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「空のにほひに溶けだしてみた」(黒川かおる・朧)

黒川かおるさんと朧さんのネットプリント「空にほ」こと「空のにほひに溶けだしてみた」を読みました。
ネプリの感想はTwitter(X)で呟くことが多かったのですが、気が向いたらnoteに残したいと思います。その第1回目です!

なんといってもタイトルに惹かれてしまう……旧かなの雰囲気もあいまって、空の匂い(どんな匂いなんだろう)に、わたしもあなたもゆるゆるとほどけていく感じ。いいなあ。
冒頭歌にあるように、お互いに曲を交換して、それに対する連作をつくるというわくわくな企画。

朧さんから黒川さんへの曲は山口百恵の「さよならの向う側」。山口百恵、良いですよね……めっちゃ好きです……しとやかな声が切ないメロディに載せられて、胸のとおくまで沁みてくるような感覚がたまらない。どの曲もイントロから心を掴まれてしまうのですが、この曲もそうでした。
黒川さんの連作は、この歌のテーマであるさよなら、を自由に伸ばして編まれていて、聴きながら読むと一層さみしさが増す。でも、別れのかなしさだけではなくて、主体「わたし」の芯のようなものが見えてとても魅力的でした。

わたしという管を満たしてゆきながら意味をくれないあなただったね

ある夜/黒川かおる

「わたしという管」にまずおどろかされ、そして惹かれます。「あなた」という存在が液体のように「わたし」のすみずみにまでゆきわたっていたのだと想像する。それでも「意味をくれない」人だった、というのがかなり重く響きました。一緒にいる意味、出会った意味、あなたがあなたであってわたしがわたしてある意味、みたいな。どんどん深まる傷のような歌で印象に残りました。


黒川かおるさんから朧さんへの曲は、欅坂46の「黒い羊」。坂道グループはあまり詳しくないのですが、欅坂はよく聴いていたときがあった。PVも含めて、見入るととまらないんですよね。「二人セゾン」っていう曲にすごくハマった時期、ずっとループしていたのを思い出しました。「黒い羊」もやっぱり刺さってしまった……くらやみのなかでもがきながら、「黒い羊 そうだ僕だけがいなくなればいいんだ」っていう歌詞がまっすぐに尖る。
朧さんの連作はこの曲の世界観をのみこんだうえで、またつくりあげているところに強い魅力を感じた。主体が「少女ら」を先生として統制しつつも、最後には自分が「黒い羊」になって彼女たちを解放する展開にぐっときます。

電流の焦がしゆく手のなつかしく黒い羊へわたしは戻る

黒い羊/朧

最後から2首目の歌。1首目に「電流に守られてゐる少女ら」という描写があるから、この電流を越えようとすれば傷を負ってしまう。なつかしく思うのが「手」という点に、差し伸べられた/差し伸べられるイメージが浮かぶ。主体は本来の自己をうしなわない「黒い羊」に戻って、自分を犠牲にしてでも少女たちを守ったのでしょうか。まさに曲そのものが再結晶されたストーリーを感じた1首でした。


連作のあとにもお二人のやりとりが続いていて、お互いに対する深い敬愛のようなものを感じつつ読みました。素敵なネットプリントをありがとうございます!
ちょうど同時期に早月くらさんと出させていただいたネットプリントが、文字サイズみっちりに仕上がったので、空にほの文字の大きさと比較してうふふ、と和んだりしていました。勝手にすみません。読みやすかったです。

贈り合った曲に対して作品をつくるの、やってみたくなりました。曲選びの段階から楽しそうだなあ。芸術という分野にはやはり、それぞれに親和性があるのだなあという拡大大雑把適当解釈を垂れて、終わります。

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