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一日一書評

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ジャンル問わず800字程度の書評を上げるマガジン。漫画は一巻のみの解説とする。2019/8/21より更新スタート。
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2019年9月の記事一覧

一日一書評#41「バーボン・ストリート・ブルース/高田渡著」(2008)

「バーボン・ストリート・ブルース」は、フォークシンガー・高田渡さんの自伝である。高田渡さんは、1969年にレコードデビューし、その後40年間全国各地で歌ってきた。本作は、高田さんの半生が綴られている。 貧乏だった幼少期、フォークソングとの出会い、レコードデビュー・・・様々な出来事が、高田さん自らの手で淡々と書かれている。特に幼少期は夜逃げを経験するほどの生活だったが、「貧乏を知っているのはいいが、慣れ親しむな」という父の言葉を受け入れ、前向きに生きていた。そのせいか、文章か

一日一書評#40「下戸の夜/本の雑誌編集部 下戸班編」(2019)

意外に思われるかもしれないが、俳優・植木等は下戸だったらしい。そんな知られざる情報が書いてあるのは、本の雑誌編集部の下戸班によって編集された「下戸の夜」という本だ。 酒飲みから見た下戸の生態や、下戸による酒飲みへの反論などが様々な視点で書かれている。まさに下戸の下戸による下戸のための本だ。世間には、お酒にまつわるエピソードや歌で溢れている。しかし、それらに感情移入出来ない人間も大勢いるはずで、私もその一人だ。私は酒が一切飲めないので、書かれている下戸の言葉に終始共感しながら

一日一書評#39「僕に踏まれた町と僕が踏まれた町/中島らも著」(1997)

その文章からは、生き様が見られる。エッセイと呼ぶには重く、自伝と呼ぶには少々面白おかしい。人生の酸いも甘いも、存分にさらけ出している。 「僕に踏まれた町と僕が踏まれた町」は、中島らものエッセイ集だ。様々な話が収録されているが、メインとなるのは高校から大学時代にかけてのエピソードだ。モラトリアムの期間を、悪友たちと駆け抜けた日々は、読み手を笑わせると同時に、暗然とした気持ちにさせる。 本作に収録されているエッセイは、どれも短い。2~3ページの中に、濃縮されたエピソードが詰ま

一日一書評#38「世界の果てのビートルズ/ミカエル・ニエミ著・岩本正恵訳」(2006)

「世界の果てのビートルズ」の著者、ミカエル・ニエミさんは、スウェーデン最北端の村で生まれた。本書は、人口900万人のスウェーデンで、75万部のベストセラーとなった。 ミカエルさんの自伝的小説である本作は、主人公である「ぼく」の成長する姿を描いている。舞台となっているのは、北極圏にあるスウェーデン最北端のパヤラ村だ。何もない閉鎖された空間で、友人のニイラと共に過ごした日々は、楽しくもあり、美しくもある。 超がつくほど田舎であるパヤラ村には、人生を変えるような刺激は無かった。

一日一書評#37「注文をまちがえる料理店/小国士朗」(2017)

2017年6月、とあるレストランが2日間だけプレオープンした。そこは、認知症を患った人が働く「注文をまちがえる料理店」という名前のレストラン。発案者の目論見としては、ひっそりとしたプロジェクトになるだろうと考えていた。しかし、「注文をまちがえる料理店」は、SNSで拡散され、反響を呼んだ。私も、当時Twitterでその存在を知った者の一人だ。 本書は、「注文をまちがえる料理店」の企画を立ち上げ、実現するまで、そしてプレオープン時に起きた出来事を中心に構成されている。 小国さ

一日一書評#36「本当はちがうんだ日記/穂村弘著」(2008)

自分のダメな部分をさらけ出せる人を無条件で尊敬している。特にエッセイにおいては、自分の恥や失敗を書くことで、文章の面白さが増す上に、自らを強くすることが出来る。今回紹介する本も、著者の情けない部分が前面に出た、素敵な作品となっている。 「本当はちがうんだ日記」は、歌人の穂村弘さんが、自らの日常を描いたエッセイ集だ。穂村さんは、身の回りで起きた些細な出来事を、独自の目線で描いていく。その独特な感性から生まれた文体は、奇をてらっているわけでもないのに、グッと引き込まれて、印象に

一日一書評#35「お釈迦さま以外はみんなバカ/高橋源一郎著」(2018)

SNSの発達により、誰でも簡単に面白かった本を人に紹介することが出来るようになった。私もこうして書評を毎日書いているし、月に一度は本好きの集まりに顔を出し、良かった本を紹介している。 作家の高橋源一郎さんは、2012年から「すっぴん!」というラジオ番組のパーソナリティを務めている。3時間半の生放送の中には、「源ちゃんのゲンダイ国語」というコーナーがある。高橋さんはそこで、毎週一冊の本を紹介している。本のジャンルは、エッセイ、旅行記、ルポルタージュなど様々だ。その口頭で行う書

