没プロット『ミスティックキラードール』ver.3

大雨が降る中、アタッシュケースを手にレインコートを着たロゼが路地裏で壁を見上げる。
壁には大量の血飛沫。その中心に四肢がバラバラになった死体。
ロゼ「こりゃひどい。」
血飛沫が雨に流れていく。

扉。

電話で話すロゼ。
ロゼ「うん、隠蔽班(スイーパー)を回してくれる?そうだね。5人程。急造の人払いの結界は張ってあるけど陣に切り替えた方がいいね。これも人員をお願い。痕跡はすでにないね。中々に狡猾な犯人らしい。」
ロゼ「間違いないよ。魔術だ。」
『魔術』
『それは、現代まで脈々と受け継がれる異端の力。』
『火を生み、風を起こし、あらゆる奇跡を呼び起こす。』
『一般社会からは隔離され、認知すらされていないものの』
『魔術師たちは独自の文明・社会を築き』
『或いは非魔術師の世界に潜み』
『今も実在している。』

『そして、その境界を守る者たち存在する。』

雨の中歩いたロゼは喫茶店に入る。
ロゼ「待ち合わせを…」
歩み寄ってきた店員を片手で制しながら店内を見回す。

顔に傷の入ったスーツの壮年の女性が座る席へと向かう。
ロゼ「やあ、アヤメ。相変わらずの美貌だね。」
アヤメ「ふん、世辞はいいよ。座んな。」

テーブルにホットコーヒーが置かれる。
ロゼ「どうも。」
店員が去って行く。
アヤメが指を振る。2人の席の周りを薄い光のベールが覆い消える。
ロゼ「これは?」
キョロキョロと辺りを見回す。
アヤメ「最近組んだ隠密魔術だよ。ベール内の会話が外には全く違う当たり障りのない会話に聞こえる。」
ロゼ「へぇ、便利だね。」
アヤメ「無音や不認知だと不自然だからね。」
アヤメが厳格な表情のままミルクに砂糖を入れる。
ロゼ(甘そう…)
アヤメ「入国早々悪いね。それで、現場はどうだった【魔術師連盟本部直属“秘匿隊(オブスキュラス)”支部隊長】ロゼ・メレディウス・エルフォード。」
ロゼ「凄惨だね。【魔術師連盟日本支部長】アヤメ・ザイゼン。日本も中々に荒れているようだ。」
アヤメ「非所属の魔術師共だろう。邪神教徒だか妖精女王信仰だか知らないが、馬鹿げているよ。非魔術師を殺せば魔力が上がるなんてね。」
ロゼ「迫害された過去の清算なんてのもあるらしい。」
アヤメ「名目だろ。奴らの理由なんて関係ないよ。魔術師だろうが非魔術師だろうが人を殺す行為が許されるわけがないだろう。」
ロゼ「間違いないね。」
ロゼがコーヒーを啜る。
アヤメ「すまないね。毎度荒事を。情報や人員はいくらでも協力させてもらう。」
ロゼ「いやいや助かるよ。この国の魔術師は腕もいいし真面目だ。」

