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きっと忘れてしまう

別居のための荷造りをしていた元夫が「こんなのが出てきたよ」と苦笑しながら渡してきたのは、私の20代の頃の手紙や日記が詰まった箱だった。
日記には、元夫と出会った日から付き合った日、初めての旅行についてなども詳細に書かれており、「こんな時もあったんだね」と言いながら読み上げた私の心はその時、やっぱりどこか壊れていたのかもしれない。

そんな中でも心が動いたのは、元夫の前につきあっていた恋人についての日記だった。2年ぐらい付き合っていたと記憶していたけれど、実際の交際期間は、なんと半年!
片思いをしていた期間が2ヶ月ぐらい、2人だけで会うようになり思いを打ち明け合うまでの期間が2ヶ月ぐらい。お互いの友達に紹介し合ったりしてきちんと「彼氏・彼女」として付き合っていたのが半年。その後、別れる別れないと揉めていたのが2ヶ月ほどあり、彼のマンションの合鍵を返したくなくてそれを口実に何度も呼び出したり、逆に向こうが突然、夜中に私の部屋を訪ねてきていたりしていたのがなんと、まる1年にも及んでいたのだった。あくまで、自分が書いた日記によれば。
確かに関係があったのは2年ぐらい。でも、恋人として付き合っていた期間よりも、だらだら関係を続けていた期間の方が長かったこと、それを忘れてしまっていたことがショックだった。自分の中で「大切な、忘れられない人」として存在していたはずの恋人だったのに。当時の日記を読んでみると、どのエピソードも、ああ、そんなこともあった、そうだったような気がするけど……と漠然としている。「忘れられない」どころか、完全に忘れてしまっている。

元夫との離婚の話し合いの中でも、お互い過去の不満をぶつけあって記憶が食い違い、当時のLINEのやりとりから真実を知るということが何度もあった。普段から忘れっぽい私だけではなく、向こうにもかなりの記憶違いがあった。やはり人は、自分の都合のいいように、そして過去を美しく彩るように、記憶を改ざんし、また忘れていくのだと思う。

今年は本当にいろいろなことがあった。ミニシアターで上映されるような主婦の鬱屈したストーリーが、急にアクション超大作に変わってしまったような、激動の年だった。でも、こんな年のこともきっと、思い出すその時の自分の都合に合わせて書き変え、忘れてしまうのだろう。

来年は再び「日記」を書いてみたいと思っている。note上でも日々のことを綴ることに挑戦してみたい。未来の自分に真実を告げられるように。そして「こんなこともあったね」と読み上げるその日の自分とそれを聞く相手には、どうか笑顔でいてほしい。

#今年のふり返り

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忘れられない恋物語

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