一日一書評#34「ないもの、あります/クラフト・エヴィング商會」(2009)

この本の存在を知った時は、勝手に「やられた!」と思った。発想一発勝負の構成に、表現の豊かさが加わり、非常に面白い一冊となっている。 「ないもの、あります」は、著作と本の装丁を多く手掛けるクラフト・エヴィング商會によって書かれた、全125ページの本だ。ちなみに、本作もクラフト・エヴィング商會がカバーデザインを担当している。 タイトルの「ないもの、あります」とはどういう意味か。まず、この本において、クラフト・エヴィング商會は架空の店だ。「ないもの、あります」の看板を掲げ、言葉

一日一書評#33「横道世之介/吉田修一著」(2012)

ふと、自分のこれまでの人生を冷静に振り返ってみる。今考えると、大学生活は特別なことばかり体験できる貴重な時間だった。そこまで特殊な環境に身を置いていたつもりは無いが、周りには初めてのことで溢れていた。楽しかったの一言では片付けられない何かがそこにはあった。 吉田修一さんの「横道世之介」は、大学進学のために上京した、18歳の横道世之介の、様々な人との出会いや経験を描いた青春小説だ。 大学入学からの1年間を描いた本作は、はっきりとした軸となる事件が少ない。強いて言えば、与謝野

一日一書評#32「メタモルフォーゼの縁側(1)/鶴谷香央理著」

本を読んでいると、死ぬまでに何冊読めるだろうかと思う時がある。年を取るにつれて、読む本のジャンルも変わってくるのだろうか。何歳になっても、新たなジャンルの本との出会いを楽しいものとして受け入れることが出来るだろうか。 鶴谷香央理さんの漫画「メタモルフォーゼの縁側」の主人公は、75歳の老婦人・市野井雪と、17歳の書店で働く高校生・佐山うららだ。ある日市野井は、佐山の働く書店に入る。偶然見つけた綺麗な表紙に惹かれ、料理本と一緒に漫画を購入する。その漫画本は、BL作品だった。そこ

一日一書評#31「アンソロジー 捨てる/大崎梢他」(2018)

「アンソロジー 捨てる」には、「捨てる」をテーマにした短編小説が9本収録されている。本作の表紙には、参加した9人の人気女性作家の名前と共に、〈アミの会(仮)〉という文字が並んでいる。このアミの会(仮)というのは、この9人の集まりの名前で、若手作家の集まりである「雨の会」へのリスペクトから付けられたそうだ。会の目的は、集まって食事をしたり、アンソロジーを出したりすることだ。 アンソロジーを読んで、毎回すごいなと思うのは、同じテーマで書かれた文章なのに、内容が似通ったものになら

一日一書評#30「昨日、今日、明日/曽我部恵一著」(2009)

数年前、島根の音楽イベントにボランティアスタッフとして参加したことがある。駐車場整理の合間にライブを見て、楽しい思い出を作った。物販コーナーでは、出演者自ら接客を行い、お客さんと交流をしていた。物販コーナーに立っていたミュージシャンの一人に、曽我部恵一さんがいた。休憩時間、私は曽我部さんの姿を確認して、列に並び、CDを購入した。ジャケットに書いてもらったサインの写真は、私のLINEのアイコンになっている。 曽我部恵一さんは、1992年にサニーデイ・サービスを結成し、1994

一日一書評#29「6時27分発の電車に乗って、僕は本を読む/ジャン=ポール・ディディエローラン著・夏目大訳」(2017)

今回紹介するのは「6時27分の電車に乗って、僕は本を読む」という本だ。著者のジャン=ポール・ディディエローランはフランス在住の作家で、過去2回、短篇でヘミングウェイ賞を受賞している。本作は、著者の長編デビュー作となる。 主人公のギレン・ヴィニョールは、本を処分する断裁工場で働いている。本を死に追いやる毎日は、とても楽しいとはいえない。断裁機から救い上げた、断裁されなかったページを通勤電車で朗読し、成仏させるのが日課だ。読み上げるのは、物語も脈絡もないページたちだが、乗客は喜

一日一書評#28「ゴーゴー・インド/蔵前仁一著」(1986)

「ゴーゴー・インド」は、著者の蔵前仁一さんのデビュー作となる旅行記で、その名の通りインド旅行の模様が綴られている。本作では、蔵前さんが描いたイラストや写真を交えて、インドを様々な側面から紹介している。 ある時蔵前さんは、インド好きの友人の話を聞く。友人曰く、インドの何が良いとははっきり言えないけど、行ってみれば良さがわかるとのこと。物乞いや泥棒が多く、下手すれば病気にもなるし、死ぬほど熱くて汚い。そんな国でも、また行ってみたくなるそうだ。それを聞いた蔵前さんは、インドへ行く