アヤメ「今回の犯人以外にも厄介な連中が入ってきているらしい。」
ロゼ「ほう。」
アヤメ「廻星教って連中知ってるかい。」
アヤメが指先を動かし空中に“廻星教”の文字を描く。
アヤメ「文字通り“星を廻す命運は魔術師にあり”という理念で作られた連盟非所属の魔術師で構成された組織でね。」
アヤメ「非魔術師はこの星に不要だからいくら殺してもいいってイカれた連中さ。」
ロゼ「中々過激派だね。」
アヤメ「なんでもそこの幹部が1人入り込んでいるらしい。名前や姿は不明だが“ツギハギ(パッチワーク)”って呼ばれる男でね。あんたがこっちに来る前に一家が殺されている。失踪として処理しているが、本来はそっちを追って欲しくてあんたを呼んだんだ。」
ロゼ「なるほど。それでツギハギ(パッチワーク)ってのは?」
アヤメ「人体を刻んで接合させる魔術を使うやつでね。非魔術師の一般家庭に侵入して家族を殺す魔術師さ。世界中で40件以上の事件を起こしてる。」
ロゼ「じゃあさっき見たのは。」
アヤメ「死体が刻まれていたんだろ?可能性がなくはないが、今までの殺しに比べるとあまりに雑だね。それに“ツギハギ”の殺しには1つ絶対の特徴があってね。」
アヤメの表情が険しくなる。
ロゼ「特徴?」
アヤメ「なぜだか奴は犯行に及んだ家族のうち1番幼い者を生き残らせるんだ。犯行の全てを見せるんだ。」
ロゼ「それは…」
アヤメ「ああ、今回もいるよ6歳の子供が1人生き残ってる。孤児院に入れたが記憶封印措置はまだ受け付けないね。今無理矢理使用すると壊れちまう。」
ロゼ「その子、近いうち会えるかな。」
アヤメ「いいだろう。孤児院の住所を送っておくよ。」
アヤメがスマホを取り出す。
ロゼ「ああ、スマホは苦手でね。できれば紙でくれないかい。」
アヤメがため息をつき、スマホを置いて手元の紙ナプキンとシャーペンを取り出す。
サラサラと住所を書き、ロゼに手渡す。
ロゼ「さて、それじゃあ行くよ。報告は順次電話するね。」
ロゼが立ち上がる。
アヤメ「できればLINEでくれると助かるんだけどね。」
ロゼ「ライン?なんだいそれ。」
アヤメ「もういいよ。」
ロゼ「? ああ、それと今日中にこの地域に魔術探知の結界を張るから、連盟の方で許可を出して置いてくれると助かる。」
アヤメがミルクを飲み干して立ち上がる。
アヤメ「アタシも出るよ。仕事が山積みだ。」
アヤメ「“解”」
アヤメが言いながら小さく指をふる。

レジ前に立つ2人。
アヤメ「ここは私が出すよ。」
スマホをタッチしてアヤメが会計を済ませる。
ロゼが店員に笑顔で「ご馳走様」と言っている。

店を出ながら傘を刺す2人。
ロゼ「すごいね。さっきのはなんて魔術?ピッってやつ。」
スマホを指差しながらロゼが言う。
アヤメ「アンタ…スマホ覚えなよ。便利だよ。」
ロゼ「電話できれば十分じゃない。」
頭を抑えるアヤメ。
アヤメ「それじゃあ、頼むよ。支部隊長殿。」
恭しく頭を下げるロゼ。
ロゼ「了解した。それでは。」
2人が逆歩行に歩み出す。
アヤメ(全く…天然ボケなんだか本気なんだか…相変わらず掴めない男だね。)

回想。
帰宅する少年泡。
少年泡「ただいまー。母さーん、俺、かけっこ1番だったー!」
返事がないのを怪訝そうにしながら、扉を開けて家に入る。
少年泡「母さん…?いないの…?」
リビングに入るとそこには、見知らぬ男が微笑んでいた。顔はシルエットで隠れている。
その後ろで、母親、父親、姉、が影のようなもので磔にされている。
泣きながら、何か叫んでいるが猿轡をかまされており言葉は認識できない。
少年が後退りすると、影が少年にまとわりつく。
男「家族を見捨てて逃げようなんて酷い子だ。」
男が歩み寄ってくる。
男「少年、これから君の家族をたっぷり時間を掛けて、いたぶり嬲り、犯して殺す。」
男「君はそれをただ見ていてもらう。目を閉じることも許さないし助けも来ない。」
男が指を振ると、父親の右足が捻れて落ちる。苦痛に叫ぶが悲鳴は猿轡のせいで声にならない。
少年が涙を流す。父を呼ぼうとするが、影が口元にも伸びて口を塞がれる。
男「いい苦悶だ。さて、君はその憎悪を糧に進化できるかな。」
男の手のひらが少年に迫る。

