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社会に貢献するメリット

世界中でCOVID-19が感染の拡大と収束を繰り返し、私たちはウイルスとの共生の道筋を模索し続けている。
2019年12月初旬に中国の武漢で第一例目の感染者が報告されてから、わずか数ヶ月ほどで世界的なパンデミックとなった。これまでの各国の感染対策を見てみると、その国の姿勢や国民性を反映していることがよく分かる。
日本人は社会のルールをよく守る。同調圧力という言葉でネガティブに表現されることもある一方、良い面もある。
マスクを外したいけど周りの目があるから外でも着用、なるべく人には会わないよう自粛。外出先では検温や消毒など求められることはきちんと守る人が大半を占める。各国が強い規制や対策を行う中、違反者に罰金や刑罰を課すなど強制的に国民にロックダウンを強いることもなく、ワクチンと行政からのお願いで、ここまで感染者及び死者数を抑制している。どの対策も満点ではないが、及第点は取れている。及第点の積み重ねが効果的だったのだろう。日本のほかにそのような国はあるのだろうか。国民皆保険制度や、医療従事者の尽力も素晴らしい。しかしこれは、国民一人ひとりがこのような社会の同調圧力を受け入れ、公衆衛生のために努力した結果でもある。

その一方、日本では社会にマイナスを与えないことを重視しているだけで、プラスの貢献はあまり求められていない。この点は欧米と大きく異なる。欧米では、人に迷惑をかけないこと以上に、コミュニティのために行動することが評価される空気がある。例えば大学入試では試験の結果だけではなく、ボランティアや課外活動が重視される。人間性、人物像への評価割合が日本より大きいと言える。偏差値偏重教育の上に成り立つ日本の入試システムとは大きく異なる。
日本のマスク着用率が高いことにも見られるように、社会の迷惑にならない行動は自発的にとれる。しかし同じ医療の枠組みでも献血や臓器提供者が少ない現状を鑑みると、社会に対して自主的にプラスの貢献をすることには消極的、いやむしろ無関心だ。それは、宗教観や習慣的な違いだけではなく、社会の中でプラスの貢献に対する明確なメリットが構築されていないからなのかもしれない。

日本でチャリティー展を開催する意義

Opening reception of "Dreaming of Life: With Ukraine"

ウクライナと日本は地理的に遠く歴史的にもこれまで親密な関係性を築いてきたわけではない。現にウクライナと聞いて何か具体的にイメージできる人は少ないだろう。今回の侵略までこれほどウクライナという国名を見聞きすることもなかった。

ウクライナ侵攻が始まってから約3ヶ月後、5月22日に東京のギャラリーTOMでウクライナの子供たちを支援する趣旨のチャリティー展「Dreaming of Life: With Ukraine (生命を夢見て:ウクライナと共に)」が開催された。ベルリン在住のウクライナ人アーティスト、ヴィクトリア・ソロチンスキーがウクライナの村々でそこに住む人や家、ランドスケープなどを撮影した作品群《Lands of No Return(還らざる国)》と、かつてソロチンスキーがウクライナに住んでいた頃見た夢や記憶をもとに制作されたセルフポートレートの作品シリーズが展示されている。また、5月13日には昭和女子大学にて講演を開催した。今回のチャリティー展示は「ART-AID: Japan Project for Ukraine」の枠組みで開催された。2011年、スイスのバーゼルにて行った、東北支援のチャリティー展示ART-AIDの第二弾という位置付けだ。主催のアートエイド実行委員会は、代表の渡辺真也氏はテンプル大学講師のため、実行委員会のメンバーの多くはテンプル大学の学生で構成されている。

Viktoria Sorochinsky explains about the installation.

作品群はベルリンでプリントされ、ソロチンスキーは5月2日に来日した。隔離期間を経てインスタレーション制作を含め展示準備を始めた。本展で展示された《Lands of No-Return(還らざる国)》は、ソロチンスキーの祖父母が住んでいたウクライナ、キーウ近郊の村で家屋や風景、そこに住む年老いた人々のありのままの様子を撮影したドキュメンタリーである。また、Leica Oskar Barnak Award in 2017でファイナリストとなったシリーズでもある。

チャリティー展には多数の大手メディアが取材に訪れていた。誠実な記者がいる一方、日本のメディアの関心事はアーティストとしての彼女や作品ではなく、むしろ戦果の只中にあるウクライナで生まれた彼女の心情や印象を聞き出したい様子が垣間見えた。メディアが視聴者数や購買数につながるキャッチーな情報が必要なのは当然だ。しかしだからこそ、二つの国の相違点を探しフォーカスするのではなく違いの中に共通点を見出そうとすることが、対話を促進させるの鍵なのではないだろうか。

次回につづく

Special Thanks to Viktoria Sorochinski, Shinya Watanabe
Text & Photo: Riko

http://www.viktoria-sorochinski.com/

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