較宗教学が専門の中央大学総合政策学部教授、保坂俊司氏によると、どの宗教でも未来を予想して心の安定を得ようとしていることが分かるという。心の安定を得るための一つの方法が寄付なのだ。では寄付するとなぜ心の安定が得られるのか。キリスト教のカトリックや仏教では、金品の寄付の見返りに現世の罪の軽減や来世の幸福、いわゆる「救い」や「悟り」が得られると考える。宗教において寄付は「ギブ・アンド・テイク」のギブであり、テイクできるものは目には見えない「心の富」なのだという。
「欧米には、キリスト教の「持てる者が貧しいものへ分け与えるべき」という宗教上の考え方が根付いています。「隣人愛」の教えのもと、他者をも自分のように愛することを学びます。また、キリスト教では、働いて稼いだお金から、決められた割合を献金することも定められているのです。こうした背景があるため、メンタリティの奥深い部分で、「寄付が当然の行為」と理解しているのでしょう。
さらに、税制上の優遇が欧米(特にアメリカ)のほうが日本より多いことも、「古くから寄付行為が文化に紐づいている」ことによるようです。」

人口の大半が無宗教の日本ではこうした寄付文化が日常に根付いておらず、見返りを求めずに与えるということに慣れていない、それでは満たされないという印象もある。
企業のトップや著名人など多額の寄付をすることも、クリスチャンが多い欧米や韓国と比較して圧倒的に少ない。例えそれが知名度や高感度を上げることが目的でも、偽善だとしても、その寄付で助かる人がいることは確かだ。
その一方、災害の被災者や被災地には多くの人々が寄付し、義援金や支援の品々を送る。日本という災害大国に住んでいるがゆえに共感が働き、被災を自分ごととして考えているからなのかもしれない。地震や豪雨災害など、いつ自分の身に同様の災害が起きてもおかしくはないと多くの人が切実に考え、備えている。このような寄附は「お互いさま」という支え合いの気持ちと、無意識ながらも未来の自分への投資として捉えている側面もあるのかもしれない。

チャリティーイベントを開催することで、アーティスト、主催者、ボランティアなど関わる人々が利他的に行動する機会を創出する。それぞれの自己実現や承認欲求を満たすことで、ギブ&テイクの構造が成り立つ。つまり明確なメリットを享受しながら1人では寄付することのできないまとまった額の寄付金を集め、ウクライナを支援することができるのだ。

次回記事「祖国への眼差し」につづく

Special Thanks to Viktoria Sorochinski, Shinya Watanabe
Text & Photo: Riko


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