都内の孤児院。
少年泡が涙を流しながら目を覚ます。
周囲で大人たちが、心配そうに見つめている。
動転した少年泡が叫び声を上げる。

ビルの屋上に立つロゼ。
雨は上がっている。
手のひらをかざすと、流動する光の帯が手にまとわりつく。
ロゼ「このへんがマナの流れの中心点かな。」
ロゼの足元が輝き光の帯が増える。
ロゼ「【風見】【空網】。」
ロゼが念じると光の帯が波紋のように広がり空中を走り見えなくなる。
しばらくしてロゼがビルの外階段を降りる。
ロゼ「半径80キロくらいか。さすが日本、自然豊かなだけあってマナが満ちてる。」
階段を降り切ったロゼ。
ロゼ「さて。」
先程のメモを手に取るロゼ。

駅前の道。
細身の男が歩いている。
チンピラの集団が男にぶつかり喧嘩を売り出す。

細身の男がニヤリと笑う。

孤児院を訪れたロゼ。
ロゼ「すみません。こう言うものですが。」
言いながら、偽造の身分証を出す。
職員「調査員…?一体なんの?」
ロゼ「すみません。極秘ですので。」
人差し指を口元に当てる。
ロゼ「先日の一家失踪事件の残された少年に会いたくてですね。」
職員「えっと…それがですね。会話できる状態じゃなくて…」
ロゼ「構いません。一目お会いできれば良いので。」
靴を脱ぎ孤児院に足を踏み入れるロゼ。

ファンシーな様相の部屋で子供たちが遊んでいたり、ロゼの方を不思議そうに見ていたり、
思い思いの行動をする子供たち。入り口では先程の職員が不審そうな目でロゼの背を見ている。
そんな中で、1番奥の椅子に少年が腰掛けている。
心ここに在らずといった様子だ。
ロゼ(これは…心が壊れてしまっている。よほど酷い目にあったのか。)
ロゼ「少しいいかな。」
泡「………」
泡は虚空を見つめたまま反応しない。
ロゼ(会話は難しいか…)
ロゼが泡の頭に手をかざす。
ロゼ「【共】。」
ロゼの手にふわりと力場のようなものが生じる。
ロゼ、泡の目線で先程の回想を見ている。
しかし男の姿はノイズがかかったように見えない。

男「いい苦悶だ。さて、君はその憎悪を糧に進化できるかな。」

男の言葉が響き、その後の惨状がロゼの頭の中に流れ込む。
ロゼ「これはひどい…」
泡を見るが、反応はない。
ロゼが泡の頭に触れる。
ロゼ「辛かったろう。家族を、君を守ってあげられなくてすまなかった。」
ロゼ「家族の仇は必ず討つよ。」
優しい表情のロゼ。

ロゼが踵を返す。厳しい表情へと変わっている。
ロゼ(彼から魔力の痕跡は感じられない。それどころか自分の顔に記憶の封印措置まで掛けいるとは。)
ロゼ(それに進化という言葉…目的は一体…)
その時、ロゼの魔術探知が、魔術の使用を捉え空気が震える。
ロゼだけがそれを感じ取る。

先ほどの細身の男が魔術でチンピラたちを切り刻んでいる。
魔術師の男がロゼの張った網に気づく。

ロゼ「ちょっと早すぎないかなぁ!!?」
職員「お帰りですか?」
ロゼ「ええ、すみません。急用が出来まして…!」
職員もそのあとを追う。
職員「待ってください!門までお送りします!」

