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最初に座った席が好き 珈琲亭ルアン

喫茶店、とくにモーニングが好き。
朝一番はまず座れる。入れないということはない。
今日はあの珈琲飲もうかな~という気持ちがふられることのない、本命だけに決めてる安心感。
だから朝に案内される席は、ちょっと特別感を得てしまう。

一人で入ってきた私をどこに案内するのか。
連れがいない、待ち合わせでもないとわかると、それではこの人はここですねと店員さんは静かに熟れた思考で私の席を決め、案内してくれる。
1秒もないだろう間に決定された(でも考えてないはずない)私に与えられた席は大抵、至極居心地がよくて、その席は以降ずっと座りたい席になる。

大森の珈琲亭ルアンに初めて行ったときは確か朝一番ではなくて、入店してすぐに見える席は全て埋まっており、あ、待つかなとおもった矢先すんなりと奥のコーナーを入った席に案内された。

入口からは見えていなかったその席は究極の端っこで、店の一番奥であり角であり、死角だった。
ソファは少し深くて、食事をするつもりだった私は少しだけ押してテーブルに近づけた。漫画だったらぼすっと効果音が鳴るようなソファだった。絶妙な距離感になった背もたれに沈み込んでメニューを読み込む。
読書のようにメニューを読むのが好きなのだけど、ルアンのメニューはドリンクパートにかなりよい文章が添えられており、ふむふむなるほどー情熱が…炎が…?!と想像力が追いつかない面白さがある。

ゆっくりとオーダーをとりに来てくれたタイミングで、結局最初から食べたかったホットサンドとウィンナ珈琲を注文した。
角に取り残された安心感、営業中の音は聞こえてくるのに、自分だけがどっかりソファに座り休みオーラを全力で出している。ものすごく心地の良い取り残され感覚だった。

常連さんが角を曲がって此方のコーナーにやってくるが、私は角に向かっているので目は合わない。ぼすんの音だけが聞こえてお互いの時間に戻る。
銀のカトラリーと塩とタバスコが先に登場し、恭しく綺麗に並べてくれる。ホットサンドが運ばれてくる。角だけど遅れることはなく、三角のパンの中のチーズは、確実にびよーんと出てくるのがわかる湯気が立っている。
最高では。最高では。
このとき私は既に相当盛り上がり悶えていた。熱いものを熱いうちに持ってきてくれる、こんな角席にも!死角席にも!!
ウィンナ珈琲も続いて運ばれてきた。
その瞬間、小さいルアンがこの角席で完結した。

絵みたいに綺麗だったけど、冷めていく(またはぬるくなっていく)食べ物が大嫌いなので、即手を出した。
溶けかかったクリームのとろとろと珈琲。予想を超えてびよーーーんとなるチーズ。
そして添え物はポテチ、しかもチップスター系の。箸休めにかじる。
おいしくて楽しくて、一度ソファにぼすっとやって落ち着いて、三角の角を攻めた。カリカリまでが完璧だった。
食べ終わっても入店からの流れを反芻してしまうほど、私はのこの時角席を堪能した。

私が一人でこんなにもこの席をエンジョイすることを見越してくれたのだとしたら敏腕がすぎる。
老舗には理由があるんだと思う。席決定の名手だ。

それ以降は、朝一番なのに、リビング的な広間を通り抜けながらそわそわと奥でもいいですか?と聞く人間になった。
あのソファに座った瞬間に、生きた、がんばった、と思って、
小さいルアン完成されるたびにそそくさと食べ始め、
ソファを定位置に戻して帰る。

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