見出し画像

実録ひとり飲み 五感ver.

たまにひとりで集中して五感を最大限に稼働かつ開放させることが好きだ。たいてい、というかいつもそれを飲み屋でやる。だからひとりで飲むのが好き。
お値段や立地で頻繁に行けないところもあるけれど、勇気を出して開けた引き戸から始まる小さな支流たちがモルダウのメロディのように大河へと統べられていくさまが滑らかにどんぴしゃだと、偏愛というか恋に落ちるレベルで好きになって通うようになる。そんなところで落ちてないで、人を見ろよ伴侶を探せという話は置いときます。

昨日、早い時間から好きな飲み屋に行けたので=長い時間飲めるので、天寶一の常温をちびちびやりながら、五感で何を得ているのか改めて考えてみた。

触覚。
靴を脱いで畳を踏む、足裏を包むふにゅっとした硬さ。座布団と腰との相思相愛ポジション。おしぼりは気持ちのいい熱さ。手渡される徳利とお猪口モチーフの箸置きは適度に冷えている。少し長めで細いざらっとしたお箸。お通しの鉢は熱い時もあるから用心して両手で受け止める、あ、あったかい汁物。

視覚。
店主の作務衣はいつも絶妙な色合い、紺でなく藍だったり紫紺。カウンターは年季が入っているけどきれいに磨かれた明るい木の色、あ、だから作務衣のくすんだ色がいいのかも。目をあげた高さに積まれた小鹿田焼きの六寸皿と八寸皿、基本色はカーキとグレーなんだけど濃度を変えて色々揃えている。右隣の人は初来店ぽい、店主への注文タイミングをはかっている。左隣の人は燗と焼き茄子。角の女性2名が使っている徳利は2合のやつかな、初めて見た。

嗅覚。
天寶一のからっとしているのに甘さのある薫り。左隣の人の焼き茄子にかかる削り節、茄子の水分を含んだ芳ばしさ。カウンターの向こうで衣と油が絡まっている。右の人は牛もつ煮込み、気温が下がったから味噌の風味と温かさにそそられるよね、迷う。そして洋食っぽいこの匂い、そんなメニューあったっけ今夜、とお品書きを見直そうとしたら2つ右隣に座る店まで徒歩30秒のおじさまにジャーマンポテトっぽいもの。

味覚。
酢の物に紫蘇の実、ぷちぷちした酸味、くせのある爽快感、丁寧な薄切りの胡瓜がワカメとよくなじむ。アジフライに三ツ矢ソースとタルタル、混ぜて酸っぱさの伝播、さくさくパン粉とふっくらしたアジの身をはふはふする幸せ。パクチー春巻き、皮のぱりぱりは冷や酒に合わせたいからお酒追加。左の人が冷やでしか飲んだことのない花垣を燗で頼んでいたので一口いただいた、甘さとまろやかさで角がないのにパンチがある変な感じ。

聴覚。
油がはぜる。フライパンとフライヤーの違い。ちろりを引き上げる時に横どうしがかすかに当たる。ビールの栓を抜く。うすはりに氷が触れる。タッパーのふたが開く、閉まる。冷蔵庫の扉が開く、閉まる。日本酒の口開け。注がれる。大皿を下から出す時に上のお皿たちが揺れる。流しに水が流れる。食器が磨かれる。店主が呼ばれる。石垣島の話が始まる。テレビでサザンが流れて店主歌い始める。サザン絡みの思い出。戸が開いて雨音を聞く。

ぼーっと飲んでいるようで結構忙しい。言語化できるのはほんの一部だし、私の五感はよく働いてくれている。いつまでもこの愉しみを味わえるよう、頑張って働きなさいよ、よろしく。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?