その背中を先ほどまで虚空を見つめていた泡が目を見開いて見つめていた。

孤児院前。
少し離れたところで立ち止まり、職員に向かって振り返る。
ロゼ「職員さん、今彼に必要なのは安らぎと目的です。それがあれば彼も立ち直れる。今はまだ言葉は届いていないかもしれませんが、時間を掛けてケアしてあげてください。」
職員が返事をする前に、「それでは!」と慌てて駆け出すロゼ。
職員「あ…ちょっと!」
気にせず掛けていくロゼを見送りながら、伸ばした手を所在なさげに下げる。
職員「なんだったのもう…」
言いながら院内に戻り、先ほどまで泡が座っていた席を見るがそこには誰も居ない。
疑問を浮かべる職員。

人気の無い路地で息を整えるロゼ。
ロゼ「ふー…」
風を読むようなしぐさをみせるロゼ。
ロゼ「ふむ、【風見】による探知と【空網】による捕捉どちらもうまく作用しているようだ。」
ロゼ「位置は…」
言いかけたところで目を開き、上空を見つめる。
そこには先程の細身の男が浮いていた。
ロゼが軽く地面を蹴ると身体が宙へと浮き上がる。
するとロゼの身体が浮き上がり、細身の男と同じ目線まで浮き上がる。
ロゼ「逆探知できるレベルの魔術師で安心したよ。でもまさか、そっちから来るなんてね。」
魔術師「…あの程度の網しか張れない魔術師であれば敵じゃないと思ったもので。」
魔術師「連盟の者か?」
ロゼ「ああ、そうだよ。魔術連盟本部…」
魔術師「名乗る必要はない。」
魔術師がロゼの言葉を遮る。
ロゼ「そうかい?」
魔術師「無能者に与する連盟の腑抜け共の名など私には不要だ。」
ロゼ「腑抜けねぇ。」
魔術師「2000年以上も続く恩讐を忘れ、自ら隠れ潜みながら生きることを選んだ魔術連盟が腑抜けでなくてなんだというのだ。」
ロゼが、ため息をつく。
ロゼ「そんなモノに縋ったところで世界は変わらないよ。」
魔術師「変わるさ!無能者も連盟も私が滅ぼしてやる!そのために私は力を磨くのだ!無能者の矮小な命を糧にしてな!」
ロゼ「させるわけがないだろう。」
両者の周囲を魔術の渦が包む。
魔術師「【風】【刃】!!」
魔術師が右手を振るうと十字の斬撃が飛ぶ。
ロゼ「【空壁】。」
ロゼの正面に防壁が現れ、斬撃をかき消した。
ロゼ「【風見】変転【風凪】、【空網】変転【空却】」
ロゼの魔術が周囲に広がる。
魔術師「変転…?聞いたことのない魔術だ。」
ロゼ「気にしなくていいよ。マナへの命令を書き換えただけだ。ゼロから組むには時間がかかるからね。君を捕捉するための魔術をこちらの認知を阻害する魔術に書き換えたんだよ。」
魔術師「ほう、腕は立つようだ。貴様、こちら側に来ないか?」
ロゼ「冗談だろ?ああ、あと最後に聞いておきたいことがあったんだ。『継剥(パッチワーク)』って魔術師のことは知ってるかい?」
魔術師がピクリと反応する。
魔術師「…彼に何か用か?」
ロゼ「今回の僕のターゲットでね。知っているのなら情報をくれると助かる。」
魔術師「貴様!!!」
魔術師が急に激昂する。
魔術師「あのお方を狙うなどと烏滸がましい!貴様程度が敵うはずがないだろう!それにあのお方はすでにこの国を去られた!」
ロゼ「そうかい。情報ありがとう!」
魔術師「貴様!狡猾な…!」
ロゼ(勝手に喋ったくせに…)
ロゼ「見た目の特徴とかも聞きたいんだけど。」
魔術師「話すわけがないだろうが!魔術による記憶干渉も無駄だぞ?何せ私は氏の姿を見たことすらないからな!」
ロゼ「つまりただの信奉者(ファン)ってわけかい。もしかして非魔術師を殺すのもそれが理由?」
魔術師が風の刃を飛ばす。難なく防ぐロゼ。
魔術師「…舐めるなよ?」
ロゼ「問答は終わりにしようか。君からはもう情報は得られなさそうだ。」
魔術師「魔術王に祈る間をやろう。」
ロゼ「生憎と異教の王には祈らないよ。」
ロゼが手を前に出す。
ロゼ「【空掌】。」
魔術師に向かって空気の壁が飛び、魔術師が上空へと押し上げられる。
舌打ちをしながら魔術師が懐から30センチほどの木の棒を取り出す。
ロゼは魔術師に向かって、空中を飛ぶように移動しながら傘を構える。
呪文と同時に空気の塊がぶつかり合いながら、双方空中を縦横無尽に飛び回る。
魔術師「風の魔術師である私相手に空中戦とは!!刻んでくれよう!!」
魔術師が起こした風をロゼがいなし、ロゼが放った魔術を魔術師が打ち消す。
ロゼの額を汗が伝う。
ロゼ(コイツ…惚けているが腕は立つ…!)
そんなやりとりを数度繰り返したのち、魔術師が空高くへと飛び上がった。
魔術師「どうした!?息が上がっているぞ!!あれほど大規模な探知魔術に防御魔術、魔力の限界ではないか!?」
ロゼ「…そんなことはないよ。」
魔術師「そうか!ならばこれも受けられるよなぁ!!」
魔術師の持つ杖の先から、半径10メートルほどの巨大な球が浮かんでいる。球の中には風の斬撃が渦巻いている。
魔術師「我が最大の魔術は炸裂し、広範囲に風の刃を撒き散らす!!躱せば」
魔術師「【風】【刃】【玉】!!!」
ロゼ「……!!」
ロゼが傘を正面に構えながら防御の構えを見せる。
ロゼ「【空壁】【重】!!」
空気の壁が数枚折り重なる。
ぶつかり合うと同時に、風が炸裂する。
必死の表情でロゼの防壁が受け止める。

目下を歩く人たちに突然強い風が当たる。しかしそれは、ビル風程度の威力で通行人たちは目や髪を押さえる程度で、足を止めることもない。

ビルの屋上にロゼがほとんど落ちるように着地する。
大きく肩で息をする。

その正面に魔術師がゆっくりと着地する。
魔術師「あれを防ぐとは…やるな。」
ロゼ「…どうってことないよ」
余裕の表情の魔術師に対して、限界といった様子のロゼ。
魔術師「守るものが多いと大変だな。」
魔術師がロゼに向けて杖を構える。

その時。
魔術師の背後から少年泡が飛びかかる。
手にはガラスの破片、足は素足のまま血が滲んでいる。
直前で気がついた魔術師がすんでのところで避けようとするが、肩にガラスの破片が刺さる。
悲鳴をあげる魔術師。
魔術師が杖を振るうと風が吹き少年泡がフェンスに叩きつけられる。
魔術師「なんだ小僧!!?何者だ!!コイツの仲間か!!?」
泡「お前が!!お前が!!俺の家族を殺したのか!!!?」
泡が地面に臥しながら大声を張る。
魔術師はその気迫に気圧される。
その背後から衝撃波が飛び、魔術師の腹に野球ボールほどの穴が開く。
ロゼ「卑怯な手ですまないね。」
魔術師が口から血を吐き力なく倒れる。
その様子を見てロゼがずるずると地面に倒れ込む。
ロゼ「あー疲れた…」

その向こうで、泡がふらふらと立ち上がっている。
ロゼ「ああ、君助かったよ。どうしてこんなところに?」
少年泡「お前を追いかけてきたんだ!みんなを殺したやつを知ってるって言ってたから!!」
少年泡「それなのに!!何勝手なことしてんだ!!俺の仇だったのに!俺が殺すんだったのに!!それになんだよお前ら!!空飛んでやがった!!化け物め!!」
ロゼ「…落ち着きなよ。コイツは君の家族の仇じゃない。ああ、記憶抜かれてるんだったね。僕は…まぁ同じ魔術師だけど君たちの味方だよ。」
少年泡「魔術師だと…!!?それが俺の家族を殺したのか!!?そんなわけわかんねぇ奴らどうやって殺せばいいんだよ。」
ロゼ(…まずったなぁ。)

少年泡が地面を殴りながら、泣き喚く。
少年泡「くそお…父さん…母さん…姉ちゃん…!!」
その様子をしばらく見るロゼ。
意を決したようにロゼが口を開く。
ロゼ「この魔術師はハズレだったけど、コイツも魔術師でない人間を殺して回っている悪い魔術師だよ。僕はそいつらを裁く立場にいる。その内、君の家族を殺した相手も敵の1人だ。」
少年泡がロゼの方を見る。
ロゼ「君、僕に雇われないかい?実はしばらくこの国を拠点にするんだけど、人手がたりなくてね。」

フラッシュバック。
ロゼ『今彼に必要なのは、安らぎと目的です。』

ロゼ(安らぎ…は無理かもしれないが、目的なら…)
ロゼ「復讐する力だって教えてあげられるかもしれない。君に素質があればだけど。」

少年泡「お前ら化け物の力なんかいらねぇよ!!俺が勝手にそいつらに復讐する!!魔術師なんて俺が滅ぼしてやる!!」
少年泡「でも、お前は人を殺さないんだな?」
ロゼ「もちろん。」
少年泡「だったらお前は最後に殺してやる。それまでは俺がお前を利用してやる。」
ロゼが噴き出す。
ロゼ「ははは…いいよそれで。」


時間が飛んで8年後。
東京の街並み。
ビルを飛び回る人影。

公園の真ん中で電話をしているロゼ。
ロゼ「アヤメかい?ああ、もうすぐカタがつくよ。」

魔術師が周囲を気にしながら、怯えた表情でビルの間を飛び回っている。
魔術師「ちくしょう!!聞いてねぇぞ!!」

ロゼが上空を見上げる。
ロゼ「ああ、僕だって予想外さ。」

見上げた先には、先ほどの魔術師。その横から成長した泡が飛びかかる。
その首をナイフで貫き、横のビルへと着地する。そのままビルの壁面を跳ね、ロゼの前に着地した。

ロゼ「まさか本当に、魔術を一切覚えることなく、身体能力だけでここまで強くなるなんて。」
泡「オラァ、一丁あがりィ!!」

『魔術』
『それは、現代まで脈々と受け継がれる異端の力。』
『火を生み、風を起こし、あらゆる奇跡を呼び起こす。』
『一般社会からは隔離され、認知すらされていないものの』
『魔術師たちは独自の文明・社会を築き』
『或いは非魔術師の世界に潜み』
『今も実在している。』

『そして、その境界を守る者たち存在する。』
『これは絶大な力を持つ魔術師に、魔術を用いずに戦うことを選んだ少年の物語。』

『ミスティック・キラー・ドール』

(第一話 了)










































魔術による犯行として連続飛び降り自殺の犯人を追うロゼ。
魔術の解説、あり方を説明。
同時に魔術による殺人事件の被害者が1人行方不明になった。
犯人と対峙。
魔術戦を繰り広げる中、突然の乱入。
包丁を持った幼い泡。恨みが篭った目。
魔術師に襲い掛かるが、一蹴に伏される。
ロゼがその隙をついて魔術師を倒す。
飛びかかってきた泡を止め、泡の目を見る。
僕の助手にならないか?魔術師を殺す術を与えてあげよう。
ロゼの言葉に泡の目にわずかな光が宿る。

数年後、
成長した泡が魔術師と対峙している。
ナイフを一振りに魔術師を殺す。
あれは魔術を教えてあげようって意味だったんだけどね。
まさか、魔術を使えないままあそこまで強くなるなんて。

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